ファック・ザ・ポリスとこの世の全て③
「アンクルB・B? ちょっと、あなたどういうこと?」
「なにが?」
「なにがじゃないわよ! あなたなにしたの?」
「まだ、なにもしてねぇよ」
「なにもしてないわけないでしょ! ウィッチちゃん、ギャンギャン泣いてるじゃないの!」
……え?
「なんで?」
「知らないわよ!? あなたが何かしたんでしょ?」
クソ……何かしたのは間違いない。でも、ガキにだ。何故あいつがギャン泣きかます必要がある。むしろ何かして頂いたのは俺の方だ。
「いや、そんな……大したことは……してない。それより、あんた今どこにいるんだ?」
「大したことない訳無いでしょ! こんなに泣かせといて。ちょうど役所を出ようとしたら、チャラチャラした男が大泣きしてるウィッチちゃんを連れて来たのよ。あれは誰なの、あなたの知り合い?『んじゃ、自分はこれで』とか言って帰って行ったけど。まさか、あなたあの男と二人で……」
バスプロが? あいつてっきり……まあいい。
「いや、あいつは宇宙マーケットの客だ。あんたには関係ない」
「あら? そうなの? って、あんな胡散臭そうな男はどうでもいいのよ! ウィッチちゃんが何で泣いてるのか教えなさい」
「だから、あんたには関係ないんだって……」
「あら、そう? 電話じゃなんだから直接説明してくれるのね? わかったわ。とりあえず、ウィッチちゃんは私が連れて帰るから。あなたは明日ターミナルに着てちょうだい。覚悟しておいてね。来なかったら殺すわよ……」
……どっちにしろ殺られるんじゃ?
「いや、俺は忙し────」
「────あら、そう?──────」
「──────わかった。行く」
……ん? 明日? 明日は池の水が……もう、どうでもいい気もするが……。
「やっぱりダメだ。明日は池の水抜きを阻止しなくちゃならない」
「あら?あの池ね、延期になったわよ。あなた、バミューダに会ったんでしょ?『RUS─106』彼女何も言ってなかった? 」
「アールユー何? ガキか?」
「『リコリス・リラ・リデル』識別名も付いたのよ? 知らなかった?」
「リコリス? あてつけか? あんたの所の命名会議に参加してるのはどんな連中なんだ……。そんなことより、延期ってどういうことだ? 聞いてねぇぞ?」
というか、まともに話なんて出来る状況じゃなかったんだよ……。
「原因はそのリコちゃん。潮来市の連中がバミューダに依頼してたみたいなのよ……」
「ああ、誰かがそんなこと言ってたような気もしないでもないな」
「あら? そんなことまで知ってたの? まぁ、色々あるのよ。さすがに行政機関が元反社会勢力に関わったらマズいでしょ? 知らなかったとは言ってたけど……どうかしらね?」
「役所にしろバミューダにしろ、連中は何が──」
────横で黙って突っ立っていたババアが脇腹をつついてきた。
「なんだよ?」
「ひまなんですけどぉ」
…………。
「ちょっと、アンクルB・B? あなた誰かと一緒にいるの?」
「いや、別に……」
ババアがつついてくる。
「ひどくないですかぁ? あたしのことほったらかしてぇ、他の女と電話するとかぁ、ありぇなくないですかぁ?」
「……ちょっと黙ってろ……」
くそババア……
「じゃあ、明日ターミナルに行けばいいんだな? ウィッチのことはあんたに任すよ。じゃあな……リビエラさん」
「あら? ウィッチちゃんのことはあなたに任せた筈よね? アンクルB・B。報酬は無しよ? ワンハンドレッドに言っといてちょうだい。それに、やっぱり誰かと一緒みたいね? 誰かしら? 宇宙マーケットのお客ではなさそうね……。まぁ、いいわ。明日必ず来なさい。待ってるわよ。アンクルB・B」
電話を切るとババアが騒ぎはじめた。なんだかんだいってマナーは守る人なんだこのババアは。
「もぉ、ひどぃですよぉ。あたしをほったらかすなんてぇ。いまの電話、リビエラでしょ? いぃんですかぁ? やっちゃいますよ? あの女……」
くそババア……それはなんなんだ? さっきもチラッとやってたよなそれ? 気になってはいたんだ。「俺ゴミ」かとも思ったが少し違うみたいだな。
小悪魔ビッチかなにかか? こっちに戻る前にやってたグリパツ系のヤツと俺ゴミを混ぜてみたらいいのが出来たとかそんなところか? スピンオフしてくるとは大分気に入ってるみたいだな。奇遇じゃないか。
ただ、グリパツ本体はあまりいじくり回すな。アレは大事にしろ。まだ、アッシュグレーが気になってる連中もいるはずだ。
そういや、小悪魔といえば大地主のとこの三姉妹、三女がたしか────────
────クソ……そういうことか……。
「それでぇ? どぉするんですかぁ? やり直します?」
「いや、もういい……。このまま行ってみようと思う」
もう、やり直しなんてきかない気がしてきた。何度やり直そうと例のカルマ『ひとつなぎの悪業』は消えやしないし、俺の都合でアイツらを何度も振り回すのも気が引ける……。
「マジでぇ!? お嬢のことゆるすんだぁ!? バラすのかと思ってましたぁ。あれ? もしかしてぇ……ちょっとやだぁ。なにぃ? そういうことですかぁ? ひどぃよぉ、ひどぃよぉ。あたしはどぉする気なのよぉ。もぉ、こっそりつぃてっちゃいますからねぇ? 言っときますけどぉ逃しませんからぁ…………あたし、しつこいですょ?」
調子に乗るなバカ。そういうことって、どういうことだ? 小悪魔ビッチ特有の話を勝手に解釈して破廉恥な展開に持っていくアレか? ただ、どうも俺ゴミ感が強すぎる。俺ゴミは何にでも溶け込み、やがて『全てがゴミになる』。もはや、小悪魔って時点で既に俺ゴミ感が出てしまっている。でも、本物の俺ゴミは小悪魔とはまた違う。ギブアンドテイク、付かず離れずの一番都合がいいヤツなんだ。やっぱり、俺のゴミが一番いいんじゃ──────
「本当にいいのかい? あとでやり直すなんて言い出すんじゃないよ?」
「ああ、もういいよ。クズのレッテルをひとりで抱えるくらいなら、俺がクズだと知ってる連中が居た方が気が楽だ」
ババアが鼻で笑う。
「よくわからん理屈だねぇ。まぁ、やり直したところで、どうなるかなんてあたしにも分からない。上手くいく保証なんてないしねぇ。望みどおりの展開になるまで繰り返したら何年もあの時間を過ごすことになる。誰も死んでないんだ、このまま行くのが正解かもしれないねぇ」
「まぁ、なんとかなるだろ。…………助かったよ。くそババア…………」
一応、礼を言ってみた。
たぶん、何かキメてくる。
ババアが下を向いて「キヒヒ」と笑うと、藪池広場を囲う木々がざわめき、地を這う様な風が吹き抜ける。月の光を青白く反射した水面が揺らぐ。極彩色の落ち葉がカサカサと音を立て舞い上がると「くるしゅうない」そう言ってババアは消えた。
やっとこの藪ともおさらば出来る。車のドアを開け、シートに乗り込み、セキュリティを止める。
エンジンを掛け、とりあえずタバコに火を付ける。
「そういや、台風のこと訊くの忘れた」
まぁ、どうでもいいか。池の水抜きはもう片付いた様なもんだし、バスプロにはしれーっと代金吹っかけときゃいいだろ。
「さて、帰ろ」
なんだか、クソ長い一日だった。明日が日曜日でよかった……。
ん? 明日は日曜日だよな? 今は土曜でいいんだよな? ん?
スマホを見て確認する。大丈夫そうだ。たぶん。
もう、潮来には用はないはず。他になにかあったか?…………思い付かないということは何もないはず。大丈夫だ。帰ろう。
カーステから流れてるのはN.W.Aの曲だろうか? HDDをランダム再生にしていると時折録音した覚えの無い曲が流れることがある。
クソみたいな曲なら直ぐに飛ばすが────この曲は悪くない。
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