極めて鮮やかな無彩色とロンリーウルフ②


「おい、宇宙マーケットに依頼したバスプロだろ?なんで俺の名前を知ってんだ?」


「言ってなかったっけ?オレも一応チャネラーの端くれなんだ」


「聞いてねぇぞ?」


「まぁ、台風起こすほどの力は持っちゃいないよ。せいぜい池の水温を2、3度、いじくれるくらいだな」


「十分じゃねぇか、自分でやりゃあよかったんだよ」


「無茶言うなよ。オレの力じゃブラックバスを釣りやすくするくらいが精一杯だよ。だいたい、台風起こせるようなチャネラーがわざわざ女連れて現場に足運んでんだぜ? そうとう切羽詰まってるのか?」


 バスプロは俺の横に立っているウィッチをチラッと見た。


「え? あたし? あたしは関係ないよ。池はあなた方のシノギでしょ?」


 シノギって……


「あんた、俺のこと知ってて、コイツのことは知らないのか?」


 バスプロは首をかしげ、ウィッチの剥き出しの太ももを見つめている。どうやら、まだ若干おっぱいが透けていることには気づいていないみたいだ。


「うーん、チャネラーなのか? 別にあんたの顔も知ってたわけじゃないしなぁ。宇宙マーケットってとこに仕事頼めばアンクルB・Bが出てくるってのは一般人ならともかく、能力者ならだいたい知ってる話だろ? だから、最初あんたを見たときすぐにピンときたんだ。でもまさかそんな格好でここまで来るほどアレな人だとは思わなかったよ。なんなんだその格好は? 二人してバカンス帰りか? 成田から直で来たのか?」


 なんだかよく喋るヤツだな……


「別に知らないならいいんだ。で、なんでわざわざ俺に依頼してきた? この辺にだっているだろ、それなりの連中が」


 バスプロがあまりにも露骨にウィッチの剥き出しの太ももを見ているので、このままだとおっぱいに勘づかれると思い、半歩近づいて威嚇気味に尋ねてみた。


「うーん。まぁ、いろいろあってね。敵が多いタイプなんだオレ。かと言って仲間内じゃ大したことできる奴が居ないんだな。んで、じゃあどうするかっつったら知らないチャネラー頼るしかないでしょって話で、あんたの噂は知ってたし越谷なら近からず遠からずじゃん? ちょうどよくねってことで、宇宙マーケットに依頼したってわけ」


 バスプロは、何故かちょっと近づいてきた俺を警戒しながらも、ウィッチの太ももと俺の顔を交互に見ながらぺらぺらと話し続ける。


 話がどうでもいい方へ飛びはじめると、ウィッチが「ちょっと」と、眉をひそめ俺の腕を掴みバスプロから離れ小声で話し始める。


「……なんなの? あのクソめんどくさそうな男は? もう断っちゃえば? なんか失礼なこと言ってるし、どうでもいいでしょ? あんなチャラいの」

「……たしかに、すこぶるいけすかないけど前金貰ってるからな、そういうわけにもいかねぇんだよ。ワンハンドレッドに悪いだろ……」

「……だったら、さっさと片付けて帰ろうよ。あたしはバミューダの方探ってくるから、そっちはそっちで勝手にやっててよ」


「そういや、バミューダはどうなってんだ?」


 池の向こうを見てみるとまだ5人ほどの人影が集まって何か話し合っている様に見える。

 これだけ丸見えなんだから、むこうもこっちに気がついてるはずだが、ガキは何も言ってこない。どうなってんだ?


「あいつらだろ? あんたに依頼する前からここに顔出してんだよ……なんかあの三人はヤバそうだよな? 作業着の二人はたぶん潮来市役所の人間なんだ」


 バスプロが真後ろに立っていて少しビクッとした。ウィッチはシレーッと離れて池の方へ歩いていく。


「ヤツらはスピリチュアル企業の連中だ。どうもクライアントは役所みたいだな。池の水を抜きたくてしょうがないみたいだぞ?」


「そりゃ困るなぁ、雑誌の取材なんかがある時はここのバスをゴニョゴニョしてやり過ごしてたんだよなぁオレ。何しろ、いくらでも釣れんだからここのバスはさぁ。それがテレビだ役所だって余計なことしやがって」


「…………まぁ、そんな事情はどうでもいい。俺はとにかく池の水を守ればいいんだろ? でも、あれじゃないか? 役所が噛んでるってことは明日抜かれなくても、その内また水を抜くって始まるぞ?」


 バスプロが「ははっ」と笑った。


「来週の取材を乗り切っちまえばこんな池どうでもいいんだよ、オレは来月には関西に移住するんだ。アッチは最高だよ。デッカいバスがウヨウヨいるからなぁ。そういやあんたの台風のアイデアは良かったよ、でも残念だったな邪眼持ちだもんなぁ」


 バスプロは帽子を取って眩しそうに空を見上げると、サイドを綺麗に刈り込り上げた坊主頭の汗を拭い、やや浮かせ気味にスカした感じで被り直す。


「そうか?あの台風が来てたら魚なんて根こそぎ吹っ飛んでたかもしれないぞ?」


「ブラックバスが無事ならいいんだ。アイツら結構丈夫だから、台風くらいじゃビクともしないよ。なんなら活性が上がって釣りやすくなる」


 Tシャツの襟に引っ掛けてあったサングラスをかけ直したバスプロが池の方へ歩きはじめたので、後についていく。

 黒いTシャツの背中にはルアーメーカーのロゴがプリントされている。


 ブラックバス以外の魚をないがしろにしてる気がするが……?

 バスプロってのはみんなこうなのか?……


「来週の取材ってのはそんなに大事なのか?」


「もちろん、オレらバスプロってのはブラックバスを釣ってなんぼなんだ。釣れなきゃギャラなんて出ない。オレの場合はメーカーとプロ契約してるから尚更だ。一回しくれば今後に響く、関西行きも危ういかもなぁ」


「なかなか厳しい業界なんだな」


「まぁね。世間からは遊んで金貰って、なんて思われてるかもしれないけど、半分遊びだからこそ大変なこともあるんだ」


 なんだかカッコいいこと言ってるけど、コイツのやってることはイカサマじゃないのか?



「ところで、あの女はあんたのアレか?」


 バスプロは振り返ると、池のほとりでしゃがみ込んで何かやっているウィッチの後ろ姿を指差す。


「いや、あんた本当に知らないのか?────

『ウィッチ・モンテカルロ』聞いたことあるだろ?」























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