第37話 スバル王国統一
言い切ると同時に、アルベルトは周囲の床からあらゆる操生系スキルを噴出させた。
樹木が、火炎が、土石が、金属塊が、水柱が、小竜巻が、稲妻が、氷柱が、黒い影や白い光に取り囲まれて、ポールは絶望に表情を染め尽くした。
「そ、そんな、うそだ、うそだぁ……分家が、平民が、スキルをいくつも持っているなんて、そんなわけが……」
誰か味方はいないか、何か起死回生の方法はないかと、ポールは周囲を見渡した。
けれど、周りにいるのは、津波に巻き込まれた腰抜け騎士ぐらいのものだ。
――いや、パーヴェルはどこだ?
「アルト! パーヴェルが!」
ジャックが声を張り上げた先には、火傷で弱った体で走るパーヴェルの姿があった。
先程、騎士団が逃げて行った扉に向かっている。
ジャックが、すかさず弓を引き絞るも、先に扉が開いた。
パーヴェルが感激の声を漏らした。
「おぉ、アルバートよ、よくぞ来た。あいつらの足止めをするのだ。さすれば次期大公はお主のッ――」
パーヴェルの背中から剣先が生え、言葉が途切れた。
「アル、バート……」
「悪いな陛下、俺はアルベルトにつくぜ」
「そん、な……」
アルバートが邪悪な笑みを浮かべると、パーヴェルの体は弛緩して、床に崩れ落ちた。
スバル王国国王の、呆気ない末路だった。
その姿に、アルベルトが気持ち悪さを感じていると、水流の音が耳朶を叩いた。
振り向けば、ポールが水圧のジェット噴射で、火柱を強引に突破しながら、反対側のドアへ逃げていくところだった。
「はっはー! 残念だったな分家ぇ! やっぱりテメェはオレには勝てないんだよ! オレは亡命して、テメェをぶっ殺して玉座に着いてやる! それまで長い首を洗いながら待っているんだな!」
人間は追い詰められると、ここまで三下なセリフを吐くのだなと、呆れてしまうような、品性の欠片もない逃げっぷりだった。
すぐさまジャックの矢が放たれるも、ポールはドアを盾にして逃げてしまった。
アルベルトの指示を待たず、レギオンの中でも足の速いメンバーが追いかけた。
「アルベルト様!」
正面の門から、ラルフが駆け込んできた。
「ラルフ、冒険者たちを連れてきてくれてありがとう」
「いえ、あの程度の些事、大したことではありません。それよりも、この者がパーヴェルでしょうか?」
服は焦げているが、謁見の間に転がる中年男性、そして俺らの立ち位置から予測したであろうラルフに、アルベルトは頷いた。
すると、アルバートがすり寄ってきた。
「よぉアルベルト、久しぶりだな。こうして会うのはお前の戴冠式以来だな」
「アルベルト様、こちらの方は?」
「俺はアルバート、アルベルトの従兄弟だ」
「アルバート? 確か、以前の戦ではアルベール側についた敵では?」
ラルフが警戒すると、アルバートは不自然に明るく、竹馬の友のように振る舞い始めた。
「わかってないなぁ。敵を騙すにはまず味方から。全ては俺の作戦だ。まずはアルベールについてアルベルトの敵対者を喧伝してからスバル王家に取り入って、天下分け目の戦いで裏切り内部から敵を討つ。お前みたいな一兵卒にはわからないのかもしれないけど、幼い頃から苦楽を共にしてきたアルベルトには以心伝心、お見通しだぜ。なっ?」
親し気に肩に手を置いてくるアルバートを、アルベルトは蔑んだ眼で睨んだ。
そして、思ったことを、そのまま吐き出した。
「俺を裏切ってアルベールについて、アルベールが負けそうになったらスバル本家について、スバル本家が劣勢になったら裏切って俺に取り入るのか……」
王族学院での日々を思い出しながら、心の底から想う。
——あぁ、どうしてこんなに歪めるんだよ畜生!
かける言葉が見つからず、アルベルトは何も言わず、剣を振り上げた。
「ひぃっ!?」
アルバートはすぐさま逃げようとするも、ラルフが立ち塞がり、左へ逃げれば、エドワードから鉄拳を顔面に叩き込まれ、アルバートは仰向けに倒れた。
「アルベルト様。貴方の剣を汚す必要はありません。このような汚れ仕事は、同じくアルベール様の剣として戦った私が」
エドワードの言葉に、真っ先に反応したのは、アルバートだった。
「ちょっと待てよ、こいつ、アルベールの重臣のエドワードじゃねぇか! なんでこいつは良くて俺は駄目なんだよ! 俺なんかパーヴェルを、総大将を討ち取ったんだぞ! こいつよりも俺の方が役に立っただろ! 俺がいなけりゃパーヴェルを取り逃がしたかもしれないんだぞ! おかしいじゃないか!」
アルバートが喋る程、アルベルトは苛立ちが募って、頭がおかしくなりそうだった。
「アルバート。そういうことを言うような奴だからお前は駄目なんだよ」
アルバートが青ざめると、アルベルトは一言「やれ」とエドワードに命じた。
「待て、待ってくれ! いやだ、いやだぁああああああああああああ!」
浸水した床に、赤が広がった。
最悪の気分から気を取り直して、アルベルトは窓に向かった。
そして、【音声操生スキル】で、自身の勝利を叫んだのだった。
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