第25話 父の敵討ち


 その頃、アルベルト軍の右翼に展開したアルベール軍には、動揺が走っていた。


「おい、なんかアルベルト様勝ちそうだぞ!」

「アルベルト様の軍てこんなに強かったのか?」

「話が違うじゃないか!」


 アルベルトの思わぬ活躍に、アルベールは憎らし気に目を吊り上げ、歯噛みした。


「くそ。不良王子のくせに……」


 そこへ、重臣、エドワード・イブニングが声をかけた。


「アルベール様。どうやら勝ち戦の模様。このまま一人も兵を動かさなかったとあれば沽券に関わります。どうか、私に戦闘の許可を」

「ぐっ、いいだろう。行け」

「御意」


 エドワードは馬にまたがると、颯爽と陣から飛び出した。



   ◆



 残る敵は、フルプレートの鎧に盾と剣、盾と槍の、上級騎士たちだった。


 彼らは、連弩や長槍にも対応してくるだろう。


 だから、アルベルトは左腕でクレアを抱き寄せ、やぐらから飛び降りると叫んだ。


「レギオンとCランク冒険者は全員進軍! 奴らを残らず駆逐しろ! 俺に続けぇえええええ!」


 【颶風操生スキル】でブレーキをかけながら、アルベルトとクレアはバイコーンの背中に着地した。


 すぐ隣には、剣と盾を背負ったクラーラが待機していた。


「行くぞ」

「「はい!」」


 アルベルト、クレア、クラーラの三人は、バイコーンの腹を蹴ると、一気に前へ飛び出した。




 レギオンの500人と、中隊長になったラルフ率いるCランク冒険者200人は、一斉にギヨーム本体へと突撃を敢行した。


 元より、Cランク冒険者は並の騎士よりも強い。


 そして、レギオンのメンバーは、冒険者ギルドで、そのほとんどがCランク以上の評価を得ている。


 大盾部隊、重装歩兵部隊、雑兵、騎馬隊を失い、士気の挫けたギヨーム軍本隊など、まるで相手にならなかった。


 本体の奥に、馬で逃げようとするギヨームの姿を発見して、アルベルトは声を張り上げた。


「ギヨームを逃がすな!」


 だが、ここで仲間たちは戸惑った。


 ギヨームは、スバル本家の最大貴族だ。


 しかし、この場に集まっているのは冒険者に、下級貴族や騎士の次男三男や少女たち。


 だれも、ギヨーム公爵の顔を見たことが無い。


 皆、立派な鎧を着ている指揮官たちの間で目移りして、ギヨームの姿を捉えられなかった。


「マズイ!」


 アルベルトの視線の先で、ギヨームが数騎の護衛を付け、背を向けて馬を走らせた。


 このままでは逃げられる。


 そう思った矢先、どこからか一本の槍が高速で飛来してきた。


 鋭利な穂先はギヨームの護衛の体を貫き、絶命させた。


 ギヨームが悲鳴を上げて、護衛がギヨームをかばった。


 そのやりとりを、めざとくも見逃さなかったクラーラは、バイコーンの腹を蹴ることなく、以心伝心で走らせた。


 アルベルトが解放した【テイマースキル】の成せる業だ。


「その首もらった!」


 クラーラの全身を紫電が奔り、右手の剣に集約されていく。


 アルベルトに解放してもらった【雷撃操生スキル】だ。


「ま、待て! 私は違う、待ってくれ!」

「雷霆一閃!」


 技名を叫びながら、クラーラが剣を振り下ろすと、稲妻の斬撃が空間を閃いた。


 ギヨームは、馬ごと縦に斬り裂かれ、その体は雷に打たれたように黒く焼け焦げていた。


 異臭を放ちながら荒野に転がる主の死体を目の当たりにして、護衛たちは涙を流して怯えるが動けなかった。


 近くにいた護衛たちも雷撃の余波を浴びて感電。落馬して動けなくなっていた。


 ギヨームの部隊が瓦解、残党は逃亡したことで、スバル王家の軍も、撤退を始めた。


 この戦いは、アルベルト達の完全勝利に終わった。


 けれど、アルベルトは勝利の余韻や、父アーダルベルトの仇を討ったことよりも、槍を投げた人物のことが気になった。


「この槍は確か……」


 馬の蹄の音に顔を上げると、レギオンでも冒険者でもない騎兵が一騎、こちらに向かってくるところだ。


 年は30歳。背は高いが筋骨隆々というわけでもなく、洗練され、機能的な肉体の上に、動きやすい軽装鎧をまとった騎士は、涼し気な眼差しで一礼した。


「お久しぶりですアルベルト様。出過ぎた真似とは思いましたが、助力させて頂きました」


 紳士的な態度に、アルベルトは好意的に応えた。


「いや、感謝するよエドワード。おかげでギヨームを討ち取れた」

「ありがたき幸せです。ところで、追撃は致しますか?」

「いや、深追いはしないでおこう。それに、本家の兵はタウルス王国やヴィルゴー王国からこの国を守る役目もある。勝ち過ぎて兵を殺し過ぎると、自分の首を絞める」

「……御意」


 アルベルトの返事に、エドワードは一拍遅れてから頷いた。


 ——これは運がいい。エドワードはアルベールの重臣だ。エドワードが前線で見たことをアルベールに伝えてくれれば、アルベールは俺の指示に従ってくれるかもしれない。


 運気が自分に向いていることを願いながら、アルベルトは仲間たちと共に引き上げた。



   ◆



 この戦いで、ギヨーム本人は死亡。


 ギヨーム領の騎士たちは壊滅。


 さらに、ギヨームの息子と、親の敵討ちと参戦していた、オーガスの息子も死んでいた。


 このことで、ギヨーム領とオーガス領は政治的空白地帯となり、アルベルトはそのまま広大な領地を手にした。


 トワイライト領とギヨーム領が隣接していたこと、さらにそこからギヨーム領とオーガス領が隣接していたのが幸いした。


 さらに、幸いなのは、今回の戦いで、弟のアルベールの軍が動かなかったことだ。


 武功のない者に、恩賞を与える必要はない。


 そして、冒険者たちは既定の金額を払えばいい。


 レギオンのメンバーは、全員アルベルトの友達であり、主従契約とは異なる。


 つまり、二大公爵家の広大な領地は全て、合法的にアルベルト個人の領地になったのだ。


 戦に参戦していない、元アーダルベルトの家臣たちも、文句は言えない。戦が終わった後、自分も参加すればよかったと、数千人の騎士貴族たちは地団太を踏んで悔しがった。だが、後の祭りだ。


 だが、一番悔しがったのは、アルベールだった。




 城とは別の、アルベール専用の屋敷の自室で、彼は荒れに荒れていた。


「まずい! まずいぞ! このままじゃ、あの冒険者かぶれの不良王子が名実ともに大公になってしまう! 冒険者大公なんて恥さらしもいいところだ!」


 顔を歪め、眉間と鼻にしわを集めながら、彼は怒鳴り散らし、物に当たる。


 王族としてのプライドが高いアルベールにとって、冒険者はどこにも就職できない無職の浪人、落伍者たちの掃き溜め、という印象でしかない。


 大公がそんな連中の仲間入りをして、冒険者たちを近衛兵に抜擢する。


 その事実を思い出すだけで虫唾が走った。


 そこへ、部屋のドアがノックされた後、廊下から家臣が呼びかけてきた。


「殿下、至急、目通りしたいと言う者が来ております」

「後にしろ!」

「しかし、スバル本家からの使者を名乗っております」


 その一言で、アルベールの眉間からしわが抜けた。


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 4万0300PV 593フォロー 102★ 450♥達成です。

 皆さん、ありがとうございました。

 感謝ページですが、一部から、本文が読みにくい、ナドの意見をいただいたため、省くことと致しました。

 私は【読者へ感謝主義】の作家なので、感謝ページもその一環でした。

 しかし、それで本文が読みにくく、作品を楽しみにくくなっては本末転倒です。

 けれど皆様への感謝は変わりません。

 読んでくれた人、フォローしてくれた人、★や♥をつけてくれた人、コメントをくれた人、皆さん、ありがとうございました。

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