現場主義亜空間パーキングとポテトコーラ付きLLセット③


「アンクルB・B? あなたはたしか、ブラックバスがたくさん釣れる池にブラックバスを釣りにきたんじゃなかったかしら?」


「まぁ、そんなとこだよ。俺は忙しいんだ、いいかげんずらかったらどうだ? リビエラさん」


 このクソ暑い中、バチバチメイクにセクシースーツでキメたリビエラさんに気をつかって、早く消えろと申し上げてみる。あの格好はおそらく、どっかのお偉いさんか役所辺りにでも顔を出す予定なのかな?


「あら? もう忘れたのかしら? 私たちも池に用があるのよ?」


 そういや、そうだ。バミューダだ。あのガキ……すっかり忘れてたぞ……。


「そうだったな、バミューダに用があるんだったな。いいのか? ヤツらもういっちまったぞ? まぁ、なんでもいいけど、くれぐれも俺の邪魔はするなよ? クソメガネ」


 一矢報いようと憎まれ口を叩いてみる。リビエラの黒目がなんだか一瞬銀色になった気がした。もう一度、ゆっくりと、なるべく目を合わせないように、女教師赤眼鏡の奥にあるバッチバチにメイクされたリビエラの目を覗いてみる。


 すげぇや……


 あ、ファミマフラッペって『チョコミント味』もあるんだ、なんて雰囲気を醸し出しながら店の入り口の脇に置かれたノボリを眺めていたら「アンクルB・B。殺されたいの? 今ここであなたを亜空間に吹き飛ばしてあげてもいいのよ? どうする?」と、地獄の底から這い上がってくるような声が聞こえてきた。俺の名前を呼んでいるということは俺に尋ねているのかな?


 どうする? って聞いてるよな……


「いや、やめとくよ……リビエラさん」


「あなたに選択権はないの。いい? いつだって生殺与奪権は私が持ってるのよ? アンクルB・B」


 いや、あんたが聞いたんじゃないのか?……


 いつのまにかファミマフラッペを片手に、極太のストローを咥えていたウィッチさんが「はやく謝っちゃいなよB・B」とまたもや余計な口を挟んでくる。


 この尻軽、すっこんでろ……


 極太のストローを咥え込んだウィッチに薄睨みをきかせていると、リビエラがまたもや可笑しそうに笑った。



「まぁいいわ。アンクルB・B? 今からあなたに仕事を依頼するわ。引き受けてくれるなら、殺すのはもう少しだけ待ってあげる。どうする?」


「いや待て。俺は忙しいか……ら……」


 リビエラの目が銀色に変わった。もの凄い殺気だ。


「……しょうがないな。依頼なら宇宙マーケットを通してくれよ? リビエラさん」


「そういえばワンハンドレッド……元気でやってる?」


 薄ピンクの唇にバチバチの付けまつ毛、赤い女教師眼鏡に金髪のお団子。少ししおらしい表情をみせたリビエラさんの口元は優しく微笑みを浮かべている。


「ん? まぁな、最近また太ったみたいだしな」


「そう……じゃあターミナルから正式に依頼を送くっておくわね」


 リビエラはさっきから黙って突っ立っているチョビ髭に目配せした。


「仕事ってなんなの? リビエラ姉さん」


 いつのまにか俺の真横、いつものイカれた距離感で陣取り、極太のストローを咥えたウィッチが、リビエラに尋ねた。


 真っ白いTシャツに太もも剥き出しの短パン。真夏の様な10月の青空と照りつけるクソ熱い太陽。ファミマの駐車場の端っこで美味しそうにファミマフラッペをすすっているウィッチさん。その姿はまるでカリフォルニア・ロングビーチでハングアウトしているメリケンガール────いや、汗ばんだおでこの上で結んだその赤いバンダナの巻き方は90年代アメリカを彷彿とさせるストリートギャング。


「それ……美味いか?」と尋ねると、ウィッチさんは極太のストローを咥えドロドロした液体をすすりながら、少し潤んだ瞳で俺の目をじーっと見つめコクコクと頷いてみせた。


「あなたの護衛よ。ウィッチちゃん」


 なんの話だっけ?……


「は? あたしの? 必要ないでしょ。なんで? バミューダのガキ監視するだけだよ? 護衛とか要らなくない? ふつう?」


 ガキって……


「たしかに、コイツに護衛なんて必要か?」


「正直なところ、バミューダについては私たちもまだ全貌が見えてないの。バミューダが何かしようとしてるところまでは掴んだんだけど、接触するには少々危険すぎるでしょ? それでウィッチちゃんを呼んだんだけど……やっぱり不安でね」


「まぁ、亜式フレアをブッ放すような連中だからな……」


 リビエラが人差し指をチッチッと振る。


「また、波動コロニーでもばら撒かれたら、今度は日本がムー大陸になっちゃうじゃない?」


「…………」


 ウィッチは右手を後頭部に当て、てへへと笑い舌をペロッと出した。





 リビエラはアルファードの後部座席のに乗り込むと「じゃあ、あとはよろしくね。私は役所に行ってくるから、後で迎えに来るわ。じゃあね、ウィッチちゃん」と言い残し去っていった。


「あのクソメガネ……」と俺がぶつぶつ言ってると、ウィッチがツンツンと脇腹を突いてくる。


「なに?」


「誰がくそアマの尻軽なの?」


 ん?……


「誰がクソビッチなの?」


 ん?……


「せっかく助けてあげてるのに、くそアマ尻ガールは無いんじゃない?」


 くそアマ尻ガール?……


 脇腹にドスの効いた一発が入った。一瞬、目の前が真っ白になり、ゲボ吐きそうになる。片田舎のファミマ。だだっ広い駐車場でうずくまっていると、ざっと見て50メートル先に止まっている国産の四駆から大音量でキングギドラの『F・F・B』が流れていのが、かろうじて聴き取れた。


 他人の車の窓を鏡代わりに、ウィッチがなにやら耳元をいじっている。俺はとりあえずコーヒーでも買おうと店内入る。ふらふらと店内を歩いていると────窓越しに、なぜか俺の車の運転席側に乗り込むウィッチの姿が見えた。



 

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