第39話 ズバリ教えます!

 占いが終わったという事は7時だ・・・


 いつも通りなら、この占いが終わると同時に僕も姉さんも食べた物を片付ける。これは日課でもある。7時半頃に耕平を連れて美樹ネエが来るから、それまでにはテーブルを綺麗にしておく必要がある。


 でも・・・なぜか今日は姉さんが立ち上がらない。


「・・・ゆーすけー、あんたさあ、なのー?」

 姉さんはそう言ってニヤニヤ顔で僕を見てるけど、『どっち』が意味する言葉は僕も十分に分かっている。二人の綾香ちゃん以外の何者でもないのだ。

「・・・姉さんは僕に何をさせたいのー?」

「ん?お姉ちゃんはアヤちゃんを選ぼうが方広寺さんを選ぼうが、雄介の決定を覆す権限はないよー」

「姉さんの希望は?」

「べっつにー。私と雄介の思惑が逆だったら、あんたが逆に気を使いそうだから」

「だから何も言わないと?」

「そういう事。菜々子は本心で無関心なのか、それとも無関心を装ってるのかは私の知る由もないし、ヨシノンは雄介のカノジョがどっちになろうと自分に影響はないからねー」

「そうですか・・・」

 たしかに姉さんの意見は間違ってない。それに、これは僕自身の問題だ。姉さんが口を出す事で話がややこしくなるのは僕も分かっている。僕自身の中では答えは決めたつもりだけど、本当にそれでいいのか?と思うと口に出せない。いや、チャンスは1回だけだというのも分かっている。

 その時にがどういう反応を示すのか、それが怖くて踏み出せない・・・


 それより・・・


 体験入部期間は明日までだ。

 方広寺さんは毎日第二音楽室へ顔を出してるけど、姉さんと南城さんも含めたマンガ教室と化した女子ロックバンドサークルに入ってくれるのだろか・・・仮に方広寺さんが女子ロックバンドサークルの入部届を書いたとしても、同好会へ昇格するにはもう1人の入部が必要だ。


 けど、仮に方広寺さんに加えてもう1人が入部届を出してくれたとしても、現実問題として楽器は3つしかない。残る2つの楽器はどうなる?仮にボーカル専任だったとしても、ボーカルが2人では、何のためのロックバンドなのか分からない。少なくとも、あと1つ、楽器が欲しいというのは朝倉さんの毎日の口癖だけど、さすがに北条先輩にオネダリする訳にもいかない。


 それ以上悩ましいのが・・・僕はほとんど方広寺さんの機嫌取りに終始してるから、綾香ちゃんが姉さんに不満をぶちまけているのを知っている。これ以上、綾香ちゃんの機嫌を損ねると僕から離れていってしまうかもしれない・・・


 方広寺さんと綾香ちゃんのを考えればいいのなら、僕の答えは既に決まっている。だけど・・・僕は・・・


 ホントの意味で八方塞がりかもしれない・・・


 そんな僕を姉さんが『ピーン!』とばかりにデコピン1発食らわせた!

「・・・ったくー、ここはお姉ちゃんが究極の解決法を教えましょう!」

 姉さんはそう言ってニコニコ顔で僕を覗き込んでるけど、一体、何を言いたいんだあ?

 姉さんは右手の人差し指を顔の前でチッチッチと左右に振りながら

「ズバリ教えます!お姉ちゃんを選びなさい!」

「うん、そうするよ」

「はあ!?」

 僕は殆ど無表情に答えたけど、言った張本人である姉さんの方が逆にアタフタしている!顔を真っ赤にして両手を頬に当て、それこそ『桜高のヴィーナス』とは思えない程の狼狽振りだ。

「・・・ちょ、ちょっと雄介、それって本気?」

「ん?半分冗談で半分本気」

「ああー!お姉ちゃんを揶揄ったなあ!」

「僕はちゃあんと質問に答えましたよー。半分冗談で半分本気」

「半分ではなく全部本気だったらお姉ちゃんは許しますが、半分ではお姉ちゃんは納得しません!」

「じゃあ、全部揶揄ったにしておく」

「ちょっとー、それなら最初からお姉ちゃんを揶揄ってたって事になるじゃあないのー、ぷんぷーん」

「姉さんの方こそ、クソ真面目な顔をしながら事を言わないで下さい。僕はホントに困ってるんだからさあ」

「それはそれとして、ここからは超真面目な提案だけど、ヨシノンと付き合え」

「はあ!?」

 おいおい、姉さんが全然笑ってない。むしろ目が座っている!どう考えても本気で言ってるとしか思えない・・・

「・・・ヨシノンさあ、二言目には『カレシが欲しい』なんだよねー。だいたいさあ、ヨシノンがカレシと別れる切っ掛けになったのが翔真君との毎朝恒例のだから、2年生の男子は『私の紹介だから』とか言っても、誰も首を縦に振ってくれないんだよねー」

「さすがの弁護士一家の長男も、南城さんのの前にはタジタジだからねー。あの毒舌が無ければ男がいくらでも擦り寄ってくると思うけど、あれを知っちゃったら男は逆に怖くなっちゃうよ」

「でもさあ、ヨシノン、あれでいて本当は結構相手に尽くすタイプなんだよー」

「ふーん」

「まあ、どっちかといえばお姉さまタイプだから、雄介のノンビリ・マイペースにはピッタリだと思うけどね」

「それで全部解決するんですかあ?」

「あんたにカノジョがいれば諦めるしかないしー、ヨシノンのボヤキを聞く事も無くなるしー、まさに一石二鳥だと思うけどなー」

「即答しないとダメですかあ?」

「べっつにー。お姉ちゃんは2つも解決策を提案したよー。あとはあんた自身が決めなさーい」

「そのうち1つは滅茶苦茶な提案ですー」

「雄介、何か言った?」

「いえ、別に・・・」

「それなら、さっさと食器を片付けなさい。耕平が来た時にテーブルの上の残ってるとウルサイわよー」

「はいはい、気を付けます」

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