第17話 新・冒険者大公の戴冠式

 それから数週間が経った、五月半ば。


 戴冠式当日の朝。


 主役のアルベルトは、城の敷地内に作った木工所を尋ねていた。


 木工職人スキルを解放して貰った少年少女たちのリーダーで、茶髪の巻き毛が可愛いミントが、出迎えてくれた。


「殿下、今日は戴冠式では?」

「その前に頼みたいことがあってね。ところで現場はどんな感じ?」


 ミントは、整った顔立ちを、暗くした。


「銃床の制作は順調です。ただ、みんな不安がっています」

「不安って、どうして?」


「殿下は火縄銃の制作に力を入れていますから。このまま弓矢が火縄銃にとって代わられたら、私たちは鍛冶部門の下部組織になってしまうのではないかって」

「あー、そういうことか。心配しなくてもいいよ。弓矢は雨でも火薬が無くても使えるから、完全になくなることはないよ。それに、火縄の増産が可能になったから、木工職人たちには、新しい弓矢を作って貰おうと思って」


「新しい弓矢? ですか?」

「おう。昨日、図面が完成したんだ」


 言って、アルベルトはストレージから羊皮紙を取り出してミントに手渡す。


 それから、すぐに、クレアが呼びに来た。


「アルト、早く準備しないと、戴冠式が始まっちゃうわよ」

「わかった。じゃあミント、あとはよろしくな」


 そう言い残して、アルベルトはつむじ風のように走り去った。


   ◆


 一時間後。

 控室で、アルベルトはズボンにシャツ、ベストの上からモーニングコートを羽織った、礼装姿で待っていた。


 昔は、ゴテゴテとした宮廷服が主流だったが、セプテントリオ帝国が大陸を支配してからは、フロックコートやモーニングコートが一般的になっている。


 クレアやクラーラも、軽装鎧ではなく、今日は金モール付きの、立派な軍服に身を包んでいる。


「あたし、こんな服着るの初めてよ」


 今日は、ジャックやロバート、マイケルなど、他のメンバーも、同じ格好をしている。


「私兵とか冒険者仲間とかグレーゾーンな肩書で式に参加はできないからな。全員正式に、俺直属の近衛兵部隊ってことで書類手続きは済ませてあるから。俺は気にしないけど、父さんの話だと、近衛兵に相応しい格好をしないと貴族にナメられて、のちのちの統治に問題が出るんだと」


「大人は面倒ね」

「面倒だよ。その大人っていうか、パーヴェルたち本家の連中は全員化粧鎧で参加だってさ」

「化粧鎧って、実用性を無視したパレード用の派手な鎧よね?」

「ああ。本家は伝統で凝り固まっているからな、フロックコートやモーニングコートよりもそっちのがいいんだろ。古臭、俺は、こっちのコートや軍服のほうが好きだよ」

「アルトアルト、似合ってますか?」


 まさに、金モール付き軍服姿のクラーラが、肘に甘えてくる。


「うん、カッコイイよ」

「えへへ、今のは遠回しな側室要求と捉えていいですか?」

「強引だなおい……そしてなんでマイケルはうなだれているんだ?」


 いつもなら、人一倍テンションを上げそうなのに、とアルベルトは首を傾げた。


 マイケルは、絨毯の上に倒れこみ、ぴくりとも動かなかった。


 眼鏡の位置を直しながら、ジャックが説明する。


「ルビードラゴンを倒したことで僕ら、酒場じゃ女の子たちにモテモテなんだけど、ほら、マイケルってルビードラゴンの囮になったあと気絶してただろ?」

「あー、そういえばそうだったな」


 アルトがルビードラゴンと戦っている時、クレアとクラーラは追いついてきたが、マイケルの姿はなかった。その理由は単純、ルビードラゴンにまたがれたとき、気絶して落馬したらしい。


 バイコーンにくわえられて運ばれるマイケルは、涙を誘う程に哀れだった。


「そのせいで、マイケルだけ女の子に相手にしてもらえないんだよねぇ……」


 ジャックは眉をひそめて、同情的な声を上げた。


 すると、マイケルは泣き叫びながら絨毯の上を転がった。


「くそぉっ! あんなに頑張ったのにあんなに怖いの我慢したのにぃ!」


 絨毯の上を転げまわりながら泣き叫ぶマイケルに、短髪赤毛のロバートが歩み寄った。


「おいマイケル、お前、ルビードラゴンに追いかけられている時、神様もう一生女の子にモテなくていいから助けてって言ったんだろ?」

「え? あ、おう?」

「良かったな、神様はお前の願いを聞き遂げてくれたぞ」


 ロバートの笑顔に、マイケルは青ざめた。


「おぉおおおおおおあぁああああああああああ!」


 床に拳を突き立てながら、マイケルは慟哭した。


 その姿はあまりに哀れで、女子メンバーたちの涙を誘う程だった。


 けれど誰も、じゃああたしが付き合ってあげる、とは言わなかった。


 控室の悲しい空気が流れると、控室に家老のヨーゼフが駆けこんできた。




「アルベルト様! 本家が攻めて参りました! その数、2000!」


 一瞬、何を言っているのかわからず、アルベルトは困惑した。


「えっと、誤報じゃないのか? ポールたちは今日、化粧鎧で戴冠式に参加する予定だから、武装はしていても不自然じゃないぞ?」

「存じております! ですが、長槍や大盾など、武装があまりにも物々しく、人数も多すぎるため、領地境の兵が確認のために足止めをしたところ、兵は斬り殺され、本家の軍はそのままこちらへ向かっています」

「なんだって!?」


 アルベルトだけでなく、控室にいたメンバーの、誰もが驚愕の声を上げた。


「馬に乗った伝令が通達してくれました。ですが、向こうも騎馬で移動しており、間もなくこの城に到着するでしょう! 殿下、すぐにお逃げください!」

「馬鹿か! 領主が領地と家臣を見捨てて逃げられるか!」


 ヨーゼフの進言を、アルベルトは切って捨てるように却下した。


「ですが、こちらは戦の準備ができておりません。今、この城を警備している兵はせいぜい200人。敵の十分の一です!」

「200人? 馬鹿言うなよ。今ここに、500人もいるだろうが! 全員聞いたな! 他の所にいる奴も全員表に集めろ! レギオン総出で迎え撃つぞ!」

『オォオオオオオオオオオオオオオ!』


 アルベルトの呼びかけに、クレア達は拳を突き上げ、雄々しく声を上げた。


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