土壇場に咲くクラシックスタイルとあの花は見たことないし名前なんて知ったこっちゃないけど色はたぶんアッシュグレー③


「時間を戻すっつっても、てめぇの友達はどうすんだ? すぐに勘づかれるぞ?」


「何度も言わせるな。誰も逃しゃしない。それに、『時間』を戻すだけだからねぇ……。ルール違反じゃない……だろ?」


「俺に聞いてるのか?」


 時間を戻すだけって……いつもそうじゃないのか? 何を言ってるんだ?


「まぁ、やり方は色々ある。お嬢ちゃん達の時間を戻したんじゃ……当然、ルール違反だ。バレると厄介だからねぇ……痛いのは嫌なんだよ。恥ずかしいし……」


 痛い? 痛いことされるのか? ルール違反は痛くて恥ずかしいことされるのか? どこで? どこで? どこで? ん? グリパツのまま? グリパツのまま、なんかされんの? どこで? お嬢ちゃん達の時間戻せば? 別によくない? お嬢ちゃん達の時間でよくない?


「よくわからんが、アイツらを死ぬ前に戻せばいいんじゃないのかな?」


「それじゃあダメだっつってんだよ。このニワカが。黙ってな。そんなに、あたしが酷いことされるのが見たいのかい? 前にやられた時は4、5年ご飯が喉を通らなかったんだ……恥ずかしくて……」


 クソ……そんなに酷いことされるのか? そのアッシュグレー外巻きグリグリお姉さんがそんなに酷いことされるのか? そのアッシュグレーが? なんて奴らだ。どこでやられるのか教えろ。くそババア。


「アイツら『を』戻したんじゃバレる。アイツら『が』死ぬ前に『戻る』んだよ」


 ……ん?


「誰が?」

「あんただよ」


 ……ん?


「よくわからないけど。それだと、時間だけじゃなくて……俺も戻ってるじゃないか……」


「……ん?」


 ん?じゃねぇよ。ババア。てめぇもよくわかってねぇじゃねぇか! どうなってんだ! ルール違反だ。それはルール違反だ! 俺の目は誤魔化せないぞ! ん? 待てよ……ルール違反ということはアレか?


「今すぐ戻せ。俺を今すぐ戻せ」


「ちょ、ちょっとまって。よくわかんなくなっちゃったよぉ」


 とんでもねぇな……こいつ。そんな直球で間抜け晒す奴初めて見たぞ……

 でも、なんだか可愛いく見えた。



 キン消し広場から見える空はもう、朝と言っていいくらい明るい。藪中にブラックバスを釣って生計を立てている連中が入っている可能性は十分ある。

 ガラは大丈夫だろうか? 通報なんかされたら厄介だな……。


 ババアは腕を組みアッシュグレーの毛先を指でクルクルしながら、なにやら考え込んでる様子だ。


 ふと、水抜きのことを思い出した。

 そういや……あれ、どうなってるんだ? バミューダが水を抜くとかなんとかって話だったよな? あと、忘れてたけど……リビエラは何やってんだ? 何の連絡もよこさず1日経っちまったけど……。あれ? ウィッチのガラは2日預かりなんだっけ? 

 リビエラのやつ、まさか、そのつもりで帰っちまったのか? あいつも結構とんでもねぇな……。ノーブラの女置いて帰っちまうなんて……。

 ……ノーブラの女…………我ながら酷い言いぐさだな。とっとと手を打たないと、なんだか面倒なことになりそうだ。


「おい、ババア。もう、考えてる暇なんてなさそうだぞ?」


 空を眺めながらタバコをふかし、ババアを急かす。


「だからぁ、ちょっと待ってって言ってんでしょ! で、できなぃわけじゃなぃんだよ? どうしたらいぃのかわかんなぃんだよぉ」


 両手をバタつかせたババアが眉尻を下げ口を尖らせる。

 またそれか? 間抜け系ツンデレか? 言っとくけど、俺はもうツンデレに飽きてるし、間抜けはさっきの一回で十分だ。

 皆んなだってそうだぞ? 

 なんなら、皆んなはあれだけ推していた『俺のゴミ』すらどうでもよくなってる。皆んなはもう、アッシュグレーが気になってしょうがないんだ。


 見向きもされなかったグリパツが、アッシュグレーだと分かった途端。「グリパツを出せグリパツを出せ」のシュプレヒコールだ。


 だいたい、アッシュグレー外巻きグリグリのロングが間抜けなわけないだろうが。ちょっと考えりゃ分かるだろ。このニワカめ。もっと勉強───


 ────ん? 待てよ?『アッシュグレー外巻きグリグリのロング』で『パッツパツのタイトスカートにハイネックリブ編みノースリーブニットおっぱい』のお姉さんなんて、さすがに手に負えないんじゃないか?と、誰もが二の足を踏む……。だが、実は間抜けだと分かれば話は別だ。一変して誰にでも股を───


 クソ……よくわかってるじゃないか……。くそババア。




「よし……たぶん大丈夫だよ」

「たぶん? 別に俺は構わないけど?」

「大丈夫……あんたを戻す」


 ババアが不安げな表情をみせた。


「何をするのか知らないけど、俺はどうすればいいんだ?」

「あんたをお嬢ちゃん達が死ぬ前に戻すだけだ」

「だから、その意味がよくわからないんだよ」

「…………」


 ババアがため息をつく。


「時間を戻したんじゃダメなんだよ」


 ────!?

 てめぇが言いだしたんじゃねぇのか?


「時間だけ戻したら同じことが繰り返されるだけだからねぇ」


 すっとぼける気か?


「あんたが戻って過去を変える……いや、未来を変えるんだ!」


 くそババア……カッコよさげなこと言ってるけど、どっちかよくわかってねぇだけだろ。


「だから、それはルール違反じゃないのか? 別に俺は構わないけど」

「なんだい! ルール、ルールって……あんたまであたしに酷いことしようってのかい?」

「いや、そんなこと言ってないだろうが……心配してやってるんじゃないか」


 どんどん明るくなる空は相変わらず、今日も気温が上がりそうな予感をさせる。いや、昨日に戻るから今日はもう、どうでもいいのか……。

 俺はいつまでこの藪の中に居ればいいのだろうか? ババアがなにやら上目遣いで俺を見ながらモジモジしている。もうなんだか疲れた……そういや、寝てねぇぞ? 俺は寝てない……。眠い。このまま、戻るのか? 戻れば寝てないことはチャラになるのか? なんだか、眠くてしょうがないぞ? 飯も食ってない……。いや、マック食った記憶はある……いや、食ったか? ビックマック食ったか? だめだ眠い……。


「べ、別に……あんたに心配されたって全然嬉しくないんだから……」


 ──? 


 ど、どうしたんだ急に? なんだ? 急になんだ? なにかキメた……よな? そんな感じだったか? そんなのキメる雰囲気だったか?






「あんたを戻すのは別にルール違反じゃない。そもそも、あんたが、お嬢達の死ぬ前に戻って何をしようと、連中は気付くはずがない」


「なんで?」


「お嬢が死ぬ前の時点では、お嬢が死ぬってことも、あんたが未来人だってことも、連中は知らないからだよ。誰も逃さないって言ったろ?」


「ああ、そう……」


「お嬢の時間を戻して生き返したら、完全にアウト。やられる」


「なにされんの?」


「……すごく……ひどぃこと……んッ……はずかしぃよ……言わなきゃ…………だめ?」


「ああ、そう……」


 ダメだ……くそ眠い。眠くて眠くてしょうがない。早くやろう。眠気がぶっ飛ぶヤツを早くやろう。ぶっ飛ぶヤツを。早くぶっ飛ぶヤツやろう。


「じゃあ、もう……やろう。あの時に戻ろう……」


「ああ、それから……こっちのあんたは……どうなるかわかりません」


 ……ん?


「……そうなの?」


「はい。今からあなたの意識を、あの時のあなたに飛ばします。つまり、ア○パンマン方式です。こっちのあなたはたぶん、ここでどうにかなります。あたしも一緒に行くのですが、こっちに戻ることは二度とありません。ですので、こっちでこれから起こることは誰にもわかりません。こっちがこのまま存在しているのかもわかりません。おそらく、不可視の領域になるか、時空ごと亜空間に飲み込まれます。当然です。あなたもあたしもあの時に戻るのですから。そういうことになります」


 くそ……なんだそれは? もう眠くてそれどころじゃない……。なにかやってるみたいだけど、後にしてくれ……。たぶん、俺ゴミ系じゃない……。グリパツ系の何かだと思うけど……後にしてくれ……。


「お嬢の時間を戻した場合について説明します。この場合も、時間そのものは戻しません。あなたの台風と同じ原理です─────

 ────────ですから最終的に……とても恥ずかしいことに……なります…………」

















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