レイクサイド・アブソリュートカオスとThe Auntie is Not An Old Lady.The Girl is Just A Girl②
ガキのウィッチさんに対する「見かけによらず頭は回るんだね」発言を聞くなり、バスプロは顎を触りながらまた遠くの方を見始めた。
このペテン師め。いいかげんにしろ。なんだその生あくびは。
いや、そんなことはどうでもいい。たしかにウィッチさんの言う通り……この池の水を抜くのは一般人には無理なのでは? というか、藪の中を歩いてる時点でおかしいとは思っていた……。テレビの企画でやっていいレベルじゃねぇだろ?と。どうやってこんな場所にある池の水を抜くんだ?と。森林伐採から始めるのか?と思っていた。藪で死にかけながら。
現にここにはスコップはおろかバケツすら準備されていない。
「……くそガキ……」
空耳だろうか? 「頭回るんだね」発言からガキを見つめて微動だにしないウィッチの肩越しに何か聞こえた気がする。
「おい、ガキんちょ。叔母さんに失礼なこと言うな。叔母さんは森でチンパンジーに拾わ────」
チンパンジーに拾われて育ったわけじゃないんだぞ? 謝りなさい、と。俺は軽口を叩こうとした。場の空気を和ませようとしたわけだ。でも、ギリギリの所で叩かなかった。ギリギリのところで。
なぜなら、ウィッチさんがガキからまったく目を逸らさないからだ。危ないところだった。ギリギリ軽口を叩かないで済んだ。
「アンクルB・Bが売春婦でも連れて来たのかと思ってたんだ……近くで見るまで気づかなかったよ……悪かったね。ウィッチ・モンテカルロ」
この期に及んでガキが、まだなんか言っている。
なんだか俺にもディスが入った気がするが……それどころじゃない。ウィッチさんの面は見えないが中腰のまま、まったく動かない。
バスプロは笑いをこらえているようだ。隣でフゴフゴ言ってるのが聞こえてくる。
この、お喋りペテン師め。まず、その肩の震えを止めろ、そしてこっちを向け。極東の魔女が今どうなってるのかよく見ろ。
ウィッチさんの横顔を覗き込むと、瞬きひとつせず、ガキの目を見ている──────────
──────────ゼロ距離で。
思ったよりも近くて焦った。鼻先はほぼ触れている。ガキもなぜか一歩も引かない。何をしてるんだこいつらは……。あれか?女の戦いか? 女子会でやれ……。
空耳だろうか? なるべく遠くの方を見ながら、あくびが止まらないふりなんかをしていたら、なんだかよくわからないけど「この目玉くり抜いて、石油王にでも売り飛ばしてやろうか?」と聞こえた気がする……なんだかよくわからないけど。
「あの」でも「その」でもなく「この目玉」とは、なかなかスリリングじゃないかと不安になり、遠くを見つつガキとウィッチの様子を伺ってみる。
視界の端でガキの目玉の無事を確認すると、ウィッチがこっちに顔を向けたのが分かった。俺は咄嗟に目を晒したが、ぶんバスプロを見ている。たぶんバスプロを見ている。
おい、ペテン師。「売春婦」でツボに入ってんじゃねぇ。顎を触るのをやめろ。そして、こっちを向け。お前はただの客だからな? 池の水以外のゴタゴタはてめぇでなんとかしろよ? この女をみくびるな、てめぇに一生付き纏うぞ?
バスプロの背中に睨みをきかせていたら、いつのまにか横にウィッチ・モンテカルロの顔があって、ビクッとした。
「ねぇ、B・B? おばさんて誰のこと?」
おばさん? はて? ウィッチさんは、いったい俺に何を聞いてるんだ?
『叔母さん』の間違いかな?
「ウィッチ・モンテカルロ……ここで、おばさんに該当するのは……あんたしかいないよ」
────!?
ガキがウィッチさんを見上げてとんでもないことを口にした。いいかげんにしろバカ。透き通る様な声でなにを言ってるんだお前は……。その真っ白い髪の毛毟り取ってやろうか?
「おい、くそガキてめぇ、なんてこと言ってんだ!? お姉さんに謝れ! すぐにだ! 早くしろ」
「アンクルB・B……あんたが言い出したんだろう?」
クソ……叔母さんとおばさんは全然違う……響きが似ているだけだ……。
ガキの白いレースがあしらわれたワンピースの胸ぐらに手を伸ばし掛けたとき、なんだかものすごい力で肩を掴まれた。振り返るより早く「ねぇ、チンパンジーって何?」と聞こえた。
俺に聞いてるのか? ウィッチさんはチンパンジーがなんなのか、俺に聞いてるのか? いや、たぶん違う。俺は別に動物博士じゃない。チンパンジーは猿の仲間だと思うけど……。そんなこと口にしたらやられる。なにしろ、肩が抉り取られそうなんだから……。凄い力だ……チンパンジー並みじゃないか。いや、知らないけど。チンパンジーの握力とか知らないけど。噂では凄いらしいんだよ。チンパンジーの握力って。500あるって聞いたぞ?500あるって……。俺がチャネラーじゃなかったら肩砕けてるぞこれ。
「ウィッチ、モンテカルロ……あんたの履いてるソレのことじゃないか?……わたしには、売春婦にしか見えないが……」
このくそガキ…………。
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