姉さんは女神様のような存在・・・ちょっと姉さん!それって本気で言ってますか?僕の都合は無視ですかあ!?

黒猫ポチ

オープニング

第1話 はーい、お姉ちゃんでーす

「やっぱり、あたし、無理!」

「どうしても?」

「どうしても無理!雄介ゆうすけ君、ごめんなさい・・・」


 長い沈黙の後、向かい合った席に座った女の子から頭を下げられた。


 僕は正直、混乱したけど、いきなりそんな事を言われても・・・


 ここは浜砂はますな駅ビルにあるマイスド。

 今は春休みだから学生と思われる連中もいるし、親子連れも結構見受けられる。

 今日の僕は当初は中国語講座(?)の筈だったけど1人急用が出来て結局中止になり、暇を持て余して午前中は部屋でゲームキッズアドバンスでジャケットモンスターをやってたけど、それも途中で飽きたから昼飯も食べずにブックオンで立ち読みしてた。午後2時くらいだったかなあ、メールで呼び出されて待ち合わせ場所であるマイスドに行ったのだが、開口一番、その女の子は爆弾発言をした。「もう、これ以上は付き合えない」と。


「・・・もしよければ、理由を教えてくれませんか?」

「・・・雄介君、あなた、高校生なのに、男なのに恥ずかしくないの?」

「・・・・・」

「あたしは・・・それが耐えられない!」


 その子はそれだけ言うと「はあああーーー・・・」と長ーいため息をついて沈黙してしまった。

 正直、その女の子が言いたい内容は自分でも理解している。でも、僕にはそれを引き留めるだけの理由が無い。それにから、それが理由で別れ話を切り出したとしか考えられない。

 僕は「言いたい奴は好きなだけ言わせておけばいい」と思って黙殺してるけど、周囲はそう思ってないという事なのだろう・・・

「・・・菜々子ななこちゃん、いや、もう朝倉あさくらさんと呼ぶべきだけど・・・姉さんの件だよね?」

「そう・・・あなた、それでも男?」

「・・・僕は姉さんが・・・いや、ごめんなさい」

 それだけ言うと僕は菜々子ちゃん、いや、朝倉さんに深々と頭を下げたけど、朝倉さんは「はーー」と再びため息を軽くついた。

「・・・本当は雄介君とずっと付き合っていきたいと思ってたけど、あたしよりお姉さんの方が大事としか思えないよ。ううん、君の名誉の為に言っておくけど愛美めぐみが、お姉さんが君に干渉し過ぎてると思う」

「・・・・・」

「あたしから言わせれば、愛美はを除けば完璧超人と言ってもいいけど、そのせいで学校中の男子が相当ため息をついてるし、逆に言えば雄介君は学校中の男子から目のかたきにされてるんでしょ?」

「そ、それは・・・そうだと思ってる・・・」

「もっとも、雄介君だって

「・・・・・」

「あたしの姉の子、まだ1歳になったばかりの一卵性の双子の姉妹なんだけど誕生日が3日も違うんだよね。だから雄介君がだというのは、あたしもよーく分かってる。だけど、雄介君は何も言わないし、愛美は愛美で冗談だとは思うけどを平然と言うから、いつの間にかしてるのに、雄介君は何とも思わないの?悔しくないの?」

「・・・ごめんなさい」

「はーーー・・・その性格だから余計に愛美に頭が上がらないのか、逆にあんな性格だから、雄介君がそういう性格になってしまったかは分からないけど、本当はあたしがもう少し大らかな性格だったら良かったんでしょうけど、あたしも短気なのは認めざるを得ないからね」

「・・・・・」

「気分を悪くしたらごめんなさい。でも、これからは以前のように友達として接しましょう」

「・・・わかった」

「じゃあ、また明日、学校で会おうね」

「うん・・・」

 それだけ言うと朝倉さんは軽く微笑んで立ち上がり、黙ってマイスドを出ていった。テーブルの上に飲みかけのコーヒーを残して・・・


 こうして、僕の人生初の彼女は2か月にも満たないうちに去っていった・・・


 この後、どうしようかなあ。

 まあ、特に予定もないし・・・取りあえず、コーヒーを飲んだら適当に立ち読みでもしてから帰ろう。


 そう思って僕はコーヒーカップに手を伸ばしたのだが・・・


“♪♪♪~ ♪♪♪~”


 あれ?電話??

 僕はケータイを取り出した。

「もしもーし」

『はーい、お姉ちゃんでーす』

「姉さーん、相変わらず能天気だよなあ」

『能天気なのは雄介だよ!私も知らないうちに出掛てさあ!!』

「別にいいだろー」

『まあ、そんな事は別にいいけど、あんたさあ、今どこにいる?』

「ん?浜砂の駅の中」

『1時間以内に帰れる?』

「へ?・・・どういう意味!?」

『あんたに会いたがってる客人がいるんだけどー、戻ってくるなら待ってるけど無理なら帰るって言ってるよー』

「じゃあ、帰るよー」

『早く帰ってきてよー』

「はいはい」

『ところでさあ、ついでにマイスドのドーナツを買ってきて欲しいけど、20個くらい買えるお金ある?』

「あるけど・・・」

『じゃあ買ってきてー。お金は立て替えという事でヨロシク』

「はいはい、それも了解しました」

『急いでねー。ピッ』

 はいはい、相変わらず人使いが荒いなあ。でも、の頼みを聞かないのはことだ。


 僕の名は平山ひらやま雄介。

 浜砂市にある私立桜岡さくらおか高校の2年生だ。ただ、今は春休み中で明日が始業式だから、本当に2年生になるのは明日からだ。

 僕の成績は中の中程度。可もなく不可も無く、いわゆる普通の生徒だ。一応サークル活動(?)をやってるけど、同好会にも昇格出来ない趣味のサークル(というか申請も上げてない)だ。バイトをやってる訳でもない。

 クラスの中には入学早々可愛い子を見つけてラブラブになってる連中が結構いたし、二股が発覚して泣きを見た人もいたけど、僕はそういう話を聞かされるたびに「ふーん、そうなんだー」「あれっ?いつの間にそうなってたの?」と返事をするくらいに無頓着だった。そりゃあ高校生ですから、その分野に興味が無いといえば嘘になるけど、『この子、可愛い!』などとピンと来る子が現れない。いや、こう言うと女の子に失礼かと思うけど、と表現した方が正しいかもしれない。

 まあ、誰かが僕に女の子を紹介してくれるなら、その子さえOKなら素直に付き合うというのが礼儀だと思っているけど、そんな気の利いた言葉を掛けてきたのは一人もいない。逆に「オレに可愛い子を紹介しろ!」と言われたのは数えきれない。その理由は・・・まあ、今は伏せておく。

 そのままズルズルと月日は流れて2月21日の放課後、誰もいない教室で僕は隣のクラスの女の子から「1週間遅れだけど受け取ってね」と言われて、手作りのチョコを差し出された。

 その女の子というのが朝倉さんだった。

 さすがにそのチョコが意味する事は僕にも分かったから素直に受け取ったけど、あまり進展しないまま、今日、朝倉さんの方から別れ話を切り出された。

 そんな昔話を思い出しながら、僕は右手にマイスドの大きな袋を持って通称『あかでん』に乗っていたけど、車内には高校生や大学生と思われるカップルが2、3組乗っていて楽しそうに話している。さすがに僕と朝倉さんは電車内で堂々と肩を寄せ合いながら喋るような大胆な事は出来なかったけど、コッソリではあるが手を繋いで歩いていた事があったなあ、と少々愚痴ぐち混じりの感想を内心では思っていた。

 そうこうしているうちに電車は『桜岡高校前』駅に着いたから、そこからは歩いて帰った。

 玄関に入ろうとした時、見慣れない車が1台止まっていたのに気づいたけど、別にそういうのは日常茶飯事だから殆ど気にしてなかった。


「ただいまー」

「「「「おかえりー」」」」


 僕は普段通り家の玄関の扉を開けたけど、開けた途端、家の廊下を走って4人が出迎えた(?)

「にーにー!ドーナツドーナツ!!」

「あー、それ、ハルカがもつからさあ」

「ちがうよー、アキエだよー」

「あたしだよー!」

「あー!ナツキちゃん、ズルい!!」

「ぼくにきまってるだろ!」

「あたしによこせー!!」

 おいおい、何かと思ったら幼稚園児4人が僕が持っていたドーナツをで喧嘩しているだとお!?来客とは園児の事かよ!まあ、4人のうち1人は僕のおいだけど。


“パンパン”


 いきなり両手を叩く音がしたから僕も園児たちもそっちに注目したけど、それは母さんだった。

「ハイハイ、ドーナツを持つ人はジャンケンで決めましょうねー」

 そう言うと母さんは僕の手からドーナツを取り上げて自分で持つと、それを4人の手が届かない高い位置に掲げた。

「いい、ジャンケンで勝った人が持つのよー」

「「「「えー!」」」」

「文句を言わない!」

「「「「はあい・・・」」」」

「せーの」

「「「「さいしょはグー!ジャンケンポン!!」」」」

 4人の園児はジャンケンを始めたけど、勝負は1回では決まらなかった。そんな園児たちを尻目に、母さんは僕に「早くリビングに行きなさい」と促したから僕は中に入ったけど、その時に気付いたが玄関には園児たちの靴の他にも大人たちの靴が並んでいた。


「遅いわよー」

「ゴメンゴメン」


 僕がリビングに入ると開口一番、姉さんが文句を言ったけど言葉と裏腹に全然怒ってない。その証拠に顔は笑ってる。

 僕はソファーも椅子も埋まってたから余っていた丸椅子に座ろうとしたけど、その僕を跳ねのけるようにして甥の耕平こうへいが座ったから、そこはさっきまで耕平が座っていたものだと気付いた。他にも丸椅子があったけど、三つ子の長女の春華はるかちゃんと三女の秋絵あきえちゃんが座ったから、残った1つは夏希なつきちゃんだと見当がついた。その夏希ちゃんは我が物顔で僕が買ってきたマイスドのドーナツを全員に配っていた。

 僕はリビングの端に置いてあった折り畳み椅子を1つ持ってきて姉さんの横に座ったけど、姉さんの向かいに見慣れない人物が座っている事に気付いた。

 姉さんの横にいる僕の両親、ソファーにいる父方と母方の爺ちゃん・婆ちゃんは分かる。当然姉さんも分かる。それ以外に僕の両親と同じくらいの年齢と思われる、おじさんとおばさん。それに、僕とほぼ変わらないくらいの年齢と思われる男・・・でも、3人とも、何となくだがどこかで見たような気がするが思い出せない、いや、喉の奥に引っ掛かって名前が出てこないのがほどだ。

「・・・やあ、雄介君、お久しぶり」

「あ、どうもこんにちは」

 僕はおじさんから声を掛けられ、咄嗟とっさに返事をしたけど相手が誰なのか思い出せない。おばさんの方は僕を見てニコニコしているけど、もう一人、男の方は挨拶あいさつ代わりに右手を軽く上げただけで、こちらもニコニコしている。

「いやー、雄介君。10年も見ないと、見間違えるほど大きくなるねえ」

「いやー、それほどでもないですよ。クラスの中でも真ん中ですからー」

「幼稚園の卒園式を昨日の事のように思い出すよ。月日が経つのは早いねえ」

「そうですよね」

「ところで、お前、挨拶したのか?」

 おじさんは不意を突く感じで、自分の左に座ってた男の方を振り向いたから、僕はこの男の名前が『アヤカ』だという事に気付いた。


 おい、ちょっと待て・・・


 どう考えても『アヤカ』という名前のはおかしい!


 という事は・・・この人はだあ!!


 服は明らかにメンズのセーターとデニムシャツだし、ジーンズもメンズだ。それに僕とそう変わらないくらいのショートヘアーだけど髪を染めているのかまでは不明だがブロンド、いや、そこまではいかないけど相当明るい栗色だ。一見するとさわやかなイケメンだけど、二重ふたえまぶたのパッチリした目をしたこいつは、見方を変えれば相当な美少女だ!

 そ、それに、よーく見たら胸の膨らみがあるし、何より喉仏のどぼとけが無い!


「ユーちゃん、お久しぶり!」


 はあ?『ユーちゃん』だとお!!


 僕は必死になって情報を整理した!『10年前』『アヤカ』『ユーちゃん』それに、僕と同じくらいの年齢の女・・・


 そういえば・・・栗色の髪の女の子が一人だけいた!


「お、お前、まさか、龍潭寺りょうたんじ 綾香あやかちゃんなのかあ!?」

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