第22話 新兵器


 翌日の昼。


 練兵場に集まった、総勢1400人の冒険者と志願兵たちの前には、雑兵用の鎧兜をかぶった、等身大の陶器人形が立っていた。


 アルベルトが、竹を振りかぶり、粘土の詰まった重たい先端を振り下ろした。


 すると、竹は大きくしなり、運動エネルギーを溜めてから、バシィィイイイイン、と音を立て、陶器人形の頭を叩いた。


 誰もが、『竹で金属兜を叩いてどうするんだよ』と呆れた。


 けれど、アルベルトが竹を引くと、陶器人形の頭がごとりと落ちた。首は粉々だ。


 900人の眼が丸く固まる中、アルベルトは説明した。


「堅い装甲が守れるのは刺す斬るだ。衝撃は殺せない。吟遊詩人も謡っていただろ? 俺がルビードラゴンを岩の下敷きにして弱らせたって。首ごと守るフルプレートでも、脳震盪は免れないだろうな」


 何人かが、自分の頭と首に手を当て、青ざめた。


「あの、ですが大公殿。お言葉ですが、そんな長くて扱いにくいものを、どうやって相手に当てるのですか?」

「それは簡単だ。槍を使うDランク冒険者はいるか?」


 一人、背が高くてガタイのいい男が挙手した。


「お前、槍を構えてそこに立っててくれ」


 言われるまま、男は愛用の槍を構えた。すると、彼の前に、6メートルの竹を振り上げた少女5人が、横にずらりと並んだ。


「来れるか?」

「ッッ」


 男は圧倒された。射程に入ると同時に、アレが降り注ぐのは目に見えている。


 しかも、横一列に並んでいるので、左右には逃げられない。


「ですが、振り下ろされてから背後に避け、空振りしたところを跳びかかれば!」

「なら第二陣を用意するだけだ」


 あらたに五人の少女たちが二列目に並び、今度は槍を水平に構え、少女と少女の間から竹を突き出した。


「先端に刃もついていない竹など恐れるものか!」


 男は、意気揚々と突撃した。


 五本の竹が、同時に突き出される。


 男は、得意の槍で一息に二つの竹を弾いた。が、残る三本が胸板、腹、フトモモを直撃した。


「おふぅっ!?」


 息を詰まらせて、仰向けに倒れた男が見たのは、今にも振り下ろされそうな、五本の竹だった。


「まいった!」


 脊髄反射で降参した男に、誰もがこの竹の威力を思い知った。


「次は連弩の説明だ。Eランククエストを受けた奴と弓兵希望者にはこれをやって貰う」


 アルベルトがストレージから取り出して見せたのは、ボウガン、弩のようなものだった。違うところは、前後に動かせるレバーと、令和日本で言うところの、機関銃のマガジン、弾倉のようなものが上についている。


 アルベルトが、レバーを前後に動かすと、それだけで、矢が弾丸のように放たれ、一発ごとに陶器人形が欠けていく。


「こいつは連弩(れんど)って言って、レバーを前後させるだけで矢を撃てる昔の武器だ。木製の弓床、弾倉、レバー、竹製の弓の四つのパーツからできていて構造が単純で量産しやすい。廃れた理由は命中率が低いから。矢の消耗が激しいから。だけど、横一列に並んで一斉射撃をすれば命中率は飛躍的に上がる。矢はFランククエストで山ほど矢を用意しているから尽きることはない。その代わり、金属の矢じりが無い、ただ竹を斜めに切っただけのものだがそれでいい。革製鎧相手なら十分だし、金属鎧相手でも、鎧の隙間に当たったらヤバイものがバカみたいに連射されるんだ。怖くて十秒だってその場にいたくなくなるよ。こいつは雑兵を脅かして逃げさせるためのものだ」


 冒険者と志願兵の間から、「凄い」と歓声と感嘆の声が漏れた。


 全員、さっそく竹や連弩を手に、真面目に訓練に励み始める。


 兵の調練は、怖いくらい上手くいっている。


 この調子なら、数日以内にスバル本家が進軍してきても大丈夫だろう。




「アルト」


 そこへ顔を出したのは、ツーサイドアップにまとめた左右の黒髪を揺らしながら走る、クラーラだった。


「どうしたクラーラ? 何か問題か?」


「問題なんてもんじゃないですよぉ。トワイライト領内の貴族たちに出陣要請をしたんだけどみぃんな無視か拒否。なんだかんだ理由はつけているけど、本家には逆らいたくないみたいです」


 眉根を寄せて困り顔になるクラーラは、ため息をついた。


「おかげで中隊長をやれる人がいなくて困るよ、てジャックが言ってます」

「う~ん、お前らじゃ駄目なのか?」


「厳しいですねぇ。やれるのはせいぜいわたし、お姉ちゃん、ジャック、ロバート、マイケルくらいですよ。ほら、なんだかんだでわたしらってこの3年間、気心のしれた仲間うちでしか戦ってこなかったじゃないですか? 初対面の人たちを100人も200人も率いるのは未経験ですし。まずは30人規模の小隊長から初めて、これから育つのを待たないとってのがジャックの見立てです」


 クラーラが指先を頬に当てて、困ったを表現すると、アルベルトは唸った。


「それは困ったな。最悪、アルベールの家来を借りるって手もあるけど、それは避けたいな」

「弟さんは参戦してくれるんですか?」

「アルベールは父さんの敵討ちってことで出陣要請したら一応OKはくれたけど、武名が傷つくのを恐れての社交辞令だろう。どの程度動いてくれるか疑問だし、そこに兵を預けても上手く機能はしないだろうな」


 アルベルトが腕を組んで悩むと、クラーラは冷たい視線を作った。


「ねぇアルト。正直に答えて欲しいんですけど、次の戦、アルベールの軍も出るんですよね?」

「おう、そう言っているだろ?」

「じゃあ、もしもわたしらがフリになったら、その場で裏切って背後から攻めてくる可能性もあるんじゃないですか?」


 クレアたちがいない、実質ふたりきりの状況での、確信を突いた質問。


 やはり、クラーラは頭が良いと、アルベルトは見直した。


「その可能性はある。でも、だからこそのチャンスでもある。アルベールの前で勝って、俺の実力を見せつければ裏切る気もなくなるだろう」

「だといいんですけど、理屈で動かない奴は面倒ですよ」


 つまり、アルベルトの実力に関係なく、自分が当主じゃないと嫌だ、と、アルベールが欲を出した場合だ。


「そうならないことを祈るよ。じゃ、午後からは騎士階級の登用面接だし、その前に昼食べるか」

「はい♪」


 いつものあざとい笑顔に戻って、クラーラは腕に抱き着いて来た。



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【別作にて、あとがきが長く辛い、という指摘を受けましたので、やや短く】

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