第31話 二千円札かよー
「二千円札かよー」
「あー、わたしも経験あるあるー」
「たまにいるよな」
「オレもウッカリしてた事があるけどー」
周りにいた2年生や3年生はそれを見て小声でクスクス笑ったり茶化したりしてるけど、僕も思わず「あーあ、やっちゃったなー」と少しだけ(?)同情した。
西暦2000年を記念して作られた二千円札だけど、正直言って超が付く程の不人気で、僕の父さんや爺ちゃんも「何で二万円札を作らなかったんだあ?」と本気でボヤくほどの
最初のうちは物珍しさもあって誰もが使ってたし、僕や姉さんも銀行へ行って交換してもまで欲しがったけど、不人気になった最大の理由が『二千円札を使えるように機械を改修するお金が勿体ない』という、大人の事情だ。
JRの自動券売機で使えるのは知ってるけど『赤電』は使えないし、街中に溢れているコケ・コーラやダイゾードリンコなどの自販機のほぼ全てで使えない二千円札は財布のお荷物以外の何物でもなーい!だいたい、我が校の食券の券売機で使えるお札は夏目漱石さんだけなのだあ!!
でも、当人にとっては大問題だ!折角苦労して並んだのに食券が買えないのだから。
翔真も入学早々にやらかしたけど、校内で二千円札を両替するとなると購買でオバちゃんに頼むのが一般的で、放課後の購買が閉まっている時に自動販売機で買いたい時には職員室か学校事務室へ行って先生や学校事務の職員に個人的に両替を頼むしかない。裏技として友達やクラスメイトに両替してもらうという手もあるけど。
申し訳ないけどこの1年生、半分泣きそうだ。そりゃあそうだろう、ここで購買に行ったら最後方に並び直しだから120%の確率でカレー確定!因みに翔真は隣の列にいた香澄さんに「頼むから金を貸してくれ!」と無理矢理(?)頼み込んで窮地を脱したけど、この子の前にいたのは3年生女子だったから、周りにお金を借りれるような人もいないようだ。
「・・・はいはーい、困った時にはお互い様よねえ」
姉さんはそう言うと1年生の前でニコニコしながらブレザーのポケットからコインケースを取り出した。
「同じ学校に通う者として、後輩が困っているのを見過ごすのは先輩として有るまじき行為だと考えます!」
「えーっ、でもー・・・」
「気にしない気にしない!後で購買で両替した後に返してくれればいいし、別に明日でもいいわよー」
姉さんはニコニコ顔だけど、本当は1年生の前で女神様を演じているのが見え見えだあ!その証拠に左の上唇が少し笑ってる!!どう考えても今朝の占いを実行に移しているとしか思えないぞ!!!
綾香ちゃんは姉さんの腹黒い(?)陰謀を知ってか知らずか「そうだよー、気にしなくてもいいよー」とか言ってるから、その1年生も「じゃあ、後で必ずお返しします」と言って二千円札を財布に戻した。
「よーし!それじゃあ、君は何を食べるのかなあ?」
「あのー、B定食があるならB定食でお願いします」
「はいはいー、B定食ねー」
姉さんはそう言いながらコインケースを開いたのだが・・・
「ああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
今度は姉さんが食堂中に響くような大声を上げたから全員の視線が姉さんに集中した!
「メグ、どうした!」
「姉さん、どうしたんですかあ!?」
僕と綾香ちゃんは姉さんの顔を覗き込んだけど、肝心な姉さんは顔を真っ赤にしながら再び絶叫した!
「コインケースは持って来たけどお金を入れてくるのを忘れてたあ!」
おいおい、そりゃあないだろー?周りにいた人はゲラゲラ笑ってるし、僕も思わず右手を額に当ててしまったし、綾香ちゃんも「アホ!」とか言ってるほどだ。それに1年生もクスクス笑ってる。
「雄介!あんたが出しなさい!」
「はあ!?どうして僕が出すんですかあ?」
「あんたもコインケースを持ってきてるでしょ!」
「た、たしかに言われた通り持ってきたけど、まさかとは思うけど僕に払わせる気ですかあ!?」
「あったり前よ!女神様の御神託です!!」
「勘弁してよー」
僕は本気でボヤいたけど、後ろにいる人たちが「早くしろよー」と目で訴えてるから、仕方なく僕はコインケースを取り出して100円玉を3枚、姉さんに手渡した。
姉さんは僕の手から100円玉をサッと奪い取るようして自動券売機に投入してB定食のボタンを押したから、『B』と印刷された食券がスッと出てきた。
「はいはーい、お待ちどうさまー」
そう言うと姉さんは1年生にB定食の食券を手渡し、その1年生も「ありがとうございます」と言って深々と頭を下げてから食券を姉さんの手から受け取った。
「・・・ところで、君はいつも1人で食べてるのー?」
姉さんは極々普通の質問をしたけど、その1年生は首を横に振った。
「えーとですねえ、クラスの子と一緒だけど、その子はお弁当だから先に席取りをしてるんですー」
「あー、ナルホド。それで一人で並んでたのねー」
「そうです、ホントに助かりました」
「気にしない気にしない!」
「あのー、お名前を・・・」
その1年生は姉さんの名前を尋ねたけど、さすがに入学早々の1年生が『桜高のヴィーナス』を知ってるとは思えないからなあ。これは仕方ないね。
姉さんは『待ってました!』とばかりに胸を少し反らし気味にして
「2年A組の平山
「わたしは1年B組の
「方広寺さんね。お金はいつでもいいからねー」
「はい、ホントに有難うございました!」
そう言うと、その1年生、方広寺さんはもう1度深々と頭を下げてからB定食の列に並んだ。
「・・・さあて、私もB定食を買うわよー」
そう言って姉さんは僕に向かって右手をサッと差し出した。
「へっ?」
「あのさあ、今日の私はお金を1円も持ってないのよ!」
「あー、そういえばそうでしたね。じゃあ、後で返してねー」
「うーん、ここは弟として『姉さん、今日は僕が払いますよ!』とか言って、お姉ちゃんを感激させるような事を言えないのかなあ」
「あの1年生が占い通りにサークルに入ってくれる保証があるなら、後輩思いの女神様に免じて僕が払ってもいいけどねー」
「ケチ!」
「ケチじゃあないですよー。だいたい、姉さんの魂胆は見え見えですからー」
「はーーー・・・ちゃーんと帰ったら返しますからあ、とりあえず貸してー」
「はいはい」
そう言うと僕は姉さんに100円玉を2枚渡したから、姉さんはニコニコ顔で自動券売機に、さっきのお釣りの50円玉と100円玉2枚を入れたのだが・・・
「あれっ?・・・B定食のランプが
「姉さーん、B定食が売り切れたんだよ」
「うっそー!」
「だってー、A定食とC定食のランプはついてるでしょ?お金を入れてもランプが点かない時は売り切れだよ」
「そうだった、スッカリ忘れてた・・・」
「諦めてA定食にしてください」
「くっそー、これでホントにあの1年生がサークルに入らなかったら、今度こそテレビ局に責任取ってもらってチャンネルを変えるわよ!」
姉さんは半ばキレ気味にA定食のボタンを『バン!』と勢いよく押したら『A』と印刷された食券が出てきた。それを持つと姉さんは「はーーー」とため息をつきながらA定食の列に並んだ。綾香ちゃんも僕も同じくA定食の食券を買って姉さんの後に続いた。
作者注釈:
二千円札(額面表示は弐千円)は2000年(平成12年)7月19日に発行され、現在は発行は停止されてますが有効です。記念紙幣ではなく、立派な日本銀行券です!
表面に
現在の千円札の肖像画は
因みに・・・歴代の千円札に描かれた人物と発行年は次の通り(Wikipediaより)
夏目漱石(1984年=昭和59年11月1日)現在でも有効です。
野口英世(2004年=平成16年11月1日)現在発行中です。
なお、2024年(令和6年)に
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