第17話 一緒に夢の舞台へ・・・

「そ、それは・・・まあ、ここで話してもいいけど、それをすると長くなるから今はやめておくよ。とにかく、北条先輩は姉さんの最大のライバル・・・というか、朝倉さんにとっても、姉さんにとっても北条先輩はライバルであって、それと同時に、越えられない最強の壁さ」

「はあ!?・・・さっき以上に意味不明なんだけどー、朝倉さーん、ユーちゃんの代わりに説明してよー」

 綾香ちゃんはそう言って朝倉さんの方を見たけど、朝倉さんは綾香ちゃんを一瞬だけチラッと見たかと思ったら、すぐさまその視線を軽く受け流した。

「・・・ゴメン、今はお喋りよりチラシ配りが優先よ!」

 そう朝倉さんは言ったかと思ったら、右手を振りながら「じゃあねー」と言って僕たちに背中を向けた。でも、2、3歩行ったところで立ち止まり、後ろを振り向いたと思ったら左手に持っていた紙袋の中からチラシを1枚取り出し、それを持って僕のところへ再び戻ってきた。

「・・・愛美が言ってたけど、雄介君さえ良ければ歓迎するわよ。佳乃ちゃんも全然OKだって言ってるから、考えておいてね」

 それだけ言って朝倉さんはチラシを僕の左手に無理矢理握らせると、今度は全速力で僕たちの前から走っていってしまった。でも、その時、朝倉さんは少し泣いていたような顔をしていたと感じたのは僕の思い過ごしだろうか・・・

 僕は走り去った朝倉さんをジッと見ていたけど、朝倉さんは何事もなかったのように1年生の女の子を見つけると手当たり次第チラシを渡していった。それは姉さんも同じだったけど、南城さんはようやく翔真との口論が終わった(?)ようで、遅ればせながらチラシ配りの続きをやり始めた。でも・・・

「ユーちゃーん・・・南城さん、あれはどう見ても不機嫌だよねえ」

「だろうね。翔真の奴、口ではいつも南城さんに敵わないけど、どうやら今日に限っては完勝だね」

「でしょうね。片や翔真君は鼻歌を歌いながら歩いてるのに、片や南城さんはチラシに当たり散らしてるからね」

「綾香ちゃーん、こんなところで寒いギャグは勘弁してよー。南城さんが聞いたら怒るよー」

「へっ?・・・あー、たしかに言われてみれば『に当たりてる』から典型的な親父ギャグだね。ゴメンゴメン」

「綾香ちゃーん、まさかとは思うけど、寒ーいギャグの事を英語で『ファーザーズギャグ(father's gag)』とは言わないよねえ」

「ユーちゃーん、それはないよ。『dadダッド jokeジョーク』だよ」

「あれー、お父さんが寒いのは世界共通?」

「だと思うよー。ボクのお父さんも寒いよー」

「うちの父さんも寒いよー」

「「アハハハハハーー」」

 思わず脱線して僕も綾香ちゃんも笑ってしまったけど、この場で話すような事じゃあなかったですね、失礼しましたー。

 僕は綾香ちゃんと『寒ーい会話(?)』をしている時でも目だけは朝倉さんをずっと追ってたけど、朝倉さんの様子はここから見た限りでは全然落ち込んでるように見えないから、僕の思い過ごしなのかなあ・・・

 そんな事を思いつつ、僕は左手に持ったチラシを見ながら考え込んでいた。朝倉さんが何を考えていたのか、何を言いたかったのか、あれこれ想像してみたけど結論は出なかった・・・

「そういえば・・・朝倉さん、小学生の頃は漫画家かイラストレーターを目指していたって言ってたなあ」

 僕はチラシを見ながら思い出したけど、そのチラシは可愛いイラストが散りばめられ、女の子に呼びかけるチラシだった。



 ガールズ・ロックバンド『glass slippers』始動!

 一緒に夢の舞台へ、武道館へ行こう!!

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