現場主義亜空間パーキングとポテトコーラ付LLセット②


 ファミマの駐車場でファミチキを食べながらコーヒーを飲んでいると、なんだか店の前の通りが騒がしくなってきた。


 どうやら、硬派な方々が乗られた街宣車が近づいてきているようだ。凄く硬派な作業着を着た民間団体の人達だ。


「地域住民及び、他地域からお越しになられる釣り客の気持ちをないがしろにしてまで、池の水を抜くという行為がそんなに大事なことなのでありましょうか? 我々はそうは思いません。ほぼ全ての行動原理が営利目的であるテレビ局が大手スポンサー企業に広告費を募り、なんの罪もない方々の趣味並びに生活の糧でもある大切な池の水を抜くなどという野蛮な行為が、戦後先人達が築き上げてこられたこの日本国内で本当に行うべきに値する正当な理由のある正しい行為と言えるのでありましょうか? テレビ局並びに大手スポンサー企業、潮来市行政は私腹を肥やすために大切な自然資源でもある池の水を──────」


 もう、池なんてどうでもいいんじゃないかと思い始めている。


 硬派な書体の漢字で飾られた艶消し紺の大型バスを横目に、ファミチキを平らげてタバコをふかしていると、バスの後ろに着いてトロトロ走っている現行の白いアルファードが見えた。アルファードはそのままファミマの駐車場へと入ってきて、喫煙スペースにいる俺の前に止まった。


 クソ、鬱陶しいのも出てきたか……


 運転席から黒いタキシードにモノクル、チョビ髭をはやした初老の男が降りて来る。


「これはこれは、アンクルB・B様。今日はお仕事でございますか? こんな片田舎で」


「まぁね、俺もいろいろ忙しくてね」


「さようでございますか。我々も仕事でございます。お互い忙しゅうございますな」


「そうでございますな」と適当にあしらい、タバコを消してとっととずらかろうとしたとき、アルファードの後部座席から金髪お団子頭に赤い眼鏡をかけた女が降りてきた。さらに、反対のドアから降りたウィッチがチョコチョコっとこちら側に歩いてきた。


「アンクルB・B。お久しぶりね」


 赤い女教師眼鏡に派手なストライプのミニスカスーツを着込んだこの女に、チラッと目を合わせ右手で軽く挨拶を返す。


 そして、頭に昨日と同じ赤いバンダナリボン……じゃない、アメリカのギャングみたいに赤いバンダナをおでこの上で結んだウィッチが軽く口を開けコッコッと舌を鳴らしてくる。なんだその挨拶は……このメリケンかぶれめ。ストリート生まれかお前は。それをやっていいのはアメリカのティーンエイジャーだけだ。わきまえろ。


 いや、まぁ……ウィッチはどうにでもなる。問題はそっちのメガネだ……クソ……。


政府機関第一ターミナル所属。

『リビエラ・パヴェサファイア』

チャネラーであり、当然……いけすかない女。


 第一ターミナルは主に日本国内において能力者の監視を行なっている組織であり、大規模なテロや特殊能力を用いての国家反逆行為なんかを "やりそうな" 連中を監視している。


 もちろん、そんな大そうな犯罪以外も取り締まる。その辺のチンピラ風情でも能力者となれば話は別だ。警察なんかじゃ手が出せない様な連中ばかりだからな。そこの実働部隊というか現場担当のような奴らの筆頭がこの女である。元々どっかの大富豪の娘らしく、横のチョビ髭が運転手のようなことをしている。ただ、いつものことだけど……このチョビ髭……ターミナルとなんの関係もないんじゃねぇか? 仮にも公務員が、公私混同はよくないぞ? まぁ、俺には関係ないけど……。


 それにウィッチだ。この尻軽はどこにでも現れやがる。ターミナルから直で受けてるのか、リビエラに雇われたのか知らないが、どうせ面白そうだからとかそんな理由でここいるんだろう。宇宙マーケットでウロウロしてたのもたぶんこの仕事絡みに違いない。でも、これで分かった。『バミューダ』はターミナルの監視対象になっている。連中が何かやりそうな動きを察知してここに来たはずだ。


「バミューダか?」


「さすが察しがいいわね」


「さっき見かけたよ。バミューダのガキ」


 リビエラは「あら、そう?」なんて涼しい顔で言ってるが、こっちはそれどころじゃない。なんだあのウィッチさんの格好は……。お馴染みのやたらと短い短パンに白いダボダボTシャツなのはいいが、ニーハイを履いていないだと? 剥き出しじゃないか……。太ももから、ふくらはぎから、足首まで全て剥き出しじゃないか……。このメリケンかぶれめ。いくら季節外れの真夏日だからって、ここは潮来市だぞ? 茨城県潮来市だからな? わきまえろ。


「また会ったの? 水色ワンピの普通の子供」


「ああ。なんかサンドウィッチ買ってたな」


「サンドウィッチ?」


 首を傾げているウィッチさんを尻目に、リビエラが長い人差し指を立てて、まるで教師のような口ぶりで説明を始める。


「彼女は元スミノフスワイレスの実行部隊、あなたが死にかけたときの大量破壊も彼女の部隊のしわざよ」

 

 鼻で笑って返し「で、アイツらは何者なんだ?」と探りを入れてみる。リビエラは人差し指を顎に当て、わざとらしく少し考えたような仕草をキメる。

その仕草、もちろん俺は嫌いじゃない。


「そうねぇ。ただのスピリチュアル企業よ?……今のところは」


「ロシアで大暴れしたらしいな? ただのスピリチュアル企業が」


「あら? そんなことまで知ってたの?」


「知ってるもなにもググれば出てくる情報だろ?」


 知らないけど。ワンハンドレッドがどうやってググってるのかは知らないけど。あの高速タイピングで「ググってる」のはどう考えてもおかしいけど。


「はて? そんな国家機密がネットに流れるものかしら? だらしないのねロシアの人達って」


「だいたい、お前らが出てきてるんだ、ただのスピリチュアル企業なわけ──────」


 気に触ったようだ。リビエラは俺の顎を片手で掴み、目の前まで顔を近づけ「お前ら? あなた誰に口聞いてるの?」なんて仰っているが、顔が近すぎる。赤い女教師眼鏡が鼻先に当たりそうだ。


「台風のこと私たちが知らないとでも思ってるのかしら? 今は大目に見てあげてるけど、ちょっとでも変なことしてみなさい? きっついわよ? ターミナルのおしおきは……」


 それにしても、もの凄い近さだ。バッチリメイクされたリビエラの目元。瞬きするたびに付けまつ毛がレンズ越しにバチバチいってるのが聞こえてきそうな距離だ。


 とりあえず、リビエラ様の手を払い舌打ちで返してみると、薄ピンクのグロスでテカテカした唇に人差し指を当て「あら。反抗的ね? 嫌いじゃないわよ? そうゆうの」なんて、仰っている。その仕草、当然俺は嫌いじゃないし、先程頂いた「おしおき」というお言葉が脳裏にこびりついて離れない。


 が、ここでお上に屈する訳にはいかない。


「このクソメガネ────」


 リビエラのミニ丈ストライプスーツにおっぱいチラ見せコーデで合わせたセクシーワイシャツの襟元へ手を伸ばしかけたが、ウィッチが「ところでB・Bは? ここでなにしてたの?」と口を挟む。


 出鼻を挫かれ「いや、知ってるだろうが! 池だよ、池!」と、喉まで出かかったが、リビエラがその様子を見て可笑しそうにふふっと笑ったので、やめておいた。


「仕事だよ。依頼の遂行は絶対だからな」


「ふーん」


 ふーんて、このくそアマ、てめぇが聞いたんだろ……












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