第30話 ああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 今日の4時間目は体育だった。

 当たり前だけど男女別だから姉さんや綾香ちゃんとは別行動になった。A組とB組が一緒に体育の授業を受けるけど、2クラスで受けるのは去年も同じだから別に違和感はない。

 それが終われば昼休みになるのだが・・・


「・・・ごめーん、遅くなっちゃった」

「ゴメンじゃあないです!僕が遅い時はブーブー文句を言うのに自分が遅い時はいつもこれですよねえ」

「だってさあ、か弱い女の子に跳び箱とかマットとかの片付けをさせるんだよー。酷いと思わなーい」

「授業で使った物を片付けるのは当たり前です。何度も言うけど僕が遅くなった時はブーブー文句を言うのに、自分の時は言い訳するのは勘弁して下さい!」

「まあまあ、日本の男子高校生は百万人以上もいるけど、こうやってお姉ちゃんと一緒に食堂でお昼ご飯を食べられのは、多分雄介だけだよ」

「はいはい、僕には他の誰かと食べる権利は与えられてないんですから、姉さんの好きにしてください」

「雄介、何か言った?」

「いえ、別に・・・」

 4時間目が美術や体育、化学の実験の時には片付けや着替えで昼休みに食い込む事がある。美術や化学は男女一緒だから問題ないけど体育は別だから、そんな時に勝手に誰かと食事をすると後で姉さんがブーブー言うから、仕方なく食堂の前で姉さんを待つ側だ。逆のパターンの時もあるけど、特に体育の後は女子の着替えは結構遅い。ホントに4時間目の体育は勘弁して欲しいぞ、ったくー。

 でも、それは去年までの話であって、2年生になってからは違う!

「ユーちゃーん、ホントに片付けが大変だったんだからさあ、機嫌直してよー」

「はいはい、僕は別に怒ってないですよ。たまには姉さんに愚痴の一つでも言いたくなる時があるというだけですよ」

「ユーちゃーん、そんな事を言ってる暇があったら早く食券を買おうよー」

「そうだね。早くしないと売り切れるぞ」

 そう、綾香ちゃんも一緒なのだあ!さすがに綾香ちゃんに言われたら僕も素直に従いまーす!!しかも先週は僕の正面に姉さんが座って、綾香ちゃんは僕の右側に座ったのだあ!僕は校内随一の幸せ者でーす!!


 桜高は午前に4時間、午後に3時間の7時間授業だ。昼休みは60分あるけど、僕も姉さんも、それに綾香ちゃんもお弁当持参ではなく食堂で食べている。購買でパンやサンドイッチを買って教室で食べる人や、持参した弁当を教室や食堂で食べる人もいるけど、全校生徒の半数以上が食堂に集まる。

 A定食はハンバーグや豚カツといった男子向けのスタミナ料理の時が多く、B定食はサンドイッチやパスタといった洋食が多い。B定食は主に女子が好むけど男子でも選ぶ人は結構いるし逆に運動部の女子はA定食を好む傾向がある。男子はご飯を大盛りにする人が結構いるのは高校生だから仕方ない。それ以外にC定食、つまりカレーライスがあるがA定食とB定食は合わせて400食くらいしか用意されてない。先にB定食が売切れて、次にA定食が売切れるのも毎度の事で、基本的に早い者勝ちだ。

 1食250円の食券を自動券売機で買ってからカウンターに並ぶのだが、3台しかないので長蛇の列が出来るのも毎回の事だ。

 僕たちは3台のうち1番右側の列に姉さん、綾香ちゃん、僕の順に並んでいる。姉さんの前にいるのは小学生かと見間違えるような背の低い女の子で、赤いフレームの大きな丸眼鏡を掛けた子だけど緑リボンをしているから1年生だ。因みに僕の後ろにいるのはサッカー部のエースストライカー、三浦先輩だあ!

 さすがに何を買うのか決めている子が多いから流れはスムーズだ。

「・・・メグ、今日のB定食はナポリタンだよ」

「あれっ?その発音からして、もしかしてナポリタンはイタリア語じゃあないとか?」

「そうだよー、ナポリタンはItalianイタリアンどころか、いわゆる Maidメイド inイン Japanジャパン だよ」

「マジ!?私はパスタ料理は全部イタリア生まれだと思ってた!」

「違う違うー。だいたい、先週の金曜日のB定食はMeatballミートボール Spaghettiスパゲッティだったけど、Americaアメリカの料理だよ」

「それも知らなかったあ!!」

「他国の料理を自国に取り入れた時に作風が変わるのはよくあるよ。巻き寿司だって、Americaあめりかでは海苔のりは『食べられる紙」とか思われてて、パサパサして邪魔だとか言って取ってしまう人が後を絶たなかったから、わざと海苔を内側にした Californiaカリフォルニア rollロール という巻き寿司が作られ、それが日本に逆輸入されたんだろ?」

「えーっ!それも知らなかったあ!!」

「はーーー、メグは結構固定観念を持ってるから、それを取り除かないと正しい知識を得られないよー」

「うー、それはちょっと耳が痛い話ですー」

「まあまあ、ボクだってキムチを和食だと思ってたから他人の事をとやかく言える立場じゃあないけどねー」

「あらあらー」

 いやー、僕も姉さんと同様、ナポリタンはイタリア料理だと思ってたから『目からうろこ』だったけど、それにしても日本人は外国の料理をアレンジするのが上手いですねえ。『冷やし中華』が日本生まれなのは有名だけど、たしか『肉じゃが』もビーフシチューを日本風にした物だし、『ミルクレープ』も日本生まれのスイーツだ。意外なのはエビフライを最初に作ったのは日本人だという事だ!

 とまあ、そんな話はさておき、食券を買い求める列は姉さんの前の1年生女子まで進んだのだが・・・


「ああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 いきなり1年生女子が大声を上げたから僕や姉さんだけでなく、ほぼ食堂中の全員の視線がその子に集中した!

「どうしたのよ!?」

「な、なにがあったんだあ!?」

 たまらずと言った感じで姉さんも綾香ちゃんもその子を肩越しに覗き込んでしまったし、隣の列の人も一斉に注目している!僕もその子の頭の上から顔を出して(背が低かったから思わず上から覗き込んじゃいました、スミマセン)しまった!

 その1年生女子は財布から取り出したお札を右手に持ちながら絶叫していたのだ!


「二千円札だったのを忘れてたあ!!」

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