第31話 最強VS最強


 今回は時間があったので、竹の先端に粘土を詰めた粗末なものではなく、竹製の柄の先端に真っ当な金属の刀身を付けた槍だ。


 鉄砲隊の代わりに長槍隊が前に出ると、アルベール軍が湧いた。


 鉄砲さえなければ怖くないと、アルベールについた貴族たちは、自身の部隊を突撃させる。


 ここで負けてなるものか。ここでアルベルトを倒して、アルベールを大公にして、本家に取り入るのだ。


 貴族の誰もが、そんな気持ちで兵を進ませた。


 そして、長槍隊の餌食になった。



 

 貴族の放った兵士たちは、無秩序に、それぞれがバラバラに走るのに対して、アルベルトの長槍隊は、全員で呼吸を合わせ、同時に槍を振り下ろし、一斉に突き、一糸乱れぬ動きで槍を振るい続けた。


 必然、どこでも1対数人の形となり、貴族たちの兵は成すすべなく殺されていく。


 敵の士気が完全に崩れた所で、アルベルトは叫んだ。




「レギオン! 突撃だ! 全員、スキルの開放を許可する!」




『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 



 前回同様、アルベルトはやぐらから降りると、バイコーンに乗って前線に出た。


 500人の少年少女たちの登場に、アルベール軍は戸惑う。


 鉄砲隊といい、長槍隊といい、アルベルト軍が異形ぶりは、もはや明白だ。


 あの少年少女たちも、一筋縄ではいかないのだろうという想いから、誰もが腰を引いた。


 まさに、アルベルトの思惑通りだった。


 だが、そこへ思わぬ人物が現れた。


 アルベール軍をかきわけ、白馬に乗った美貌の騎士が草原を駆け抜け、颯爽と飛び出した。


「我が名はエドワード・イブニング! 我こそはと言う者はこの首を取り、誉れとせよ!」


 たった一人で高らかに宣言するその雄姿に、アルベルトは焦った。


 軍の士気は、ああいう英雄然とした行動ひとつで回復することがある。


 ここで、レギオンの誰かがエドワードに負けるようなことがあれば、士気の差は逆転するだろう。


 ここは自分が相手をするべきか。


 アルベルトがそう考えた矢先、バイコーンに乗ったクレアが、レギオンの中から飛び出した。


「アルベルト近衛兵隊長! クレア・サンセット! その首、もらい受ける!」

「……相手になりましょう」


 クレアのパルチザンが、エドワードの槍と交差し、火花を散らした。


 その隙に、アルベルト達はエドワードを避け、アルベール陣営目掛けて駆け抜けた。


 ——助かった。クレアなら、エドワードとも互角に戦えるだろう。


 その反面、彼女の態度が気になる。


 だが、今は深く考えている暇はない。


 アルベール軍に到達したアルベルトたちは、真正面から激突した。



   ◆



 バイコーンにまたがり、エドワードと戦うクレアは、手応えの違和感に声を上げた。


「あんた、なんで本気で戦わないのよ……」


 クレアがパルチザンを引くと、エドワードも馬上で槍を担いで、矛を収めた。


「貴君は、何を迷っている?」

「ッッ、それは……」


 戦場でうつむいて、クレアは悩んだ。


 何を迷っているかなど、答えは明白だ。


 自分はアルベルトの一番になれない。どれほど研鑽を積んでも、自分には最初からそんな未来はなかったのだ。


 アルベルトを想いながら、彼から貰ったパルチザンの柄を痛いほど握りしめる。


 その槍を、かつてないほど重く感じていると、エドワードは紳士的な声をかけてきた。


「貴君は、アルベルト様の力になりたいと思っているか?」

「っ、そんなの、当たり前じゃない! アルベルトは女のあたしを騎士にしてくれた! あたしに槍をくれた! 絶対に叶わないと思っていたあたしの夢を、あいつが叶えてくれたんだ!」


 想いをぶつけるように、熱く吐き出すクレアに、エドワードは言う。


「ならば戦えばいい。騎士の仕事は槍を振るうこと。力になりたい人がいるなら、その人のために槍を振るう。騎士がそれ以外に何をする? もしも力を貸すのに疑念を抱くような男なら今すぐ逃げればいい。その人の力になることで他の誰かが傷つくなら、どちらが大切か考えればいい。クレア・サンセット、貴君にとって一番大切な物、優先するべきことはなんだ?」


「ッッ――」


 その言葉で、クレアは雲った視界が開けたような気がした。


 そして、自分は何を迷っていたんだろうと恥じた。


 自分は、アルベルトが好きだ。


 だからアルベルトの力になりたいし、アルベルトの夢を叶えてあげたい。


 そして今は、そのアルベルトを守るための戦いだ。


 なら、迷う必要はない。


 紅蓮の闘志が宿った瞳で、エドワードを見据えた。


「そうね、あんたの言う通りよ」


 クレアは全身に熱が広がり滾るのを感じながら、ルビードラゴンの牙から作り出されたパルチザンを握りしめ、バイコーンの上で凛と叫んだ。


「あたしはあいつ王にしてみせる! あいつがくれた、この槍で!」

「今の貴君なら、私も全力が出せます」


 涼やかな美貌を険に染めながら、エドワードは槍を構え直した。


 そして、両者は馬を走らせると、互いの命に向けて鋭利な穂先をぶつけ合った。


 アルベルト軍最強クレア・サンセットと、アルベール軍最強、エドワード・イブニング。


 どちらの最強が本物か、勝敗の行方は、誰にも解らなかった。




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