第5話 冒険者になった理由  モンスター討伐は計画的に


 一時間後。


 モンスターは一体残らず屠殺し尽くされ、周囲は死体で埋め尽くされていた。

それらにアルベルトが触れると、死体が次々虚空に掻き消えていく。


 アルベルトが持つ【ストレージスキル】の力だ。


 触れたモノを異空間に収納するスキルのおかげで、アルベルトは巨大倉庫数千棟分もの荷物を、手ぶらで持ち歩くことができる。


 普通の軍隊は、軍事物資を輸送するための輜重隊が必要だが、アルベルトがいれば必要ない。


「みんなお疲れ。じゃあこれ、いつものレモンティー、みんなで分けてくれ」


 アルベルトが手をかざすと、空間に光の穴が空いて、中から巨大な木箱がいくつも飛び出した。


 仲間たちは、木箱からレモンティー入りの水筒を、一人一つずつ手に取り、嬉しそうに飲んでいく。


 茶髪で癖毛の少年、マイケル・アフタヌーンが、一気に水筒を空にして息をついた。左右の腰に剣を挿した彼は従士爵家、下級軍人家の八男だ。


「うまぁっ。戦いのあとの一杯は格別だよなぁ」


 赤い短髪の少年、ロバート・ミッデイが、斧を地面に刺して、大盾に寄りかかりながら、口許を拭って頷く。彼は騎士爵家、中級軍人家の四男だ。


「おうよ。でも、こんな雑魚じゃなくて、もっと強ぇのと戦いてぇよな」

「今日は雑魚狩りの日なんだから仕方ないだろ?」


 呆れた声を出すのは、栗毛で眼鏡をかけた少年、ジャック・モルゲンだ。


 彼は准男爵家の次男で、ギリギリ貴族ではある。


 三人は、軍人の身分ではあるものの、長男ではないため、家を継ぐことができず、一生長男の家来としての人生が確約されている。


 地面に転がる矢を、背中の矢籠に回収しながら、ジャックは眉根を寄せた。


「モンスターは危険な猛獣で害獣だけど、その素材は高値で売れる資源だ。殺し尽くしたら、領内の冒険者や商人たちが困るだろ? アルトの説明を聞いていたかい?」


 ジャックの問いかけに、ロバートは頷くも、マイケルは視線を逸らした。


「も、もちろんだぜ」


 ジャックとロバートが渋い顔をした。


「アルト、新種のゴブリンを発見した」

「ゴブリンじゃねぇし! ちゃんと足し算と引き算わかるし!」


 掛け算と割り算は? と誰もが思った。


 その様子に、アルベルトは苦笑した。


 騎士爵家の子供に、アルトと愛称で呼ばれても嫌な顔一つせず、アルベルトは応えた。


「俺らは、あくまでも領民を助けるために戦っているからな。討伐するモンスターは厳選しないと。俺らが討伐していいのは大きく分けて二種類。【本当の害獣】と【頂点捕食者】だ」


 王族学院で学んだ動物学の知識を、アルベルトは頭の中で紐解いた。


「モンスターは危険だから害獣と呼ばれつつも、その素材は利用価値がある。だけど中には、凶暴で危険な上に素材の利用価値も低くて、自然界でもあまり役に立っていない、本当にただの害でしかない害獣がいる。ゴブリンやシビレイタチなんかがそうだな」

「あれ? でもシビレイタチってネズミとか食べてくれるんじゃなかったっけ?」

「ネズミはブルーフォックスとか、利用価値の高いモンスターのエサでもある。シビレイタチがいなくなれば、ブルーフォックスが食べる分が増える」


 マイケルが頷くのを確認してから、アルベルトは先生口調で続けた。


「そして生態系の頂点に君臨している頂点捕食者。こいつは多くの生き物を食べ殺してしまう。頂点捕食者が減ると、草食動物や草食モンスターが爆発的に増えるけど、その分は冒険者が討伐するから問題ない。ちょうど、頂点捕食者の取り分を人間が貰う形だな」

「ん? つまりモンスターを減らしているのに領民の取り分が増えて儲かるってことか? すげぇな、どんな手品だ?」

「手品じゃなくて、学問な」

「よし、俺も勉強しよう、明日から!」


 絶対にしないな、と誰もが思った。


 その時、アルベルトの【マップスキル】、その脳内マップに、敵の反応が映った。


「上、いや、下か?」


 【マップスキル】は地表の敵には敏感に反応するが、遥か上空、もしくは地面の敵には、少し反応が鈍くなる。


 アルトたちの背後の地面を突き破り、牛ほどもあるオケラが、上半身を出した。


 土中を進む頂点捕食者の一種、鋼のように強靭な甲殻を持つ、グラウンドビートルだ。


 アルベルトは、すぐさま自身の剣で両断してやろうとした。


 けれど、そのコンマ一秒前に、真横から一本の槍が投擲された。


 紅蓮の業火をまとった、赤い閃光がグラウンドビートルを串刺しにする。左右に開く甲虫の口から炎が溢れた直後、グラウンドビートルは炎に巻かれた。


内側から炎が炸裂したのだろう。


今のは魔術ではなく法術。


 魔力を用いて超常現象を起こす魔術に対し、法術は、槍などを触媒に行使する魔術だ。


 多様性には欠ける反面、炎や雷に貫通力や斬撃力を持たせることができる。一流の戦士は、誰もがこの法術を習得している。


 魔術と法術を合わせて、魔法と呼ぶ。


 そして、この攻撃の主は、槍を見ればわかる。


 それはパルチザン。アルベルトが三年前に託した槍だ。


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 読みやすさ重視で一話あたりはちょい短めですけど毎日更新目指します。

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 本作を読んでいただきがありがとうございます。

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 sutegon24zさん

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 まことにありがたいです。

 また、本作をフォローしてくれた

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応援ありがとうございます。


 現在、他に、

【冒険者ギルドを追放された俺が闘技場に転職したら中学時代の同級生を全員見返した】

 幼い頃からの夢だった冒険者になるも業界が衰退。さらに追放され、元同級生には馬鹿にされ、絶望する主人公の前に現れたのは、闘技者事務所の美少女社長!?


【美少女テロリストたちにゲッツされました】

 修学旅行中の飛行機をハイジャックしたのは美少女たち!? そして彼女らの国へ連れていかれて、まさかの大臣生活(泣)!? なんで俺テロリストに協力してんの? 

 も投稿中なので、興味を引かれたら一読ください。

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