第24話 戦術革命
5日後。
スバル軍8000の進軍を聞きつけたアルベルト達は、すぐさま出撃した。
3年間、アルベルトと共に冒険者を続けたレギオンが500人。
新設した長槍隊900人。
新設した連弩部隊500人。
Cランク冒険者200人
そこにアルベールが連れてきた500人で、計2600人。
敵の三分の一以下だ。
家老のヨーゼフは留守居役(主人が留守の間、城や領地を守る役目)なのできていない。
今のアルベルトは大公殿下だ。
本来ならば、父アーダルベルトの兵や家臣貴族たちも動員できるはずだが、結局、彼らは要請を断り、日和見を決め込んだ。
それどころか、一部の貴族は、スバル軍に寝返り、敵側として参戦している。
8000VS2600。
スバル軍も、弟アルベール軍も、勝敗は火を見るよりも明らかだと、アルベルトを侮った。
戦場となる広い荒野で、アルベルトは、本陣の中ではなく、近くの櫓から、前線の状況を眺めた。
「すごい軍勢だなクレア」
「ざっと見て敵は8000、こっちは2600、しかも500人のアルベール軍はどこまで動いてくれるか……それに、ギヨームの軍も出てきているわ」
クレアが油断のない表情を作る一方で、アルベルトは呑気に笑った。
「謹慎してくれれば助かったんだけどな。まっ、流石にそこまで上手くはいかないか。でも、ギヨーム軍が最前線てことは、モメたな」
悪い顔で言う。
「ギヨームの野郎はきっと、この戦いで手柄を立てて裏切り者ではない証拠を見せたいはずだ。前のめりに押し寄せてくるぞ」
「だといいんだけど、あれ、大盾部隊よね?」
クレアの言う通り、敵最前列に並ぶのは、騎馬隊ではなく、巨大なタワーシールドの壁だった。
前のめりに押し寄せる、というよりも、あの盾で火縄銃の弾丸を防ぎつつ、じりじりと距離を詰めてくるつもりだろう。
「いいんだよそれで。押し寄せるイコール素早くじゃない。退かずに前身してくれるのがありがたいんだ。と、そろそろ開戦だな」
アルベルトとクレアの視線の先で、敵大盾部隊が前進を始めた。
ギヨームの作戦は、実に単純だった。
火縄銃の弾丸にも耐える大盾部隊で距離を詰めてから、後方の重装歩兵と交代。
アルベルト軍の前衛を崩す。
事前の情報によると、アルベルト軍は寄せ集めの烏合の衆。
近接戦闘になれば、正統な騎士の集まりである自分たちに分がある。
ギヨームは、そう信じていた。
――この戦で、なんとしてでも挽回せねば。
アルベルトが流したであろう流言飛語のせいで、ギヨームの立場は今、かなり危うい状況にあった。
そのため、内心、焦っていた。
――だが、ここで手柄を立てれば、私こそが全貴族の頂点に立てる! 当主を失い、立て直し中のオーガスの家など、もう恐れることはない。
アルベルトの見立て通り、ギヨームとオーガスはライバル関係にあった。
だが、そのオーガス同様、ギヨームの期待も思惑も、裏切られることになった。
「ギヨーム様! 前線の大盾部隊が全滅しました!」
「なんだと!?」
部下の報告に、ギヨームは開戦数分で凍り付いた。
分厚い板の表面を鋼で加工した大盾は、火縄銃の弾丸を防ぐに足る強度を持っていた。
だが、火縄銃の威力は火薬の量で自由に調整できる。
アルベルトの指示通り、500人のレギオンは、敵が大盾と知ると、通常の二倍の火薬を込めて撃ち、それで足りなければ、三倍の火薬を銃口から流し込み、弾丸を撃ち続けた。
前と同じ、五人一組の鉄砲交換撃ちの弾幕は、瞬く間に戦闘の大盾部隊を盾ごと撃ち殺した。
大盾部隊の背後に布陣していた重装歩兵の鎧は装甲が厚く頑強だが、大盾には負ける。
重装歩兵たちも、瞬く間に撃ち殺され、ギヨームの軍は死屍累々の有様だった。
だが、退くことはできない。
功を焦るギヨームは、部下たちに逃亡すれば家族を幽閉すると脅していた。
自身の命と家族を天秤にかけ、まごつく間に、騎士たちは弾幕の餌食になっていく。
ギヨームの大盾部隊、重装歩兵部隊が全滅すると、やや粗末な鎧を着た部隊が姿を現した。
トワイライト軍前衛を崩した後、投入する予定だった、雑兵部隊だ。
『鉄砲隊は連弩隊と交代しろ』
不意に、トワイライト軍全体に、アルベルトの声が響いた。
【音声操生スキル】による、号令だ。
指示通り、レギオンの面々は火縄銃を片付け、後ろに退いた。
交代で前衛に出て、さらに10メートル前進して止まったのは、500人の連弩部隊だった。
前後250人ずつの二段横列で、前列の兵は膝を折ってしゃがむ。
こうして、弾幕の密度を高めるのだ。
『放て!』
アルベルトの指示で、500丁の連弩が一斉に鋭利な矢竹を連射した。
まるで、数千人の弓兵の存在を思わせるような弾幕に、敵雑兵部隊は戦々恐々。
革製鎧を身に着けた兵は全身に矢を受けて死に、金属鎧を身に着ける者は、もしも矢が顔に当たったらと想像して逃げ出した。
連弩は、発射口から矢を放つ摩擦の関係で、矢羽をつけられないので、命中率が悪く、歴史に埋もれた。
だが、圧倒的な弾幕の密度があれば、命中率など二の次で良い。
そうして雑兵を片付けると、騎馬隊が駆けてきた。
馬の蹄が土煙を立て、煙幕をまとうようにして迫ってくる。
騎馬隊は馬に鎧、カタパルトを着せていて、矢竹は効かなかった。
だが、騎馬隊を殲滅するほど、もう火縄銃の火薬は残っていない。
それでも、音で馬を驚かせればと、アルベルトは連弩隊を下がらせて、また、レギオンに火縄銃を撃たせた。
しかし、何頭かの騎馬は銃弾に倒れるも、馬たちは音に驚かなかった。
どうやら、この短期間で音に慣れるよう訓練したようだ。
けれど、問題はなかった。
アルベルトは、得意げに【音声操生スキル】で指示を飛ばした。
『レギオンは下がって長槍隊は前へ、槍ぶすまを作るんだ!』
長槍隊が、一斉に6メートルの竹の柄頭を、荒野の地面につけると、斜め35度の角度に傾けた。
敵、ギヨームの騎馬隊からすれば、竹の先端がこちらを向いて、ズラリと並んでいる状態だ。
敵の騎兵たちは笑った。
あんな竹がなんだと。カタパルトを着た馬の突進をナメるなと。
そして数秒後、騎兵たちは宙を舞った。
竹の側面から体当たりを刷れば、なるほど、馬に分があるだろう。
だが、建材にすらなる頑丈な竹に、縦方向に体当たりをかまして無事で済むはずがない。
アルベルトが、ルビードラゴンを岩に突っ込ませたのと同じだ。
カタパルトも、打撃の前には意味が無い。
馬の体重も、馬力も、スピードも、全てが敵に返る。
先端が馬の胸板に直撃して、900本の竹がミシリと音を立て、騎馬隊の馬は転倒した。
騎兵は宙に投げ出され、荒野の地面に叩きつけられた直後、振りかぶられた6メートルの竹が、思い切り振り下ろされた。
こうして、騎馬隊も全滅した。
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