第19話 アルベルト軍最強VSポール軍最強


「くたばれゴルァッ!」


 女子にあるまじき怒声を上げるクレアの一撃が、オーガスの愛馬の首を吹っ飛ばした。


「ぐっ、この、小娘が!」


 オーガスは、石畳に倒れる馬体から降りると、ハルバードを構えて睨んでくる。


 対するクレアは、ハンデはつけさせない、とばかりに、自身もバイコーンから降りた。


「愚かな、たった今、貴様は最後にして最大の勝機を失った!」

「ゴタクはいいからかかって来なさいよ老害! この前、アルベルトを馬鹿にしてからずっとブチのめしてやりたいと思っていたけど、その願いがやっと叶うわ!」

「女の分際でほざくな!」


 オーガスは太い腕でハルバードを振り上げると、一息で距離を詰めてきた。


 けれど、クレアは怖じることなく、槍を打ち合わせながら全身の筋肉を柔軟に使い、衝撃を吸収して受け止めた。


「何!?」


 年齢不相応の実力に驚くオーガスに、クレアは殺意を込めてメンチを切った。


「女の分際、分家の分際、分際分際、あんたらっていっつもそうよね! あんたらみたいな無能な貴族が、どれほどの人を苦しめているか……わかってんのかぁ!」


 クレアが鍔迫り合う槍を外すと、支えを失ったオーガスはたたらを踏んだ。


 その顔面に、クレアの上段回し蹴りが炸裂した。


 オーガスの頬骨が陥没して、奥歯が三本飛んだ。


 だが、流石は武門に生まれし猛将と言うべきだろう。


 オーガスはやせ我慢で強引に態勢を立て直して、クレアに斬りかかった。


 力強く、強烈無比なハルバードの斬撃が、矢継ぎ早にクレアに襲い掛かる。


 並大抵の才能と訓練では身に付けられない絶技は、槍術スキルを持つクレア以上だった。


 本気になったオーガス相手に、クレアは防戦一方だった。


 誤解してはいけない。


 槍術スキルで自動的に身に着くのは、せいぜい槍術初段程度。それ以降は、誰に教わらなくても、努力した量に応じて新しい技術が身に着くだけだ。


 決して、楽して達人になれるチートスキルではない。


 無論、クレアは、アルベルトの期待に応えるべく、並々ならぬ努力を払ってきた。


 それでも、三年で追い越せるほど、オーガスは弱くない。


 スバル本家随一の猛将は、伊達ではない。


「ッッ、ふっ」

「なにが可笑しい! それとも、諦めの境地か?」

「いや、あんた、自分のハルバードの穂先、もっとよく見たら?」

「む、なっ!?」


 バックステップで距離を取ってから、オーガスは驚愕した。


 穂先には細かい刃こぼれが目立ち、先端が欠け落ちた。


「馬鹿な! ダマスカス鋼でできた業物だぞ!」

「それは残念。アルベルトからもらったあたしのパルチザンは、ルビードラゴンの牙から削り出した大業物よ!」

「なんだと!?」


 以前、オーガス自身が説明したように、エルダードラゴンの素材は、国宝クラスの武具の材料にもなる、超希少素材だ。


 そんなものと打ち合っては、いかにダマスカス鋼といえど、ひとたまりもない。


「そしてこれが、アルベルトがあたしにくれた、もう一つの力」


 静かな怒りを燃やすように言うと、まるで彼女の感情を具現化させたように、紅蓮の炎が全身を包み、槍の刃に集約されていく。


「まさか……【火炎操生スキル】!? 王族でもないのに、何故!?」


 在り得ないと、驚愕し、目を見張ったまま硬直するオーガスに、クレアは怒りを込めて叫んだ。


「あの世で悔いなさい!」


 裂帛の気合いと共に、クレアは大地を蹴り、全体重を乗せて踏み込んだ。


 下半身の力を腰、背骨に効率よく伝え、増幅させながら、弓を引くように発射体勢に入れたパルチザンを、一息に突き出した。


「はっぁああああああああああああ!」


 クレアの全火力、筋力、瞬発力、体重を乗せた渾身の一撃が、オーガスのどてっぱらを直撃した。


 ドラゴンの牙はオーガスの重装甲鎧を貫通。猛る焔が内臓もろとも全身を焼き焦がし、スバル王国随一の猛将を、一撃で絶命させた。


「敵将! オーガス討ち取ったりぃいいいいいいいい!」


 味方を鼓舞して、敵の士気を挫くために、クレアは声を張り上げた。


 けれど彼女はわかっていた。

 自分はオーガスに負けていた。

 勝てたのは、アルベルトがくれた槍のおかげだ。


 だが、それがまるでアルベルトが自分を助けてくれたようで、クレアは嬉しかった。


 この勝利は自分とアルベルト、二人の合作だと、胸を高鳴らせる。


 そこへ、クラーラが水を差してきた。


「お姉ちゃん、総大将は!?」

「え? オーガスは討ち取ったわよ?」


 バイコーンの上から、クラーラは慌てた様子で言った。


「パーヴェルとポールがいないよ! 今日は戴冠式に出席するていだったのに!」

「え?」


 クレアは、思わず周囲を見渡してしまった。


 だが、大通りには、残党を狩る味方の姿しかなかった。


 金属を打ち鳴らす音と雄々しい声が響く戦場で、クレアは息を呑み、バイコーンに跳び乗った。


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