第27話 裏切り疑惑
翌日から、トワイライト領内の全貴族に次のような通達が出された。
トワイライト領内における通行税を廃止する。また、関所は申請し、認可を得た場所以外はすべて即日取り壊すように。
理由。
1 関所での足止めが人と物の輸送速度を遅くし流通を妨げている。
2 通行税が商品の値段に上乗せされ物価の上昇を招いている。
3 以上の理由から商人の労働意欲を奪っている。
理屈の正しさは明らかであり、従わない貴族は全員お家取り潰しとする。
旧ギヨーム領とオーガス領は、支配層の大半が失脚済なので、問題はなかった。
アルベール領の貴族たちは、この前の戦でアルベルトの強さを知っているせいか、全員すんなりと従ってくれた。
問題なのは、元々のトワイライト領の貴族たちだ。
この前の戦で、アルベルトの実力を知った一部の貴族たちは、首を縦に振った。
だが、今まで散々、アルベルトのことを冒険者かぶれの不良王子として馬鹿にしてきた貴族たちは、こぞって反発した。
皆、本家と戦中のこの時期に味方を失うような事はしない、お家取り潰しなどハッタリだと、タカをくくった。
そしてさらに翌日。
アルベルトは逆らった貴族を、本当に、全員、容赦なく幽閉した。
一部の大貴族は私兵で屋敷にこもって抵抗したが、全員がスキルホルダーのレギオンを差し向ければ、簡単に落とせた。
これは、今まで冒険者としてモンスターの相手が多く、対人戦が少なかったレギオンのメンバーに経験を積ませる意味もあった。
貴族の中には、領地の平原に布陣して、堂々と戦をしようとする肝の据わった者もいた。
そうした手合いは、新設した900人の長槍隊と、500人の連弩隊に対応させ、経験を積ませた。
それから、取り潰し家の中に、各貴族や騎士、従士の次男三男以下が多いレギオンメンバーの実家があった場合は、当主をレギオンメンバーに据えて維持。
そうでない家は本当に取り潰して、領地はアルベルトの直轄地とした。
幽閉された貴族の家臣たちが仇討ちとして謀反を起こす可能性があったが、それぞれの家臣たちには、レギオンのメンバーが説明した。
「貴君の主は●●卿だったかもしれない。だが、それはあくまでトワイライト大公家を頂点とした上での主従関係だ。今後、アルベルト大公に仕えるのは、裏切りではない。貴君の主は、主家である大公の出陣要請を無視して国防戦に参加せず、さらには領民の生活よりも私腹を肥やすことを優先して通行税に固執した。その結果、処罰されたに過ぎない」
そう言われれば、家臣たちはぐうの音も出なかった。
それでも、あくまでも直接の主だけに忠誠を誓う一部の騎士はいたが、彼らも幽閉した。
忠誠心は見上げたものだが、国防戦をボイコットし、領民より通行税を優先するような男に忠誠を誓っている時点で、同罪だろう。
こうして、トワイライト領内で、謀反の意がある貴族は一掃された。
続けて、また冒険者たちを使い、【通行税廃止】と【関所の縮小】の話を、スバル本家の領地で広めてもらった。
その甲斐もあり、スバル本家からは、毎日続々と行商人たちがトワイライト領に流れ込み、拠点を移してくる商会まで現れた。
スバル領の各種生産者たちも、スバル領内を移動すると通行税がかかるからと、生産物をトワイライト領へと卸す人が増えた。
結果、スバル領内は、日に日に物流が途絶え、2か月もすると、市場は現代日本で言うところの、シャッター街への道を辿り始めた。
一方で、トワイライト領には人、物、金が集まり、城下都市は一大商業都市へと成長した。
だが、パーヴェルとポールも、ただ手をこまねいてはいなかった……。
◆
ある日の昼下がり。
アルベルトがバイコーンに乗って城を出ようとすると、ヨーゼフと鉢合わせた。
ヨーゼフは、命令に背いて幽閉した貴族たちの解放を嘆願してくる。
「アルベルト様、どうかお考え直しを。彼らは代々、トワイライト家に忠義を尽くしてきた忠臣たちです。それを一方的に幽閉しては先祖に申し開きができません!」
口を酸っぱくして激を飛ばすヨーゼフに、アルベルトはにべもなく言った。
「国と領民の危機にも動かず、日和見やいざという時に足を引っ張る奴の何が忠臣だ、何が貴族だ。そんな獅子身中の虫を抱えたまま、スバル本家とは戦えないよ」
「ですが、貴族の品格を保つには予算がいるのです。領主の為、税を払うのは臣民の責務ではありませんか」
——民を何だと思っているんだ? ヨーゼフも大概だな。
家老という立場上、ヨーゼフは逆らわず、自身の領地の通行税を廃止にして、関所も撤廃した。
しかし、貴族の幽閉には、こうして連日、嘆願に来続けている。
——でも、悪気がないからやりにくいんだよなぁ。
三年前、学院にわざわざ迎えにきてくれたのはヨーゼフだ。
ヨーゼフの、トワイライト家に対する忠義心は本物だ。
ただし、彼の価値観は、致命的なまでに、偏っていた。
極端に昔気質で伝統を重んじるヨーゼフは、貴族と平民を完全に別世界の存在として割り切っている。
彼の義理も人情も、対象は貴族に限定される。
人が家畜の肉を食べることに疑問を抱かないのと、同じラインなのだ。
「アルベルト様」
そこへ、ラルフが現れると、ヨーゼフはばつが悪そうに、踵を返し去っていく。
「ふぅ、やっと行ったか。それでラルフ、どうしたんだ?」
「はい、実は先程、弟のアルベール殿に呼ばれ、屋敷を尋ねたのですが、そこで仕官を薦められました」
「え?」
それは、寝耳に水の話だった。
アルベールが、ラルフを引き抜こうとした、ということか?
「無論、断りました。どれほど金を積まれようと、中隊長に抜擢していただいたアルベルト様への恩義は、金塊の山に勝ります」
「そうか、ありがとうな、ラルフ」
ラルフの高潔さに感謝する一方で、アルベルトは焦った。
「まさか、謀反の準備か?」
「それと、先ほどの御仁は、家老のヨーゼフ殿では?」
「うん、そうだけど?」
「実は先程、アルベール殿の屋敷から、彼が出て行くのを見ました。もしや、私と同じように、引き抜きの話では?」
声を潜め、ラルフはやや深刻そうな声を作った。
「!? でも、ヨーゼフは俺に何も言っていないぞ?」
ヨーゼフがアルベールと共に裏切るという、最悪の未来を予想した。
身内のヨーゼフは、火縄銃が雨に弱いという弱点を知っている。
雨の日を選んで攻め込まれると、こちらにも被害が出る可能性がある。
策を用いて、二人を無力化することを考えてから、アルベルトはうつむいた。
11歳で王族学院に入学して以降、二人は疎遠になっている。
それでも、幼い頃の思い出は心に強く残る。
弟のアルベールと家老のヨーゼフを排除することに、アルベルトは躊躇いを覚えた。
「ラルフ、午後の会議にはヨーゼフを呼んでくれ」
「御意」
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