第21話 盛り上げ役
発表は順調に進み、既に3分の1の部や同好会が発表を終えようとしていた。
”ドサッ”
僕の左側には誰も座ってなかったのだけど、誰かが乱雑に座った音がしたので左を見たけど、そこに座ったのは香澄さんだ!しかもその左には翔真もいて、香澄さんは相当ご機嫌斜めだあ!
「・・・いーたい、痛いってばあ」
「静かにしなさい!」
「人の耳を引っ張っておいて、それはないだろ!」
「だいたいさあ、廊下で女の子とイチャイチャしてる翔真が悪いんです!」
「イチャイチャなんかしてねーぞ!すれ違った時に向こうから話し掛けてきただけだぞ!」
「どこがですか!鼻の下を伸ばしてデレーッとしてたくせに!!」
「姉貴の勘違いだ!」
「いつもの言い訳その1は聞き飽きました。だいたい、広瀬
「だーかーら、姉貴の勘違いもいいところだぞ!それに、その前は俺は
「ホントかしら?」
「畑崎に聞けば、俺の無実を証明してくれるぞ!」
「はいはい、それは分かったけど、あんたの事だから放っておくとロクな事をしないから大人しくここで見てなさい!」
「えーっ、俺、ちょっとトイレ・・・」
「あんたさあ、そう言ってさっきもわたしから逃げようとしたでしょ!」
「さ、さあ、何の事ですかあ?」
「はあああーーー・・・後でお仕置きするから覚悟してなさい!」
やれやれ、翔真も翔真だけど香澄さんも香澄さんだねー。恐らく香澄の言ってる方が正解だとは思うけど、翔真もモテモテだからねえ。香澄さんがいなかった翔真はチャラ男クンに成り下がってたかもねー。
でも、29番目の野球部が始まるころになると講堂に急に人が集まり始めた。その理由は分かっている。野球部や次の手芸部を観たいのではなく、みんな少し早めに来て場所取りをしているに過ぎない。
その次の30番目の手芸部が終わる頃には講堂がほぼ満杯になるまで膨れ上がった。中にはジャージ姿の人もいるし運動部の練習着のままの人もいるから、練習中に抜け出してきて、というより桜高の全ての運動部、同好会が練習を一時中断して講堂にやってきたと言ってもいい。
「・・・手芸部、有難うございました。次は女子ロックバンドサークルです」
そう川口先輩が言うと同時に姉さんと朝倉さん、南城さんがドラムセットとアンプを持ってステージに登場し、急ピッチでドラムセットを並べると一度ステージの奥に戻った。朝倉さんは一人だけ椅子に座ってるけど姉さんがベースを、南城さんがギターを持って再び現れ、コードをアンプに差し込んだ。
姉さんはマイクの前に立つと天井を見上げたが、やがて『よし!』とばかりに気合を入れた顔で正面を向いた!
「みなさんこんにちは、女子ロックバンドサークル『
姉さんがそれだけ言うと朝倉さんが左右の手で持ったスティックを頭上でクロスさせた。
「1・2・123!」
♪♪♪~ ♪♪♪~
演奏が始まると同時に拍手と歓声が沸き上がったけど、この曲は・・・
♪君と春の初め、将来の夢、大きな希望語り合った日・・・
♪10年後の今日、また会えるのを信じて、最高の思い出を・・・
朝倉さんは両手に持ったスティックを軽快に叩きながら、姉さんと南城さんは右手に持ったピックを弾ませるようにして3人ともマイクに向かって熱唱している。姉さん派の人は手を叩きながら一緒に熱唱しているし、1年生も聞き入ってる!もちろん、この曲を知らない人は殆どいないと言ってもいいくらいの有名曲だから、中には一緒に口ずさんでる人もいる。これは結構いけるかも!
♪最高の思い出を~
♪最高の思い出を~
姉さんと南城さんの右手が止まり、朝倉さんの両手と右足が止まると同時に会場にいたほぼ全員から一斉に歓声と拍手が沸き起こり、それと同時に姉さんたちが深々を頭を下げた。僕が見た限りでは100点満点の演奏だ!
「女子ロックバンドサークルありがとうございました。次はオオトリになります、ヘビメタ同好会『世界創世神話隊』です」
そう川口先輩が言うと同時に姉さんたちは大慌てで片付けを始めた。
「・・・愛美ちゃんの負けね」
「姉貴の言う通りだな。次を見る前に結果が分かるのが辛いね」
いきなり香澄さんと翔真が口を開いたから、僕も綾香ちゃんも思わず二人を見てしまったけど、二人とも正面を見たまま怖いくらいの顔で姉さんたちを見ている。
「・・・選曲が最悪ね」
「だね。超有名曲とはいえ、入学式シーズンに卒業式の曲は無いよな」
「しかも佳乃さん、足が地についてないんじゃあない?」
「だろうね。南城の奴、演奏に意識が集中し過ぎて全然歌えてない。折角の美声が活かしきれてない!勿体ないの一言だよ」
「殆どブッツケ本番、しかも初公演にしてはマズマズだろうけど佳乃さんが色々な意味で目立ちすぎ!ド素人が3か月でよくここまでやったと褒めてやりたいけど、これじゃあねえ」
「弾くだけなら姉貴の方が上手いんじゃあないのか?」
「弾くだけならね。佳乃さんには申し訳ないけど」
「ま、今日だけは南城のド根性を褒めてやってもいいけど、大甘で50点くらいかな」
「50点?30点でも高いくらいよ」
「うわっ、姉貴にしては超辛口だね」
「わたしはこれでも大甘よ。さすがに菜々子さんは女王陛下が認めるだけのことはあったけど、3人の息が全然合ってない」
「だね。とてもじゃあないけど女王陛下とかぐや姫の盛り上げ役で終わりそうな気がするよ』
「そうかしら?盛り上げ役にもならないわね」
「前座なら、この程度で十分だろ?」
「前座ねえ。クジ運とはいえ、ホントに前座ね」
「そういう事だ」
「翔真もたまにはいい事を言うわねー」
「これでも褒めてるつもりだぞ!普段の俺なら南城に0点をつけてるぞ!」
「たしかに普段の翔真なら、0点どころかマイナス点をつけても不思議じゃあないわね」
「そういう事。今日だけは素直に『お疲れさん』と言っておくよ」
「そうね。愛美ちゃんも佳乃さんも、それに菜々子さんもお疲れさん」
翔真も香澄さんも結構厳しい顔で姉さんたちを見ながら話してるけど、僕から見たら満点をつけてあげたいくらいだったのに、どこがどう悪かったんだろう・・・どうしてそこまで姉さんたちの事を悪く言うんだろう・・・僕には二人が意地悪をしているようにしか思えなかった。
その時、ステージの奥から5人の女子が登場し、今までで一番大きな歓声が上がった!
背中まであるロングヘアーを颯爽と靡かせてベースを肩に掛けて登場したのは、生徒会長の3年B組の
残る3人も続けて出てきた。眼鏡を掛けてるのはドラム担当3年F組の川口先輩。先輩は司会進行役だから自分で自分の同好会を紹介したような物だ。少し脱色した髪の子は、僕と同じ中学の先輩のキーボード担当3年G組の
この5人の準備が全て終わった時、北条先輩が右手で前髪を掻き上げた!
その瞬間、北条先輩の目つきが変わった!!その目は・・・冷酷な魔物のようだ!
『おまえらー!このわたしの名前を言ってみろ!』
「「「「「「「「「「陛下!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「政美さまー!」」」」」」」」」
『おまえらの魂、このわたしに捧げろー!』
「「「「「「「「「「うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
2年生と3年生のほぼ全員が立ち上がって雄叫びを上げたから、1年生がビビッているほどだ!そのくらいの狂気が講堂を包み込んでるとしか思えない!
咲耶先輩がビシッと右手の人差し指を突き出した!
”お前ら全員、
♪♪♪~♪♪♪~
♪
♪誰も知らぬ秘密の館 不死の魔物
咲耶先輩の絶叫と共に始まった
♪不死の魔物
♪太陽はもういらない・・・
『『
桜高の女王陛下こと北条先輩と、かぐや姫こと咲耶先輩の絶叫を最後に今年の部活動・同好会合同説明会は終わった・・・
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