第14話 冒険者王子万歳、クズ王太子よりも大人気!
翌日の午前。
また、パーヴェルとポールに呼び出されたアルベルトは、クレアと共に、謁見の間で、堂々と対峙した。
二人の顔には、苛立ちが浮かんでいた。
殺すつもりでハイドラゴン退治に向かわせたのに、エルダードラゴンを退治してきたのだから、当然だろう。
今、領内では誉れ高きドラゴンスレイヤー、我がスバル王国の英雄アルベルト・トワイライトとその仲間たち、と吟遊詩人が謡い、民衆から大人気だ。
誰もがアルベルト、ひいてはトワイライト分家の武勇を褒めたたえ、中には、アルベルトが王様になったほうがいいのでは? という声すらある。
「み、見事であったな、アルベルト。では、三日以内にルビードラゴンの素材を城へ輸送するように」
「恐れながら、その命には従いかねます」
「はぁ!? テメェ、ドラゴン退治したくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
ポールが激高しても、アルベルトはいたく冷静に返す。
「ルビードラゴンの素材は、家臣への報償、および、ドラゴンのせいで生活を脅かされた地域住民への給付物資として既に下賜しております。それを返せと言えば、スバル王家の権威に傷がつきます」
半分は嘘だった。
肉は、ドラゴンのせいで森に入れなくなった近隣の村で盛大に焼き肉パーティーをするのに使ったが、多くはストレージに残してある。
また、牙、ツノ、爪、ウロコなどは、仲間たちの武具製作の材料に当てている。部下の褒美、ではなく、アルベルトの私兵強化に充てているに過ぎない。
パーヴェル国王は、眉間にしわを寄せた。
「何故、そのような勝手なことをしたのだ? あのドラゴンは我が領地で討伐したもの。ならば所有権は王室にあると考えるのが打倒であろう?」
「言葉を返すようではありますが、陛下はドラゴンの件について、私に一任したはずでは? なのに、何故、今になってから所有権を主張するのでしょうか?」
アルベルトの物言いに、とある男が怒声を飛ばしてきた。
本家に仕える二大家老の一人、オーガス公爵だ。
「陛下に対してなんたる口の利き方だ! 仮に一任されたとしてもルビードラゴンの素材は国宝クラスの武具の材料にもなる希少素材だ! 分家ならば、進んで陛下に献上するのが常識であろう!」
オーガスはスバル王家随一の猛将と謡われ、60を超える老齢だが、筋骨隆々とした体格で声も野太く、迫力があった。
けれど、ルビードラゴンと刃を交えたアルベルトにとっては、ただのヒステリー爺さんにしか見えなかった。
この年で、こんなことしか言えないのかと、見下げ果てていた。
「低俗な連中と低俗な遊びをしているからこの程度の常識も身につかないのだ!」
いくら本家の家老とはいえ、公爵貴族が大公王族に言って言葉ではない。
オーガスは、アルベルトのことを王族とは認めていないのだろう。
彼の家系は、歴史のあるエリート軍人の家柄だ。
故に、冒険者を見下す傾向がより強かった。
「低俗、とはどういうことだ?」
仮にも王族なので、アルベルトはオーガス公爵に強気の態度を取った。
「言葉のままだ。低俗な下級騎士や女子供、騎士に憧れた平民共と一緒に冒険者ギルドなどという掃き溜めで遊んで常識が身に着くものか。騎士は集団生活の中で一般常識と良識を身に着け、然るべき御仁に師事することで礼儀作法と教養を身に着け、王室に忠誠を誓い、陛下のために剣を捧げることで崇高なる騎士道を磨くのだ」
——ここは騎士学校の入学式か?
アルベルトは心の中で毒づいた。
その後も、パーヴェル、ポール、オーガスは執拗にアルベルトのことをなじってきた。
結局、意味もない長話から解放されたのは、この一時間後だった。
◆
本家の城から出ると、クレアが愚痴をこぼした。
「まったく、なんなのよあいつら。この一時間で何度ブチのめしてやろうと思ったかわからないわ!」
「気持ちはわかるけど、それをすれば主君殺しだ。大義名分のない争いは禍根を残す。戦争の場合は、特にな」
「大義名分ってどんな?」
「そうだな、向こうのほうから攻めてきたから自衛で退けただけとか、身内を殺されたからその仇討ちとか」
「ん~、面倒なのね」
「面倒なんだよ。世の中は色々とな」
王族学院で学んだ政治、経済、歴史の知識を思い出しながら、アルベルトはため息をついた。
◆
アルベルトが出て行った後、ポールは謁見の間で、癇癪を起こした。
「分家の分際でなんなんだよあの態度! ドラゴンを倒したぐらいでまるでオレと対等みたいな顔しやがって!」
オーガス公爵も、握り拳を震わせた。
「城下街では吟遊詩人がアルベルトを讃え、民は奴を英雄視しているとか。分家の小僧がなんと忌々しい」
パーヴェル国王も、眉間にしわを寄せて玉座を叩いた。
「奴のパフォーマンスに踊らされるとは。民衆はなんと愚かで底が浅いのだ。一体誰の統治で生きていられると思っている」
「その通りです。ドラゴン退治がなんだ! 我々は国境線で日々、タウルス王国やヴィルゴー王国からの侵攻を防ぎ、この国を守り続けているというのに!」
「あいつはズルいんだよ。国防には一切手を貸さないくせに目立つことだけして民衆の人気取り。最初からこれが狙いだったんだ。そうなると、城下の吟遊詩人たちも、あいつの差し金なんじゃねぇの?」
「その通りかもしれませんぞ」
ポールが毒づくと、謁見の前に、新たな人影が顔を出した。
オーガスと並ぶもう一人の公爵、ギヨームだ。
白髪頭をなでつけながら、彼は策士のような顔で言った。
「民衆を味方につけ、彼奴めは謀反を企てているのかもしれません」
ギヨームの言葉に、パーヴェル、ポール、オーガスは顔色を変えた。
「ちっ、やっぱそうかよ! くそ、こんなことならあいつだけ学院に置いてくるんだったぜ!」
「分家の分際でなんと破廉恥極まりない企てを。陛下、いかがいたしますか?」
「いや、むしろ丁度いい。これは、トワイライト家を潰す好機だ」
ポールとオーガスが怒り心頭の中、だがパーヴェル国王は、怪しく顔を歪めた。
◆
トワイライト家の城で、アルベルトの母、カリーナは自室で激怒していた。
「本家の命で討伐したルビードラゴンを着服したですって! あの子はトワイライト分家を潰す気なの!?」
家臣からの報告を聞いた途端、カリーナはテーブルを叩いて、椅子に座ったまま地団太を踏んだ。
「やはりアルベルトは我が家の当主には相応しくないわ! 普段は腑抜けでもいざという時は、などと期待した私がバカだったわ! あんな冒険者ごっこに現を抜かす阿呆が当主など考えただけで吐き気がする!」
そこまでまくしたててから、カリーナの視線はとある人物に留まった。
「私はこれから、あの人に直談判に参ります。次期当主はアルベルトではなく、アルベール、貴方こそが相応しいと!」
母の期待を一身に背負い、不敵な笑みを浮かべる少年の名は、アルベール・トワイライト。
アルベルトの、実の弟だ。
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