不可視の森と申し立て回避の冴えたやり方⑤
「いいから行くぞ」
もう池なんて後回しだ。とにかくてめぇをキン消し広場に連れて行く。話はそれからだ。
「……ッ……んっ」
一歩踏み出すと、ウィッチが腕に力を入れ、おっぱいを背中に押し付けてくる。
そういえば、いったん離れたおかげで背中の熱が冷めてきたみたいだ。
むしろ、ひんやりしてて気持ちいいぞ?
でもなんだか服が背中にピッタリくっ付いてる気がする……。
ウィッチのTシャツもピッタリくっ付いてた……おっぱいに……。
ということはアレか?
もう、ほぼ直みたいなもんじゃないのか?
「……ねぇ?」
クソ……
「……また……したくなって……きちゃった……」
「ハザードでも焚いとけ、カマ掘られたら終わるぞ?」
「……なにそれ……バカじゃないの?……」
少しむくれた声。でも、こっちはそれどころじゃない。お前がズリ落ちてきてるせいで大変なことになってんだよ。
「……なんか……ぬるぬる……しない?」
いまさら?
いや、それどころじゃない。お前の剥き出しの太ももがぬるぬるしてるとか、そんなこと言ってる場合じゃない。お前アレだよな?なんだか丈の短いTシャツ着てたよな?めくれ上がってるよなそれ?
そんなに擦り付けてたら……めくれ上がってるよな?
完全にめくれ上がってるであろうTシャツに気がついたのか、ウィッチは無言で……いや────
「……んっ……ん……んっ」と、おっぱいと背中の間に手を突っ込んでなにかやっている。ぬるぬるしてるから、さぞ突っ込みやすそうだ。
なにをしてんだあんたは……いいかげんにしろ。
死ぬぞ? 俺は死ぬぞ? 俺が死んだら、あんたも死ぬからな?
ウィッチはなにかやりつつも、どんどんズリ落ちていく。もはや、条件反射的にズリ落ちるウィッチを揺すって定位置に戻す。
「……ちょっ……ッン……ダメ……だって……ッ……ッ……ぁ……………」
一瞬、ぬるぬるした両腕で俺の首元を締め付けると、全身から力が抜けた。もはや、ただのぬるぬるした塊と化している。
まさか、死んだのか?──────
────────と思った瞬間、脇腹の辺りに擦り付けられる剥き出しの太もも。
「……もぉ……変なこと……しないでって……いったじゃん……」
なんとか息を吹き返したみたいだが、もの凄い力で脇腹を締め付けていらっしゃる。剥き出しの太ももで。
「……なんか……暑ぃね……また……汗かぃてきちゃったょ……ほら……もぅ……びちょびちょ」
耳元に吐息がかかる。
ウィッチがTシャツの胸元を掴みパタパタ扇ぐと、甘いココナッツの匂いが鼻を掠める。
ふと、肩に掛かっていた重みが一瞬消えた。
「─────ッ……と、あぶなかったぁ……」
腕を滑らせバランスを崩したウィッチが、咄嗟に俺の肩を掴み首元に腕を回す。ほぼ直のおっぱいを背中に何度も何度も押し付けていらっしゃる。
まためくれ上がってしまったのだろう、ウィッチは無言で、いや────
「んっ……ぁ……ッ……んっ……」と、小さな吐息を漏らし、ピッタリくっ付いたおっぱいと背中の間に手を突っ込んでなにかやり始める。
やっぱり、俺は死ぬのか?……
暴力的なまでの締め付けに為す術もなく、足を止め狭い空を見上げると、クソ暑い藪の熱気を根こそぎ掻っ攫うように、涼しげな風が吹き抜けていく。
背の高い木々の間で、キャンディピンクの小さな蜘蛛がフワフワと揺れている。
「ねぇ……なにしてんの?……はやく……でちゃうょぉ……」
ぼんやりと眺めていたら、獲物でも掛かったのか小さな蜘蛛は、枝の中に消えていった。
何度目かの涼しげな風が吹き抜ける。ココナッツの香りを掻き消すように。
クソ……。まだ、死ぬわけにはいかねぇか……
剥き出しの太ももに手を添え、もう一度、キン消し広場に向けて足を踏み出す。
そういや、ワンハンドレッドのやつ、戻ったら話を聞かせろなんて言ってたな……。
「藪で死にそうになった話」でもしてやろうか?
どうせ「すごいな君は、僕なら瞬殺されてるよ」なんて言って、笑うんだろうな。
あの豚メガネめ……コイツはその辺の尻ガールとは違うんだよ。
俺がこの女に手ぇ出してみろ、どうなるかわかるか?
スピリチュアル界隈が黙ってねぇかもな?
まぁ、そんなのはどうでもいいけど……。
今迄通り……なんて、いかなくなるよな?
馬鹿みたいにくだらねぇ日常が全部吹き飛んじまったらどうだ?
クソつまんねぇことになるぞ?
ついうっかりなんて、そんなの、笑いごとじゃ済まねぇだろ……。
日の光が差し込み他よりも明るくなっているキン消し広場が、ようやく見えてきた。
「おい、見えるか? もうすぐだぞ」
「ほんとだ……あそこなら大丈夫そうだね……」
なんだか浮き足立ってるウィッチにおっぱいをグリグリ擦り付けられながら、なんとか辿り着いた。
キン消しの方をチラッと見ると、まだある。
あたりまえか……ない方が怖いよな?
とりあえず、ウィッチには悟られないように出来るだけ離れた所で降ろしてやる。
周囲を囲む青々とした木々のものとは思えない、枯れた落ち葉で敷き詰められたキン消し広場。
もう、そんなことはどうでもいい……。
神様、俺はやったぞ、あんたの試練を乗り越えたんだ。
広場のど真ん中に立ち、空を見上げてキョロキョロしていると、なにやら視線を感じた。
ハッとして振り返ると、眉間にシワを寄せ腕組みをしたウィッチが俺のことを見ている。
「ちょっと。早くどっか行ってよ」
とりあえず、来た道の対角にある新たなる道へ入りもう一度天を仰ぐ。
「Hey, old geezer!! Don’t give a fuck with me」
しばらく耳を澄ましてみるがやっぱり何も聞こえやしない。
そりゃそうだ……こんな、世界の端の端の端みたいなとこまで、あんたも構ってらんねぇよな……。
なんとなく、両手を合わせてみると、あのメロディが聴こえたような気がして。
振り返ってみると、ウィッチが口笛を吹きながら歩いて来て。
俺の目の前で立ち止まると、漏らしかけた女は空を見上げて、何か呟いた。
「Thank G for helping me, and......Uncle B.B」
よく見るとやっぱりまだおっぱいは透けていて
本人はどうやら気づいてなくて
そういや、このアマのガラ……明日まで俺の預かりでいいんだっけか?なんて思ったりして
「んじゃ、行きますか?」なんて声をかけると
「そうですなぁ」なんて
クソ暑い10月の空はほとんど見えないけど、少し傾いた太陽が、なんだか名残惜しく感じた。
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