第20話 ビッグスリーの呪い

 川口先輩からマイクを受け取った北条先輩は1歩だけ前に進み出た。

 その北条先輩の目がにこやかな物からクールな鋭い目つきに変わった!

「みなさんも分かっているとは思いますが、高校生活は人生にたった1度しかない貴重な時間なのです。高校3年間をどう過ごすかは皆さんの自由ですが、そのたった1度しか高校生活の放課後を『人生の無駄遣い』に終わらせないために、部活動や同好会があると考えます。もちろん、部活動や同好会活動以外に希望を見出す人、可能性を見出す人もいると思いますので、必ずしも部活動や同好会に加入しなければならないと言いませんが、『人生の無駄遣い』に終わらせない為の切っ掛けが欲しいという人は、これから発表する32のいずれかに加入する事をお勧めします。昨年からの2つのサークルに加えて今年も新たに2つのサークルが新規登録されて同好会への昇格を目指しています。新しいサークルを作るのも自由です。わたし自身は君たちがどこの加入するかを決める権限はありません。決めるのは君たちです。君たちも分かっているとは思いますが、人生とは進む事しか出来ません。わたしも、君たちも実感が湧きませんが日々生きているという事は死に向かって着実に前進しているという事なのです。後戻りできない人生を後悔しないためにも、これからの部活動・同好会合同説明会を精一杯楽しんで下さい」

 そう言うと北条先輩は深々とお辞儀をしたが、顔を上げた時の北条先輩の姿は、まさに謁見の間の女王陛下を彷彿させる、神々しいものがあった。僕も思わず『ゴクリッ』と唾を飲んでしまったし、それは隣の綾香ちゃんも同じだった。ただ、少しだけ間をおいて割れんばかりの拍手が1年生から沸き起こったのは今でもなかった。

「・・・では、発表へ参ります。ゴルフ愛好会、お願いします」

 川口先輩がそう言うと北条先輩たちはステージの奥へ戻っていたが、入れ替わりの形で女子が二人登場した。そのうちの水色リボンの女子に川口先輩はマイクを渡すと川口先輩もステージの奥に戻って行った。

 ステージに残ったのは水色リボンと赤色リボンの女子二人だけだ。

 会場のみんなから拍手が起こると同時に二人は頭を下げたが、頭を上げるとマイクを持った女子が喋り始めた。

「みなさんこんにちは。ゴルフ愛好会代表の3年H組、松本まつもと秀代ひでよです。ゴルフは決して敷居の高いスポーツではありません。20年以上の歴史ある愛好会で、OGでプロゴルファーになった人が5人もいますが昨年から残念ながら同好会資格を失ってしまいましたのでゴルフ同好会からゴルフ愛好会に名称変更しています。今の会員は二人だけですが、わたしたちと一緒に芝生でプレーをしてみたいという方、ゴルフに興味がある方、まったくの初心者でもいいのでゴルフを始めてみたいという方は、是非わたしたちに声を掛けてください。心より歓迎します」

 そう言うと松本先輩は隣にいた赤色リボンの女子にマイクを渡した。その赤色リボンの女子は・・・香澄さんだ。

「みなさんこんにちは。2年A組の平山香澄です。わたしがゴルフを始めたのは中学になってからです。父と伯父がゴルフ好きということで何となく始めたゴルフですが、今ではハンデ11、去年は高校選手権にも参加し、わたしも杉友先輩もベスト10入りは逃しましたがお互いに11位タイと健闘しました。個人目標としては夏と春の大会のベスト10入りというのがありますけど、わたしたちと一緒にゴルフをしてくれる仲間を募集してます。男子でも女子でも、初心者でも経験者でも構いません!お待ちしております!!」

 それだけ言うと松本先輩と香澄さんは深々と頭を下げたから、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

「ゴルフ愛好会、ありがとうございました。次はスイーツ研究会です」

 川口先輩はステージの脇からそう言うと松本先輩と香澄さんはパティシエの恰好をした20人以上の女子の先頭にいた子にマイクを渡して逆側から退場した。

「・・・ユーちゃん」

 僕は隣にいた綾香ちゃんから右袖を引っ張られるようにして声を掛けられた。

「ん?どうした?」

「もしかして・・・同好会資格を失ったのは、さっき言ってたbigビッグ threeスリーの呪い?」

 そう言って不安そうに僕の方を見てるけど、僕は「はーー」ため息をつきながら「その通りだよ」と言って首を縦に振った。

「・・・冗談じゃあなかったんだね」

「そうだよ。美樹ネエの同級生には高校選手権で優勝してプロになった人もいるし、美樹ネエの入学以前にも桜岡女子高校は女子ゴルフの強豪校として知られてたけど、去年、一昨年と2年続けて『13』を引いたから、この2年の入会者は杉友先輩と香澄さんの1人ずつで、部から同好会へ、同好会からサークルにあっという間に転げ落ちてしまった、まさに悪い意味でのジンクスの典型的な例だよ」

「そうなんだ・・・」

「去年『4』を引いた野球部は夏の大会の予選1回戦で42対1という記録的スコアで初戦負けしたよ」

「うわっ!まさに『42しに』だね」

「だろ?しかも『9』を引いた女子柔道部は乗っていたバスが会場に向かっている途中に交通事故を起こして、全員インターハイ予選を棄権する事態になってるし、一昨年も『4』と『9』を引いた部はロクな結果が待ってなかったよ。過去には『13』を引いた運動部で暴力事件が発覚して、理事会命令で解散させられた事もあるから、誰一人としてビッグスリーのジンクスを疑ってないんだよ」

「なんか説得力ある話だね・・・」

「その代わり、去年はテニス部がインターハイで男女とも優勝してるし、吹奏楽部が全国優勝をしている。他の番号を引いた部や同好会から見たら、ビッグスリーを引いてくれたゴルフ愛好会や野球部、女子柔道部に感謝状を贈りたいくらいなんだよ」

「そうか・・・そうなると香澄さん、結構辛いね」

「そうだね。でも、本人は全然気にしてないよ」

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