第9章
極めて鮮やかな無彩色とロンリーウルフ
薄っ暗かった藪を抜けると急に目の前が開け、だだっ広い空間が広がっていた。
アメフトのフィールド4面分くらいある広場のど真ん中。傾いて黄色味を帯びた太陽の光をキラキラと反射させて波打つ池が見える。
紅葉の時期にはまだ早く、藪のものとは思えない赤や黄色の落ち葉でぎっしりと敷き詰められた足元は呆れるくらい平坦で、敷き詰められた落ち葉と同じ高さで広がる水面には空に浮かんだ雲が写り込む。
鬱蒼とした藪の草木に囲まれポッカリと広がる「極彩色」で彩られた、まるでファンタジーの世界にでも迷い込んだ気にさせるこの空間で、藪の陰に隠れ立ちションをしていると、ポンポンと肩をたたかれた────
────振り返ると真後ろにウィッチが立っていた。
「やっぱりあれバミューダじゃない?」
池の対岸に何人か人影が見える、その内ひとりは子供だ。それは俺も気がついていた……。
でも、今? それ今言う必要ある? ちょっと待ってればいいのでは?
ウィッチは真剣な眼差しでバミューダらしき連中を凝視している。
早々に立ちションを終え、池の方に目をやる。
「たぶん、むこうもコッチに気がついてんじゃねぇか?」
「でも、あのガキ、声飛ばしてこないね」
口悪りぃな、このアマ……
「たしかに、おかしいな、あのお喋り────」
──────ガキの悪口を言おうとした時、「俺たちの獣道」とは別の獣道からガサガサと音がした。
黒いTシャツにジーパン姿のサングラスをかけた男が獣道から飛び出してくると、辺りを見回している。
池の向こうの人影を見つめ、すぐに俺達の存在に気づきベースボールキャップを後ろに被り直すと、こちらに向かって歩いてくる。
「……ねぇ、アレって……」
ウィッチが声を潜めて目配せしてくる。
「ああ、例のバスプロだな」
ロッドは持っていないようだが、ワンハンドレッドに観せてもらった動画に映っていた男で間違いない。
なんだか胡散臭いことをあーでもないこーでもないと喋りながらブラックバスを釣っていた。
まぁ、人の職業をとやかく言うのもアレだが、俺は基本的にブラックバスを釣って生計を立てようなんて考えてるヤツは信用してない。
ましてや、今こっちに歩いてくる、「ああいう風」な連中は尚更だ。
見た目からして半グレか何かにしか見えない。
だいたい、ルアーメーカーなり洋服屋なり、てめぇで看板背負ってるならまだしも、ただブラックバスを釣って写真撮ってもらってるバスプロってなんなんだ? なんの仕事してる人達なんだ? やってることはパチプロと変わらないんじゃないか? いや、釣るなとは言わない、ただ趣味でやるならなんでもいいけど、ブラックバスを釣って生計を立てようなんて考えるくらいだからまともな教育を受けているとは思えない、中学もろくに卒業していないのではないだろうか? 身内に会わす顔はあるのだろうか? 身内なんていねぇのか? スラム生まれのストリートチルドレンか何かなのか? そもそも、ブラックバスって特定外来生物じゃないのか? アメリカ辺りじゃスポンサーやってるにも関わらず、日本じゃ知らんぷりしてる某自動車メーカーだってあるくらいグレーじゃねぇか、バスプロ名乗っておきながら海に逃げてるのもいるしな、なんでそんなもんあてにして生活できるんだろう……。
日本の七不思議のひとつだと思う。
近くまで来るとサングラスを外し、真っ黒に日焼けした顔を露わにしたバスプロが声をかけてきた。
「あんた、もしかしてアンクルB・Bか?」
──!?
コイツ……
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