第20話 訃報



 脳内マップから赤丸が消えて、僅かに残った赤丸には無力化を意味するマークがつく。


 消えた青丸は、ひとつもない。


 味方の大勝利に、アルベルトは大満足だった。


 戴冠式を狙った襲撃の慰謝料として、本家に何をさせてやろうかと、邪心を遊ばせた。


 だが、そこへ馬に乗ったヨーゼフが駆けこみ、馬上から転げ落ちるようにしてから着地した。


「殿下! アーダルベルト陛下が、みまかられました!」

「え?」


 突然の訃報に、アルベルトは一瞬、何も考えられなかった。


 でも、すぐに我を取り戻して、鎧姿のヨーゼフの胸ぐらをつかんだ。


「どういうことだよ!? なんで父さんが死ぬんだよ!? お前ふざけてんのか!?」

「ふざけてなどおりません! こちらは陽動だったので! パーヴェル国王とポール王太子率いる別動隊が森から城へ攻め込んできたのです。アーダルベルト陛下は、城内のわずかな手勢で立ち向かい、それは見事な采配で敵を退けました。ですが、最後にはギヨームが放った矢に……無念です」


 ヨーゼフは眼を閉じ、痛みに耐えるように歯を食いしばった。


 一方で、アルベルトは絶望し、脱力した。


「そんな……父さんが……」


 その場に膝を折って、アルベルトは両手を地面に着いた。


 自分にトワイライト家を託して、思うようにやってみろと言ってくれた父の顔を思い出しながら、必死に頭で否定した。


 何かの間違いだと。


 父が死を偽装しているかもしれないと。


 ヨーゼフが裏切って嘘の情報を伝えているかもしれないと。


 なんとかして、つじつまを合わせることはできないかと考える。


 けれど、無理だった。


 頭の中の一番冷静な部分が、これは現実だと、認めてしまう。


 このまま地面に溶けてなくなってしまいたいとすら思う絶望の中、ヨーゼフが二の句を告げた。


「しかし、アーダルベルト様は、殿下にご遺言を残されました」


 何かに蹴り上げられるようにして、アルベルトは顔を上げた。


 ヨーゼフは、息を吸ってから、厳かに告げた。


「『これでお前は父親の敵討ちと言う大義名分を手に入れた。幾ばくも無いこの命を、最大限に使ってやった。あとはお前のやりたいようにこの国を手に入れろ』」


 アルベルトは、目が覚めるような想いだった。


 この国を手に入れろ。

 つまり、アーダルベルトは、下克上をしろと言っているのだ。


 アルベルトは、そんなことを望んでいない。


 だが、アルベルトの望みを叶えるにはそれしかない。


 トワイライト分家の領地をどれほど改革しようと、所詮は一地方領主。やれることには限りがある。


 本家の命令には逆らえない。


 それ以前に、北のタウルス王国や東のヴィルゴー王国に攻め滅ぼされれば、国土は蹂躙されるだろう。


 アルベルトの理想通り、理不尽のない国を作るということは、このスバル王国の全てを手中に収め、タウルス王国とヴィルゴー王国と矛を交える、ということだ。


 アーダルベルトは、そのことにいち早く気づいていた。


 そして、アルベルトが合法的にスバル王国を手に入れる方法を考え、チャンスをうかがっていたに違いない。


「わかったよ、父さん。待っていろよパーヴェルにポール。てめぇらに、分家の意地を見せてやる!」


 昔、分家だからとパーヴェルに虐げられていたと言う父の言葉を思い出しながら、アルベルトは熱い闘志を燃やした。


 けれど、その様子を、ヨーゼフはやや冷めた目で見ていた。


 そこへ、アルベルトの母、カリーナが現れた。


「母さん? どうして――」

「お前のせいです!」


 顔を真っ赤にして、カリーナは怒鳴った。


「お前が本家に反抗的なせいでこの事態を招いたのです! あの人も、お前が殺したのです!」


 アルベルトは口をつぐんだ。



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