SS クラス委員投票!

第23話 ダメダメ満載

「・・・それじゃあ、最後になったけど、今日の昼休みまでに風紀委員に立候補した人は1名だけだから、そいつを発表するぞー」


 今日は金曜日。明日は2年生になって最初の週末だ。

 桜岡高校の校則では、各クラスのクラス委員と風紀委員は今日の放課後までに決める事になっている。

 去年の1年E組はクラス委員はともかく風紀委員が決まらず、帰りのショートホームルームは相当長引いた。

 最終的に去年の1年E組の風紀委員は今年も同じクラスの戸川とかわが引き受けた。まあ、こいつは中学の時に生徒会長をやっていただけの事はあって責任感は相当あったし、実際、無難にこなしていた。ただ、今年は『平日は毎日塾通いだから『委員』と付く物は勘弁してくれ』と早々に宣言している。でも、既に水曜日の朝のショートホームルームで飯田先生が「クラス委員も風紀委員も既に立候補した奴がいるぞー」「他に立候補したい奴がいたら金曜日の昼休みまでに先生のところへ言ってこーい」などと言ってたからノンビリムードが漂っている。

 そりゃあそうだろうなあ。だって、どのクラスも特に風紀委員を決めるのは難儀するのに、クラス委員共々、少なくとも一人ずつ立候補しているのだから最悪信任投票で済ませる事が出来るのだ。飯田先生としても好都合だ。


 あー、そうそう、桜高祭ブロッサム・フェスティバル実行委員は2週間後の第一回会議までに決めればいいのだが、飯田先生は「やりたい奴は名乗り出ろー」と今朝も言ってたから誰も立候補してないようだ。


 今日の帰りのショートホームルームはいつも通り淡々に進んだ。

 えっ?タイガースの結果次第で担任の態度がガラリと変わるんじゃあななかったのかあ?おかしい?

 あー、それはですねえ、たしかにタイガースの結果で飯田先生が奈緒虎節全開になるのは事実だけど、それは朝のショートホームルームと授業の時だけであって、帰りのショートホームルームは淡々と進むのだ。これは香澄さんが去年の情報として教えてくれたから間違いない。

 因みに今夜も試合があり、これで今年の10試合目になるけど、一応開幕ダッシュに成功して昨日までの成績は6勝3敗だ。けど昨日、一昨日と連敗してるから今朝の飯田先生は少々不機嫌だった。恐らく今日も負けて3連敗すれば本当に奈緒虎節全開になるだろうけど暫定とはいえ首位だからご機嫌そのものは良い方だ。


 そんな奈緒虎先生、失礼、飯田先生の口から出てきた風紀委員の立候補者は・・・僕の予想通りだった。

「・・・まあ、このメンバーだったら誰もが予想できたとは思うけど、杉原すぎはらさとるだ」

 飯田先生に名前を呼ばれた杉原はサッと立ち上がると教壇の横に立って深々と一礼をした。さすが貴公子杉原!こういうところは礼儀正しいぞ。

「杉原を2年A組の風紀委員として承認するやつは挙手してくれ」

 飯田先生がそう言った後に僕はサッと右手を上げたけど、全員が手を上げたから杉原に決まり、杉原は再び軽く一礼をして席に戻って行った。

「・・・えーとー、クラス委員は2名の立候補があったぞー」

「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」」」」」」

 おい、マジかよ!?このメンバーを見たら、誰がどう見ても去年はC組のクラス委員で、超がつく程の目立ちたがり屋の丸岡まるおか宗男むねおしかいない筈なのに!!

「おいおいー、そんな事を言うと立候補した奴に失礼だぞー」

 飯田先生はそうぶっきら棒に言って軽く笑ったけど、丸岡本人は『嘘だろ?』と言わんばかりの顔をだし、姉さんまでもが僕の方を振り向いて「嘘でしょ?」とか言ってる。僕も正直に言うけど自分の耳を疑っている!

「それでは、二人は悪いけど前へ出てきてくれー」

 飯田先生はそう言うと、予想通り一番廊下側の列の丸岡がサッと立ち上がって飯田先生の横に並んだけど、それとは逆の窓際の席から一人の生徒が立ち上がった時、クラスの中が騒めいた!

 その生徒は・・・朝倉さんだ!マジかよ!?僕も姉さんも思わず目が点になった!!

 その朝倉さんだけど・・・何となくだが・・・思い詰めたような表情に見えるのは僕だけだろうか・・・

「あー、それでは、慣例に従ってクラス全員の無記名投票で決めたいと思うけど、その前に両名の立候補にかける意気込みと、2年A組の目指す方向について聞かせてくれー」

 飯田先生は左右を見渡しながら二人を促したけど、予想はしてたけど丸岡はサッと一歩前に出るとキリリとした表情に変わった。その丸岡が右手で眼鏡を軽く持ち上げながら

「えーと、オレは去年もC組でクラス委員として活動してきました。日曜日の夕方に放送されている、あの人気アニメのクラス委員に姿かたちが似てるし苗字も似てるから勘違いされてるけど、オレ自信は目立ちたがり屋だとは思ってないです。ただ、結果的に目立ってしまっただけであり、1年C組のみんなの協力があったからこそです。クラスが一丸となれるようにするのがクラス委員であり、みんなの協力あってこそのクラス委員だと思ってます。この2年A組の舵取り任せられるのは丸岡宗男だけだと思ってますので、ズバリ!丸岡宗男をよろしくお願い致します!」

 そう言うと丸岡は頭を下げたけど、さすがにクラス委員を1年間やってきただけの事はあって自信満々で口は達者だねー。そういうところは褒めてやりたいよー。

 で・・・もう一人の朝倉さんだけど・・・こちらは悲痛な表情を崩してない!大丈夫かよ!?

「・・・えーと、あたしは正直言って丸岡君のような優秀な頭も無いですし相手を魅了させるような言葉を並べるような事も出来ないですし、マンガを描く事とドラムを叩く事以外はハッキリ言ってダメな女で、それでいて全然可愛いげが無いのも認めます。でも、皆さんに問いたいのですが、闘って敗れた負け組は褒められるべきであり、むしろ闘おうとしない人が問題だと思います。失敗しない人間は面白みがないから、完璧な人間より不完全な人間の方が面白みがあると思いますし、それ以上に、批判を恐れてはダメだと思います!批判する勢力は元気の元であり、批判されるからこそ元気が出る、新たな活力になると信じてます。ダメダメ満載のあたしですけど、2年A組のクラス委員になっても全然おかしくないですよね?あたしがクラス委員になればクラスが変わる!いや、この学校も変わると信じてます!このあたしが古い考えをぶっ壊してみせます!!」

 おいおいー、これが本当に決意表明なのかあ!?こんな事を言ってる奴に本当にクラスを任せてもいいのかよ!?いや、でも、綺麗な言葉を並べただけの中身の無い言葉より、ありのままの自分をあえて曝け出した朝倉さんの決意表明は案外いけるかも・・・

 丸岡と朝倉さんは一度席に戻ったけど、二人が戻ったら飯田先生は投票用紙、正しくはプリントの裏紙を使ったメモ紙を分け始めた。

「・・・あー、それでは投票に移るけど、二人以外の名前を書くとか、白紙で投票するような奴こそ我がクラスの抵抗勢力だぞー。自分が立候補しなかった以上、この二人のどちらかにクラス委員を委任すると決意表明してるというのを高校生なら自覚しろー」

 僕はどちらの名前を書き込むか、投票用紙が届く前に決めた。その人物の名前を書き込むと教壇の上に置かれた投票箱、こちらも正しくはティッシュの箱だけど、そこに投票し他のみんなも次々と投票した。

「・・・それじゃあ、全員投票したなー。今から開票するけど、悪いが城之内じょうのうち豊島としまがやってくれ」

 飯田先生に言われて教壇前の席の二人、城之内さんと豊島さんが立ち上がった。二人は投票箱をひっくり返し、全ての投票用紙のチェックを飯田先生の立ち会いの元で確認し取りまとめを行った。

 その結果を発表したのは城之内さんだった。

「えー、それでは結果を発表します。投票総数42で無効票及び白票はありません。丸岡君1票、朝倉さん41票、以上です」

 城之内さんは淡々と発表したけど、その結果に全員がどよめいた!

 丸岡1票ということは、本人が投票した1票だけで、残りの全員が朝倉さんに投票したって事じゃあないかよ!

 丸岡はまたまた『嘘だろ!?』と言わんばかりの表情をしてるけど、さすがに某アニメの学級委員のように不平不満を言わなかったのはさすがだ。

「・・・よーし、それじゃあクラス委員は朝倉という事で1年間、よろしく頼むぞ!」

 飯田先生はそう言って朝倉さんに向かって拍手をしたから全員がそれに倣って拍手をした。もちろん丸岡も拍手しているのは立派だ。

 肝心な朝倉さんだけど・・・はあ!?誰がどう見ても固まってるぞ!!当選するとは全然思ってなかったとしか考えられない!!!でも、隣にいた大浪おおなみさんに促されて朝倉さんは立ち上がり、ぎこちない動作ではあったがみんなに向かって一礼したから、改めて全員から拍手が沸き起こった。

「あー、これでショートホームルームは終わりだけど、朝倉と杉原は渡す書類があるから先生と一緒に職員室へ来てくれー」

 ショートホームルームが終わって放課後になったけど、朝倉さんの周りには女子が集まってしきりに握手したり肩を叩いたりして「頑張ってね」とか「頼んだわよ」とか言い合ってるけど、丸岡の周りには誰も集まってこない!敗軍の将に用はないのか、それとも丸岡自身の人望が無かったのかは分からないけど。

 姉さんも南城さんも朝倉さんのところへ行って「頑張れよ」と言って肩を軽く『ポン』と叩いたかと思ったら、早くも教室を出て行った。というより、今日も第二音楽室で誰かが来るのを首を長くして待っているはずだ。

 朝倉さんは杉原と並ぶ形で飯田先生の後ろについて出て行ったけど、教室を出る直前、僕と視線を合わせてニコッと微笑んだ。どうして僕に視線を合わせたのかは分からなかったけど、を感じた。

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