第4話 3年後、冒険者レギオンの主となる
3年後の春。
大陸は戦国乱世と化していた。
帝国に支配されていた属国らは、表立って宗主国である帝国に反旗を翻すようなことはしなかった。
しかし、帝国の命令を無視した政治、経済、軍事活動を始めて、自国の領土を広げようと隣国に侵攻するようになったのだ。
アルベルトの祖国、スバル王国も、北のタウルス王国と、東のヴィルゴー王国からの侵攻を幾度となく受け、戦乱に巻き込まれていた。
そんな中、15歳になったアルベルトはといえば……。
トワイライト分家の城内、その廊下で、家老のヨーゼフが部下に尋ねた。
「おい、アルベルト殿下はどこだ?」
「はい、アルベルト様は、またご友人たちと共にモンスターを狩りに」
モンスターとは、人間のように魔力を持った生物のことだ。魔獣とも言う。
その多くが好戦的で、人間を襲う傾向が強いため、一種の害獣と見なされている。
「また冒険者の真似事か」
ヨーゼフの眉間にしわが寄ると、部下は恐る恐る補足した。
「真似事ではなく、正式に冒険者ギルドに登録しているようです。今は、Aランク冒険者だそうです」
「なお悪いわ!」
冒険者とは、報酬次第でどんな危険な任務も行う、一種の傭兵だ。
その仕事は多岐に渡り、【採集】【警護】【捜索】【雑用】【討伐】の五種類に分かれる。
依頼をクエストと呼び、一番多いのが、モンスターの討伐クエストだ。
また、クエストとは関係なく、モンスターの肉、牙、骨、皮膚などの素材は冒険者ギルドが買い取ってくれるので、モンスター討伐が冒険者の主要業務になる。
世間では、冒険者とはモンスター討伐人、と認識している人も少なくない。
いつも偉そうにしながら、税金と称して金品を徴収していく騎士とは違い、冒険者は庶民の実生活に密着した活躍をするので、世間的な評価は高い。
一方で、貴族からの評価は、ヨーゼフの態度を見ればわかる。
「まったく、冒険者など学のない平民どもの汚れ仕事ではないか。そのような低俗な世界に身をやつすなど嘆かわしい。殿下は自身がトワイライト大公家の嫡男としての自覚があるのか!」
近くにいた貴族の一人も、大きく頷いた。
「その通りです。冒険者など、どこにも仕官できない浪人や、平民の英雄ごっこ。そも、ドラゴン退治ならば誉れにもなりましょうが、雑魚モンスター退治など、ようは単なる害獣駆除ではありませんか」
「本当に頭が痛い!」
口髭をしごきながら、ヨーゼフは鼻息を荒らげた。
この三年で、城内におけるアルベルトの立場は、ぐんと下がった。
王家の分家、大公家の嫡男としての教養を身に着けず、英雄譚の主人公に憧れ、女たちを侍らせながら下賤の連中とつるんで冒険者ごっこに興じる好色の放蕩殿下。
それが、貴族や騎士たちからの評価だった。
けれど、アルベルト自身はどこ吹く風で、楽しく幸せな日々を送っていた。
◆
木々が鬱蒼と生い茂る薄暗い森の中。
脳内マップで敵と味方の反応を確認しながら、アルベルトは元気よく声を張り上げた。
「よし来るぞ! 全員準備はいいな!」
『おぉおおおおお!』
武装した170人の少年少女たちが、剣や槍といった得物を掲げて、鬨の声をそろえた。
前方から、周辺のモンスターを集める【囮スキル】を持った少年少女たちが、馬に乗って走ってくる。
その後ろには、ゴブリンと呼ばれる小柄で牙を生やした人型モンスターと、シビレイタチと呼ばれる大型犬ほどもあるイタチ型のモンスター、他にも、数は少ないが、数種類のモンスターが、群れとなって追いかけてきている。
暴走したモンスターの大軍、スタンピードを彷彿とさせる光景だ。
囮の少年少女たちは、アルベルトたちと合流すると馬を急停止させて、地上に下馬した。
囮の役目が終われば、彼、彼女らも立派な戦闘要員だ。
「全員! かかれぇ!」
アルベルトの合図で、170人の少年少女たちがモンスターの軍勢に襲い掛かった。
そして、みるみる敵を駆逐していく。
年端もいかぬ子供ながら、その剣さばき、槍さばきは、まるで20年以上も鍛えた熟練の騎士のようだった。
子供たちの振るう剣が、槍が、斧が、拳がモンスターの強靭な肉体を屠る様は、まるで英雄譚のワンシーンのようだった。
子供たちは、その多くが騎士に憧れる少女や平民の子供たちだ。このような戦闘技術を身に着けられる身分ではない。
だが、彼、彼女らは、一人一人が剣術スキルや槍術スキル、斧術スキルを解放されたホルダーであり、この三年間、一日も休まず戦い続け、スキルを磨いて来た。
冒険者は、その功績に応じてFからA、そしてSまで七段階のランクに分けられる。
しかし、今やほとんどの子供が、熟練冒険者と呼ばれるCランク冒険者としての評価を貰い、その実力はギルドが太鼓判を押している。
さらに、中小国家には10人もいないとされるBランク冒険者は七人。
Aランク冒険者は、アルベルトを含めて3人も在籍している。
数百人規模を誇るアルベルトのチームは【パーティー】ではなく、【レギオン】と呼ばれている。
レギオン全体の評価は、堂々のSランクだ。
スバル王国内に、アルベルトのレギオンに勝る冒険者も冒険者パーティーも存在しない。
これが、若干15歳にして、アルベルトが辿り着いた境地だった。
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続きは本日18時公開です。目指せ毎日更新。
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