プッシーキャット・シスターズと最後の晩餐②


 人の生き死になんて、ひどく曖昧で。


 生命とは何か? 死んだらどうなるのか? そんなもんは科学者か哲学者か、インターネットにでも任せておけばいい。


 知り合いが死んだら、すごく悲しい、ただそれだけの話だろ?

 でも、死んだことに気がつかなければ、その知り合いはどこかで生きている。スピリチュアル界隈ではそうなる…………ことが、ごく稀にある。


 この藪の中には、44マグナムで頭を吹っ飛ばされた死体が五体あって、テディベアを買ってもらう約束をした女の子がいて、その女の子をボスと呼ぶ部下が二人いて、ブラックバスを釣って生計を立てている男がいて、セクシー女優の叔母さんがいることになる。

 こんなわけの分からない藪の中で、こいつらが死んだことなんて、まだ誰も知らないし、生きてたとしてもこの先なんの問題もない。それなら、生きてることにしとけばいい。

 要はウィッチが死んだことを知ってる人間がいなくなればいいってこと。つーことで、ガキとその他の連中には死んでもらった。

 ついでに、ガキとその他の連中が死んだこともまだ誰も知らない訳だから。あとは俺がスマート儀式をやれば、五人が死んだことなんて「藪の中」って事なのです。


 ウィッチが、こりゃ完全に死んだと分かったとき……俺はスマート儀式のことをふと思い出した。ちょうどいい得物も転がってたんで、こりゃやるしかないと……じゃなきゃ「上物の尼さん」を探す為に、冒険の旅に出発する羽目になると。それはマズいってことで実行したわけだ。


 藪の中ってのも幸いだった……もし、これが潮来駅前とかだったら……いや、例えが悪い……柏駅前とかだったら、とんでもないことになる。

 目撃者全員をバラさなきゃならないわけだ。柏駅前ならせいぜい数千人ってところか?……数万か?

 まぁ、全員をバラして、それでウィッチを「死んでないこと」にして終わりってわけにはいかない。

 数千人が死んでるからな、ニュースにでもなりゃ日本どころか世界中に知れ渡る。そのままにしとくわけにはいかないだろ?

 今度は、死んだ数千人が「死んだこと」を認識した人間全員をバラさなゃきゃならなくなる。さらに、その人間が死んだことを認識した人間を───最後のひとりをバラすまで続けることになるわけだ。後始末は大事だからな。

「ウィッチを生き返らせる為に死んだ人間」全員を「死んでないこと」にするとなると、地球丸ごと吹っ飛ばしたほうが手っ取り早くなるし、さらにその先も……。これじゃあ本末転倒もいいとこだ。結局、尼さん探しに行った方がいい。


 スマート儀式は閉ざされた空間で起きた案件を「藪の中」に葬ろうって儀式。でも、バラして回るのがスマート儀式ってわけじゃない、これはただの下準備。「認識してる人間」全員をバラしてからが本番。当然、下準備の段階でうるさい連中が出張ってくる。もちろん、そいつらもバラさなきゃならない。ただ、スマート儀式を成功さえさせちまえば……誰も文句は言えない。というか、ウィッチが「死んでた」ことなんて誰も知らないことになる。


 当然だよな?

 ウィッチ死んだことを知ってる人間を全員バラす訳だから。


 まぁ、別に人の生き死にじゃなくてもいい、例えば尼さんでもいい、尼さんが傷物なわけないから、上物か並かは試してみるまで誰にも分からない。試してみた結果『ゴミ』だと分かる。そしたら「ねぇ……おねがぁい、アイツらバラしてきてよぉ。今度、妹もつれてくるからぁ」と頼まれ、渋々アイツらをバラす。

 アイツらは尼さんがゴミだと知ってたわけだ。そこで、スマート儀式をやれば尼さんはまた上物か並か分からなくなる。

 つまり『実はゴミ』ということになる。元の状態に戻ったわけだ。

 ただ、この場合、スマート儀式は、やらないという選択肢もある。

 アイツらは死んでるわけだから、尼さんがゴミだなんて知ってる人間は俺しかいないだろ? そのままにしといても特に問題はない。

 あと「上物のゴミ」というケースもあるが、その話をするとややこしくなるからやめておく。


 尼さんの話はもういいよな? 藪の話をするぞ?


 藪の中で今、ウィッチがどうなっているのか、藪の外からは分からない。というか、死んでるなんて誰も思ってない。尼さんがゴミだなんて誰も思わないのと一緒だ。てことは、藪外からしたらウィッチは生きてる可能性が高い。でも、実は死んでるから「上物のゴミ」の可能性が高いわけだ。

 なんなら、藪外の皆んなは「上物のゴミ」が一番いいんじゃないか?とさえ思い始めている。


 藪外はこれで済む……誰にも文句は言わせない。


 ただ、藪中ではウィッチは完全に死んでる。でも、ガキ及びその他も死んでるから、ウィッチが死んでることは誰も知らない。


 そこでスマート儀式。


 結果、ウィッチがどうなってるか分からなくなり「死んでないこと」になる。ついでにガキ他も「死んでないこと」になる。つまり皆んな「生き返る」これが元の状態。もちろん、他に選択肢なんか無い……。あとは、こいつらが藪からひょっこり出てくるのを待てばいい……。


 もういいかげん理解したか?


 コレで分からなきゃ、インターネットにでも聞いてこい。スマート儀式ってのは正式名称じゃないからな? 検索するときは気をつけろ。看護がどうのこうのって本がでてくるからな。「上物の看護婦」なんて比較的多そうに思うだろ?大間違いだ。かなりの確率でゴミが混ざってる。

 ただ、やっぱり、皆んなは「上物のゴミナース」が一番いいんじゃないないかと────


 残念なことにスマート儀式の成功例はネットじゃ見つからない……。やり方くらいは出てくるんじゃないかな?


 で、そろそろ本題に入ろうと思う。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る