第5話 お姉ちゃんは怒ってます!
「・・・ゆーすけー、そろそろ行くよー」
「あいよー」
さすがに正午を過ぎたから、そろそろ学校へ行く時間だ。
今日の午前中、僕は家から一歩も外へ出ないでリビングで
今日も朝から
元々『元祖・やきとり弁当』は家族経営の小さな弁当屋であり、社長が爺ちゃんで社員は婆ちゃんと父さん、母さん、それと美樹ネエなのだ。結婚して平山美樹から
普段は美樹ネエが連れて行くのだけど、今日は姉さんが耕平を幼稚園へ連れて行って、その足でどこかへ出掛けていったようで1時間くらい前に帰ってきた。
姉さんは耕平を幼稚園へ連れていく時、相当ハイテンションだった。
「今日こそ『モーニングお嬢様。』の限定コラボ商品を当てるわよ!」
僕から見ても、いや、誰が見ても相当意気込んで出て行ったけど、帰ってきた時の姉さんの表情は極々普通だったし、別に何かを持っていた訳でもなかったから、占いコーナーで言ってた『昨日の願い事が現実になる』を本気で試したんだろうけど限定商品を当てられなかったんだろうね。僕は占いに一喜一憂するような事はないから、これは男と女の違いなのかなあ・・・。
姉さんが帰ってきたから、僕と姉さんは一緒にお昼ご飯を食べた。お昼ご飯は朝食の残り物のおかずに加え、冷凍ピラフを姉さんが軽く調理してくれた。当たり前だが、この時間は『元祖・やきとり弁当』が一番忙しい時間でもあるから爺ちゃんたちは店にいて、僕と姉さんだけのお昼ご飯だった。
僕は姉さんに催促される形でジャケモンのデータをセーブして
先に着替えてリビングに戻ってきたのは僕だ。私立
さすがに姉さんが僕より早いとは思ってなかったけど、僕がリビングに来てから2、3分遅れで部屋から出てきた。ブレザーは男女とも同じデザインだから紺色でスカートも僕と同じグレーだ。女子はスクールシャツはなく学校指定のブラウスとリボンだけど、同じ学年だから赤色だ。背中まである黒髪をサラリと右手で払いながら歩く姿は
・・・まあ、多少の身内補正が入ってるのは
「それじゃあ、行くわよー」
「はいはい」
姉さんはリビングに入るなり出発を宣言したけど、これも去年と、いや、幼稚園の頃から全然変わってない。僕から言い出す事もない、10年以上前から変わらない
「・・・ちょっと待って」
「ん?」
姉さんは玄関に足を向けたけど、その足を止めて僕を振り返ったかと思ったら、何を思ったのか右手に持っていた鞄を足元に置いて、僕のところへ歩み寄って、そのまま僕のネクタイに両手を伸ばした。
「ゆーすけー、ネクタイが曲がってるよー」
「あれっ?そうなの?」
「鏡を見たのー?」
「うーん、見たような見てないような・・・」
「はーーー・・・そんなズボラな性格だから菜々子に逃げられるんだぞー」
「!!!!!」
僕は姉さんが言った一言に体が硬直した!だいたい、どうして僕が
「・・・さっき、耕平を幼稚園に送っていった帰りに立ち寄った2番目のセブンシックスで、ホントに偶然だけど菜々子に会ったわよー。あの子、私の姿を見た瞬間にドキッとした表情に変わったから、それでピンと来たわ。案の定、あの子、腰を直角にするくらいにして謝ったけど、別に私がどーのこーの言う問題じゃあないからね」
「・・・・・」
「正直に言うけど、あの子が雄介と付き合ってたというのを知らなかったよ。けどね、あの子、私が知ってるとばかり思ってたらしくて、私が初耳だったと知って逆に唖然としてたなー」
「・・・・・」
「あんたがあの子をどう見てたかは知らないけど、私から見ても結構可愛いし、真面目で細かい事に気付くし勿体ないなあというのが正直な感想だよ。あの子、入学してから『付き合ってくれ』とか『君が好きだ』とか言い寄ってきた男子の数は私が知ってるだけで10人では済まないくらいにモテモテなのに、それを全部断っていた理由がこれだったとはねえ・・・」
「・・・・・」
「あー、そうそう、雄介に言っておくけど、お姉ちゃん、午前中にセブンシックスを5店も
「・・・・・」
姉さんは僕のネクタイを直しながらサラリと言ってのけると、右手で僕の頬を『グリッ』とばかりに
「あーたたたたたた!」
「お姉ちゃんはさあ、あんたが浮気していたって事を知って怒ってます!」
「なんで朝倉さんと付き合ってた事が浮気なんですかあ!?」
「お姉ちゃんという人がいながら、あーんな可愛い子を泣かせたのが許せませーん!」
「誤解を与えるような事を言わないで下さい!だいたい、僕と姉さんは双子の
「姉弟であるのと同時にあんたの将来のお嫁さんです!」
「そんなアホなことを言わないで下さい!」
「素直に浮気したと認めなさい!でないと両手で抓るわよ!!」
「あーーー!はいはい、すみませんでしたあ!!」
「もう1つ!浮気した罰として、今度の土曜日にお姉ちゃんをマイスドに連れて行きなさい!!当然だけど雄介持ちよ!!!」
「僕の小遣いを減らさないで下さーい」
「お姉ちゃんはドーナツで怒りを引っ込めます!もし嫌だと言ったら、もーっと怖い御仕置きをします!」
「わーかったからあー、もう勘弁してくれ」
「約束よー」
それだけ言うと姉さんはニコッと微笑み、ようやく右手を離してくれたけど僕の頬は相当真っ赤になってるはずだ。
そのまま僕の右手に自分の左腕を絡め、強引に玄関まで引っ張っていったから僕は姉さんに引きずられるようにして家を出た。
僕には、姉さんが僕を元気付けようとして無理矢理に笑顔を見せたようにも思えたけど・・・
心優しくて弟思いの存在・・・それが昔から思っている『姉』の理想像。
その理想像は10年以上も変わってない。いや、姉さんは『姉』の理想像そのもなのだから。
さすがに「お姉ちゃん」と呼ぶのは恥ずかしいから「姉さん」に変わったけど、それ以外は物心ついた時から全然変わってない・・・姉さんは僕にとっての女神様そのものだ。
もし、誰かが僕に「どういう女の子を紹介して欲しい?」と聞いてきたら、僕は「姉さんみたいに可愛くて、姉さんみたいに僕に優しくしてくれる子」と答えるでしょうね。
ちょっとだけ難点があるとすれば、優しさの表現が他の人から見たら誤解を招きかねない事だけど・・・僕は全然気にしてませんから。
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