第5章
現場主義亜空間パーキングとポテトコーラ付LLセット
前川周辺まで来てみたはいいが、カーナビは「目的地周辺です。気をつけて走行して下さい」としか言わなくなった。
目的地周辺を車で何往復もしているが、池に繋がっていそうな道は見当たらない。当然、カーナビの地図にも池らしきものは映っていない。クソ……あの侍野郎……騙したのか? といっても、あくまで車で通れそうな道がないわけなのだが……。
近くにファミマを見つけたのでとりあえず駐車場へ入ったはいいが、すこぶる気が進まない。まぁ、おそらく『あの
とりあえずコーヒーでも飲もうと店内に入ると、なんとなく見覚えのある女を見つけた。
はて? あの女……
どこか生気の抜けたような青白い顔をしたその女を目で追っていると、商品棚の陰に女と手を繋いだ子供の姿が見えた。水色のワンピースにおかっぱ頭。後姿しか見えないが間違いない、バミューダの普通の子供だ。ということは、あの女はあの時の母親か。
俺は商品棚の陰に隠れて様子を伺った。あのガキ、なんでこんなところに? いや、待てよ? あの時たしか池がどうのこうのと言ってたような……。
間違いない池だ……奴ら池に用があるんだ。俺も池に用がある。これはなにやら、ただならぬ予感がする。
母親とガキがレジでサンドウィッチやら飲み物やらを買い込み外へ出て行った。俺はとりあえずブラックの缶コーヒーをレジへ持って行く。その間、奴らの事が気になってしょうがない。外をチラチラ見ていると、レジのおばちゃんが怪訝そうな顔で俺を見ている。
いや、俺はなぜ隠れた? クソ……あのままガキの首根っこ捕まえて引きずり回せばよかったんだ……。いや、待てよ? そこまでする意味はない……というか必要性がないというか意味がない……。そもそもあのガキは何者なんだ? やっぱり首根っこ掴んで問いただすべき……いや、そんなことをしてみろ……相手は子供だ、大変なことになる。
首根っこ、意味がない、首根っこ、意味がない。自問自答を繰り返していると、レジのばばあがやっとお釣りの9千うん百円を取り出したので、ふんだくって外へ飛び出す。
やっぱり居ない……。
クソ……なぜ俺はコーヒーを我慢しなかったのかと、そもそも後で買えばいいじゃないかと、首根っこの方が大事だったんじゃないかと。ファミマの出入り口前で、しばらく呆然としていた。缶コーヒーとファミチキが入ったレジ袋を片手に。
「あーあー……ハローハロー?」
涙がこみ上げてくるのがわかった。よかった、まだ近くに居てくれたのかと、感謝の念すら抱いた。
「やっぱり……あんたも来てたんだね」
ガキの居場所を探すが姿は見えない、おそらくだだっ広い駐車場に何台か止まっている車の中だろう。
「ゴルマリアのせいで……ウチもいろいろ予定が狂ってしまったよ。あんたもその口だろ? まぁ、元凶は……あんたみたいなもんか」
駐車場内を見回すと、明らかに異質な車が止まっている。あれはたしか、バンデンプラ・プリンセスか? 間違いなくアレだ。謎の組織にクラシックカー、間違いないじゃないか。茨城の片田舎に妙にマッチした黒いクラシックカーを凝視する。
「どうやって池を消し飛ばすつもり? 台風はゴルマリアに取り上げられたみたいだけど……『亜空間エネルギー圧縮式フレア砲』……でも使う?」
ガキが、ふふふっとわざとらしく笑う。別に消し飛ばす気なんてさらさらない。ちょっとイラッときて奴らの乗った車を睨み付ける。
「まぁ、あの台風……ウチのクライアントは全部忘れてしまったみたいでね、どうでもいいんだ……今のところは。でも、あの池はまた別の話……ウチも忙しくてね」
俺の台風の時間が1週間巻き戻ったということは、そこに噛んでた連中の記憶は吹き飛んでるはずだ。磁界も張れずワラ人形も使えない一般人、そもそもババアが何かしているのに気がついていなかった、世界中の人間があの台風に関する一切の記憶を今は持ち合わせて居ないだろう。
「あの池の水、抜いてもらわないと困るんだ……ウチも信用第一でやってるからね……クライアントを裏切るわけにはいかない」
クソ……やっぱり対抗か……
「そうそう、都市伝説はしらべた? 興味は持ってもらえたかな? バミューダの海……船は沈むし……飛行機は落ちる。綺麗なモノしか受け入れない……でも、海の底はゴミだらけ……誰が掃除するんだろうね?」
そういえばあのガキ、昨日も水色ワンピースだったな。アレしかもってないのだろうか?
「まぁ、池はウチでもらうから……あんたはとっとと越谷におかえり。めんどうなのも湧いてるみたいだし……くれぐれも邪魔はしないでよ」
ガキがまた、ふふふっと笑う。なんとか首根っこを掴んでやろうと、バンデンプラから目を離さないよう、ゆっくりと近づく。すると突然、駐車場にクラクションの音が鳴り響いた。ハッと振り返える。
当然、俺の車だ。慌てて車に戻りセキュリティを止める。レジのばばあが見てる。黒いハイエースが駐車場を出る。バンデンプラ・プリンセスに目を向けると老夫婦が降りてきた。
「あーあー。それから。社用車にクラシックカー……ウチはそんなにノロマじゃないよ。アンクルB・B」
透き通るような声の持ち主は、おそらくあのハイエースに乗っていたのだろう。それにしても、めんどうなことになった。
もう、池なんてどうでもいいんじゃないかと思い始めている。
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