プッシーキャット・シスターズと最後の晩餐③
そろそろ本題に入ろうと思う。
まぁ、お察しの通りだ。下準備はもうとっくに終わってる。でもまだ、ひとりだけウィッチ他が「死んでること」を知ってる人間がいるだろ?
そいつを消すのがスマート儀式。
グダグダ言ってましたが、そういうことです。
都合の良いことにリボルバーの弾があと一発残ってる。んじゃあ、このまま藪の中でひっそり、といきたいとこだけど……そうもいかない、ここで死んだら全部水の泡になる。藪の中で死んだら、俺まで「死んでないこと」になる。そしたら、ウィッチ他が「死んでること」を知ってる俺が、死ねないだろ?
ややこしいか? スピリチュアル界隈じゃそうなるんだよ。
俺は藪の外で死ななきゃならない、とにかく人目のつくところで……。そうすりゃ晴れてスマート儀式は成功だ。
クラクションの音が聞こえる……。アレは一体いつから鳴り続けているんだ? 大分長いこと藪の中にいたはずだぞ……。
スマホのライトを頼りに『例の獣道』を下る。木漏れ日の照らす幻想的な風景など面影もなく、月明かりなど届くはずもなく。暗闇の中、鬱蒼と生い茂る木々の間を縫って進む。昼間、この道で死にかけたことを想い、記憶の断片を辿る。背中に残る感触、手のひらが滑る感覚、鼻をつく常夏みたいなココナッツの匂い。汗で透けてしまったおっぱい。耳元で囁く吐息混じりの声は……もう二度と聞くことはない。
第七のラッパが終わりを告げる様に、微かに聞こえていたクラクションの音が徐々に大きくはっきりとした音に変化していく。既に覚悟は決めてある。にも関わらず、暗闇に響き渡るその音は「早く止めろ」と焦燥感を駆り立てる。死を覚悟した者すら逃がさない、人間工学に基づいた不快な音の偉大さを知る。
やがて視界が開けると藪の外に辿り着いた。目の前には相変わらず用水路が流れている。月明かりに照らされた片田舎の光景。しかし、安堵の余地はない、先ずやるべき事がある。アメリカ生まれの無駄にデカい車のドアを開け、イグニッションを回す。セキュリティが解除されると同時にクラクションが鳴り止む。
ふぅとため息をつくと、なんだか腹が減ってることに気がつく。不意に「飯くらい食ってもいいよな……」なんて言葉が口をつく。が、時間的にこの辺の飲食店が開いているとは思えない。いや、マックなら……と思ったが、マックも最近は夜中までやってない、人手不足なのだろうか? 一応、死体は藪の中にぶん投げて隠しておいたけど、あまり時間もかけたくない……。奴らの死体が見つかりゃ全ておじゃんだ。
しょうがねぇ……あのファミマでいいか……
あのファミマへ向かう途中、すれ違う車なんて一台も無く、ラジオを入れても雑音しか入らず、なんだか寂しくなりHDDに切り替えると、ウォーレンGの『This D.J.』が流れ始める。冥土の土産にはちょうどいい曲だ……。タバコを吸うため窓を開けると生温い風が吹き込み、10月の夜とは思えないくらいの気温だと、あらためて気がつく。
ファミマの駐車場に着くと、やっぱり客なんてひとりもいない……。あの時、ガキの首根っこ捕まえて引きずり回しておけばと悔やまれる。
とりあえず、店内に入りブラックの缶コーヒーを手に取る。なんだか店員の姿が無く。「すいません」「すいません」と二回声を掛けると、奥から眼鏡をかけた長髪の男が出てきた。どうやら、こいつに看取って貰うしかなさそうだ……。
深夜のコンビニアルバイト歴30年といった風貌の、二十歳そこそこの店員にコーヒーを渡し、チラッとジャンクフードコーナーを見たら、空っぽだった……。
ファミチキねぇじゃん……
店の前でコーヒーを飲みながらタバコを吹かしていると
薄っ暗い街灯に照らされた異様な雰囲気の人影が歩いてくるのが目に入る
あの格好はどう見ても尼さんにしか見えない
こんな夜中にひとりで歩いてる尼さんなんてぶっ飛んでるなと思っていたら
どうも俺の方に向かってくる
嫌な予感しかせずちょっとマズいかなとタバコを消し車に乗り込もうとドアに手を掛けると
予想より早く背後に気配を感じた
振り向くと当然尼さんが立っていた
「やれやれ……無駄死にする気かい?」
クソ……
「……ババアか?」
尼さんは質問には答えず鼻で笑い、助手席にぶん投げてあったリボルバーを横目で確認すると、開いていた運転席のドアに手を伸ばし、勢いよく閉めた。
クソが……
「面倒なことするんじゃないよ?」
間違いない。ババアだ……。クソが……。
「てめぇ、ババア!! いつからだ? いつから見てた!?」
「坊や? あんたのことは、いっつも見てるよ? あんただけじゃないねぇ……」
「うるせぇ、そんなこと聞いてんじゃねぇ!! 無駄死にってどういうことだ!!」
「まぁまぁ、こんなところじゃなんだろう? 藪までドライブと洒落込もうじゃないか」
ババアはそう言って店の方へと目をやる。なぜか尼さんがいることに気がついたのか、さっきの店員が出入り口付近に突っ立って、じーっとこっちを見ている。俺と目が合うと店の奥に消えていった。
店の壁に取り付けられた紫の光りを放つ殺虫灯が耳障りな音を立てる。越谷の空よりは明るい10月の夜空。やたらと湿気った風が、ど田舎の匂いを運ぶ。水銀灯を反射して鈍く光る口紅、修道服を纏い微笑みをたたえ女は、酷く冷たい目をみせる。
たぶん、ババアは知ってる……。クソ……コイツもバラすか? 弾はあと一発ある……いや、無理だ。鉛玉くらいで殺れるとは思えない……。何か他の手で……。
「どうやってあたしを殺ろうってんだい? やめといた方がいいねぇ」
「……うるせぇ。黙ってろ」
「まったく。いいからさっさと藪に戻るよ」
「…………」
また藪か……。これはもうババアをなんとかしないとどうしようもない。
クソ……せめて神様なら………………
もうこうなったら…………とりあえずタバコでも吸おうと、火を付け。喫煙スペースに置かれた水色のベンチに腰掛け深くため息をつく。顔を上げると、ババアがなぜか────俺の車の運転席側に乗り込む姿が目に入る。
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