第11章
プッシーキャット・シスターズと最後の晩餐
もし神様がいるなら真っ先に殺す。どんな面かなんて拝む気もない。
もう少しこっち側に居させてくれなんて喚いたりしないから。
.44口径で頭をぶち抜かれた女が置き去りのまま、何気なく時間が過ぎていくなんてスピリチュアル界隈ではよくあること。
転がっていたリボルバーを拾って、アルビノの少女を撃ち殺すなんてスピリチュアル界隈じゃよくあること。
ついでに女を一人、男を二人撃っちまったけど誰にも文句は言わせない。
もう後戻りできない領域に踏み込んだ俺を、草葉の陰から覗き見してる全知全能の神なんていないことを…………神に祈る。
それでも間抜け面晒そうっていうなら、必ず殺す。
スピリチュアル界隈ではあんたが邪魔になることなんて、よくあること。
クソ……面倒なことになった。
とりあえず目撃者はもういない……はず。役所の連中が先に帰っててくれてよかった。水死体まで上がっちまうとこだったよ。さすがに参るね……これは。こんなわけの分からない藪の中で四人も撃ち殺すはめになるとはね……。
…………。
撃つとは思ったが、マジで殺らなくてもいいだろうが。ウィッチの頭が吹っ飛んだときはさすがに動揺したよ……このくそガキ。おかげでこの有り様だ。俺がチャネラーじゃなかったらとんでもないことになるぞ?
茨城県
トカレフでもマカロフでもS&Wでもウィッチが死んだことには変わりない……。
どうしてくれんだ?このくそガキめ。余計なことしやがって。まさかこのガキ、端っからそのつもりで……。いや、ウィッチが来ることまでは知らないようだった……売春婦が、とか言ってたしな……。
なら、的は俺か? いや、このガキがわざわざ鉄砲玉みたいなことするわけないか……。
たぶん、護身用に持ってたんだろうな……44マグナムを詰め込めるような代物を……。だからここは日本だぞ? ぶっ飛び過ぎだろ。頭イカれてんのか?このガキ…………頭は吹っ飛んじゃってるな……。
だいたい、そっちの三人なんてとんだとばっちりじゃねぇか…………まぁ、俺が撃っちまったんだけど……。
グズグズしてたら辺りもすっかり暗くなってきた。まさか、こんな時間からこの池に来る奴もいないだろう……。
それにしても暗い……。月明かりでかろうじて五人の死体が見える程度だ。
暗いうえに、しんと静まりかえったこの『反スピ藪池広場』では、時折池の水が「ちゃぽん」と音を立てるだけで、虫の鳴き声すら聞こえない。おあつらえ向きもいいとこだ。
そろそろ始めるかな……
禁断の儀式ってやつはいつの時代も他人の目に触れるのは御法度。だから夜やるって相場は決まってる。スピリチュアル界隈じゃ基本中の基本であり「タブー」。禁断なんだから当たり前だ。
ただ、タブーつってもピンキリでイタズラみたいなものから、くそガキの「お母さん」みたいなガチまで色々ある。あの「お母さん」は「儀式系」のやつではないが、一般人が聞いたら死にたくなる様な非人道的な領域に踏み込んでいる……あの話をうんうん頷いて聞いてたウィッチの気もしれないが。
とはいえ、やり方さえ間違えなければ一般人でも不思議体験が出来るってのが、禁断の儀式のとっても良いところである。
悪魔召喚だろうが、サンクチュアリの聖なる儀だろうが、コックリさんだろうが、正しいやり方ってのがある。日本じゃ悪魔なんて見たことねぇけど……。
そこそこの能力者であれば誰に教わるでもなく、やり方を覚えていくのが普通……だと思う。少なくとも俺はそうだ。
一般人でもガキの頃から親兄弟なんかに教わってやる「遊び」の中に禁断の儀式が紛れてたりするもんで、正しいやり方でやると『表宇宙』の太陽系が9日で滅ぶような無茶苦茶なのもあったりする。
『あみだくじ』とか……。
まぁ、ほとんどの連中はただの真似事をしているに過ぎない、どっかのチャネラーなりシャーマンなりが小銭でも稼ごうとして吹いて周った「禁断の儀式のやり方」ってのが大昔から世の中には溢れかえっている。
正しくやれば一般人でも、悪魔に魂を売り渡すこともできるし、100万年後の未来まで予知することだって出来る。太陽系を吹っ飛ばすのだって簡単だが、何かしらの手順が抜け落ちていたり、そもそもデタラメだったりがほとんど。
間違ったやり方をしたところで結果は何も起きないが、そのデタラメなやり方自体に実害が伴う場合もあるし、正しい手順にぶっ飛んだ内容が含まれていて手が出せず、その部分だけ廃れるというケースが多い。
「まず、生贄が必要です。生贄は人間の女、それと星の砂、あとは気になる相手の名前を書いた紙を小袋に入れて────最後に三人の生贄を──」
なんて言われたら、能力者でもハードルが高すぎる……。他人の名前を書いた紙を持ち歩くなんてどうかしてるだろ……バレたらどうすりゃいいんだ?
儀式の中には勿論「禁断じゃない儀式」もある。禁断じゃなくても適当にやったら当然なんの意味もない、どちらにしても儀式を行うには能力者の知識と経験が必要になってくる。
何とか教会やら何とか神宮やらでも、一般人がやってるようなところは俺らから言わせりゃただの詐欺集団に過ぎない。いくらなんでもアレで金をせしめようなんて、中々活きのいいクズだ。
別に、こっちにちょっかい出して来なければ好きにやってくれて構わないけど。
またグズグズやってたら────まぁ、お察しの通り。これから、ウィッチを生き返らせる。
当然だろ?
スピリチュアル界隈だからね。
そんなに驚くような事じゃない。
ああ、それからついでに、ガキとガキの手下二人と役立たずのペテン師も……。
というか、ウィッチを生き返らせるには四人に死んでもらう必要があった。ウィッチが生き返ればついでに四人も生き返る。
少しややこしいが、俺がやる儀式自体はタブーってわけでもない、人の生き死にが絡むとうるさい連中が出張ってくる……そういう儀式。
俺もやるのは初めてだけど、咎められることもないだろう……。
たしかこの儀式……「カラカス」だか「エルサルバドル」だか「サンペドロスーラ」だか、横文字の洒落た名前もあった気がするけど覚えてない。
生き返らせるつってもド○クエの教会で神父様がやるような、故人の魂をどっかから引っ張り出してきて、亡骸にもう一度ぶっ込むなんて泥臭いやり方はしない。もっとスマートにキメるのが俺のスタイルだ……初めてやるけど。
だいたい、ド○クエのアレをやろうとすると、神父様の横にいる虚な目をした尼さんが大変なことになる。尼さんに呪われた装備を脱がしてもらうとか、尼さんに毒を吸い出してもらうとか、虚な目をした尼さんのいやらしい体で麻痺した体をどうにかしてもらうとか、なんならもう尼さんっぽい格好でいいやとか、ならまだしも……。
死人を復活させるとか言い出すと、尼さんがもう……大変なことになる。
アレはフィクションというわけでもない、公然と行われていた時代もあるらしいが、ひとり復活させる為には当然のように、数十から数百体の生贄が必要になるし……「復活の儀式」の媒介役に選ばれた尼さんが──────
「いや……なんでもする……なんでもするから……あの儀式だけは嫌!! おねがい……おねがいしますおねがいしますなんでもします、なんでも────そ、そうだ……い……妹……妹がいるの……あの子を私の替わりに……ねぇ、だから……おねが────ちょっと……ちょっと待って……生贄……生贄にして、私を生贄に────ちょ、ちょっと待って!! いや、いやぁぁ!! 殺して……殺してよ……殺して!! 殺せ!! 私を殺せぇぇえ!!!」
と、泣き叫びながら連れて行かれる……。あの教会では尼さんに人権なんて無いみたいだ。あと、妹が可哀想だ。
そんなもん現代社会でやろうものならスピリチュアル界隈から批判の嵐になるだろうし、国内だとターミナルが黙ってない……。
まぁ、尼さんさえ手に入れば「復活の儀式」も出来ないこともないが、「上物の尼さん」にこだわるとかなりのレアアイテムだし、生贄の数が多すぎて、ちょっと面倒臭い。
俺のやるスマートで横文字のカッコいい名前のやつは、ウィッチとガキとその仲間たちを「死んでないこと」にする儀式。だから、蘇生とか復活とかそういうのとは違う。初めてやるけど。
つっても、特にややこしことをするわけじゃない。初めてやるけど。
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