第19話 別に構わない。ユーちゃんと一緒に見る

 僕と綾香ちゃんは食堂で一緒にお昼ご飯、と言っても食堂のA定食を食べただけだが、食べ終わった後は20分くらいかなあ、テーブルであれやこれや喋っていた。ただ、なーんとなくだが、周囲の視線が突き刺さるように感じたのは気のせいだろうか・・・

 講堂へは開始5分位まえに行ったけど、後方から中央にかけては既に埋まっていた。でも、何故か最前列だけは両端に2人ずつ座ってただけで他には誰も座ってなかったから、その中央の少し左寄りに並んで座った。さすがにド真ん中は遠慮したけどね。

 席に座ると僕も綾香ちゃんも鞄を足元に置いた。

「・・・ところでさあ、メグたちの出番は?」

「ん?多分、あと2時間くらい先だよー」

「2時間!?」

「そう、2時間」

「えー、どうしてー」

「だってー、プログラムを見れば書いてあるだろ?」

programプログラム?」

「そう、プログラム」

「どこにあった?」

「講堂に入ってすぐの両側のテーブルに置いてあっただろ?」

「うっそー!全然気付かなかった・・・」

「じゃあ、僕が取りに行ってきましょうか?」

「いんや、別に構わない。ユーちゃんと一緒に見る」

「そう?ならいいけど」

 そう言うと僕は綾香ちゃんにも見やすいように左手に持ち替えたけど、そのプログラムはA4の紙5枚の両面印刷で作られていて、表紙が発表順を兼ねた桜岡高校の全部で19の部活、8つの同好会、それと同好会昇格を目指す5つのサークルの一覧になっていた。


1.開会のことば

2.生徒会長挨拶

3.部・同好会発表

 ①ゴルフ愛好会(サークル)

 ②スイーツ研究会(部)

 ③英会話同好会

  ・

  ・

 ⑬女子バスケ部

 ⑭陸上部

 ⑮茶道部

 ⑯漫才倶楽部(同好会)

 ⑰吹奏楽部

 ⑱女子バレー部

  ・

  ・

  ・

 ㉘合唱部

 ㉙野球部

 ㉚手芸部

 ㉛女子ロックバンドサークル

 ㉜ヘビメタ同好会

4.閉会のことば



「・・・えーと、メグたちは・・・glassグラス slippersスリッパーズはどこだ?」

 綾香ちゃんは姉さんたちのサークルを探したけど、全然見付からない。僕は少し苦笑したけど、グラススリッパーズはサークル名ではないから表紙には書かれてないのだ。

「・・・綾香ちゃーん、そうじゃあなくて『女子ロックバンドサークル』だよ」

「へ?・・・glassグラス slippersスリッパーズじゃあないのかよ!?」

「あのさあ、あれはあくまでバンド名であって、サークルの正式登録名は『女子ロックバンドサークル』だよ」

「ふーん。という事は・・・boobyブービー!」

「そう。去年も説明会は何だかんだで2時間以上かかってるから、多分今年も最低2時間はかかると見ていいよ」

「あのさあ、それだけ長くやってると終わりの方は誰も聞いてないんじゃあないの?」

「その通りだよー」

「じゃあ、なんでそんな遅い発表になっちゃったの?早い方がいいじゃん」

「それはそうだけど、誰だって早く発表したいから、毎年クジ引きで決めるんだよ。3月に公開抽選会をやったんだけど、そこで朝倉さんが31番を引いたからこうなったという訳」

「あらあらー、朝倉さんもクジ運が相当ないねー」

「ビッグスリーを引かなかっただけマシさ」

Bigビッグ threeスリー?何それ?」

 綾香ちゃんは『何だそりゃあ?』と言わんばかりの顔で僕を覗き込んだけど、たしかに綾香ちゃんがビッグスリーを知らないのは無理ないかな。

「嘘のようなホントの話なんだけど、毎年『4』『9』『13』を引いた部や同好会は、人数が集まらなくて廃部とか部から同好会に格下げとか、あるいは不祥事を起こすとか、その番号を引いた年だけ超不振に陥るとか怪我人が続出するとか、とにかく不幸に見舞われる番号が3つあって、それが『4』『9』『13』なんだけど、特に『13』は最悪の番号と呼ばれてるのさ」

「あのさあ、それなら最初からその3つの番号を使わないで抽選をすればいいと思うんだけど・・・」

「うーん、不幸に見舞われた部や同好会から見たらそう思うのは当たり前だけど、逆の見方をすればから除外されると困るという見方もあるんだよ。あとさあ、抽選で発表順を決めるようになって20年以上も経つけど、陸上部だけは過去に1度もこの3つの番号を引いてなくて、その証拠に陸上部は毎年のようにインターハイを始めとした全国大会で上位に入賞してるんだよ。陸上部の連中に言わせれば『うちの部はビッグスリーを引かないジンクスがある』らしいよ」

「はあ!?何だそりゃあ?jinxジンクスの使い方が間違ってるよ」

「へ?どういう意味?」

「英語でjinxジンクスは日本語にすると『悪運』とか『不運』だよー。日本ではいい意味と悪い意味の両方でjinxジンクスを使ってるけど、本来は日本で言うところのいい意味でのjinxジンクスは『signサイン of オブgoodグッド luckラック」だからね』

「ナルホド。直訳すれば『幸運の信号』とか『幸運の印』ね」

「そう」

「じゃあさあ、さっきの『うちの部はビッグスリーを引かないジンクスがある』を英語で正しく言い直してよー」

「はいはい、えーと・・・」

 綾香ちゃんは僕に言葉を言いかけたけど、丁度その時、講堂内に歓声が上がったから僕も綾香ちゃんも正面を向いた。

 執行部の面々がステージに揃って出てきたからだ。しかも会長の北条先輩が右手を軽く振って出てきたから、1年生の男子が一斉に歓声を上げたからだ。北条先輩は2日目にして1年生のアイドルだとしか思えない!


「ただ今より、部活動・同好会合同説明会を開催します」


 生徒会書記の川口紀美子先輩が説明会の開催を宣言すると大きな拍手が起きた。

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