第27話 家でも校内でも

 だけど・・・戻る途中に気付いたけど、姉さんは隣の席の人となんか親し気に話している。しかも、さっきまで隣にいたのはオバサン(失礼!)2人組だったけど、別の2人組に変わっている。

 あれは誰だろう?と思って近づいていったら、その2人組が誰なのかに気付いて思わず『マジかよ!?』と口に出しそうになって慌てて言葉を飲み込んだほどだ!女子は同じA組の鎌田かまたさんだけど、その向かい側の席に座っているのは、同じくA組の杉原すぎはらだあ!

「おーっす!」

 杉原は少しハニカミながら僕に右手を軽く上げたから、僕も「おーっす」と言って軽く頭を下げてから先にテーブルの上にコーヒーカップを置いて席に座った。杉原と鎌田さんの前にはリング・デ・ポンやオールファッションだけでなく、肉まんとボルシチが置いてあるぞ。

「・・・いやー、まさか愛美さんと雄介君がいるテーブルの隣に座る事になるとは夢にも思わなかったなー」

 そう言って鎌田さんは笑ったけど杉原は相変わらずの表情だ。

「いつから付き合ってるのー?」

 ちょ、ちょっと姉さん!質問がストレートすぎます!僕だって言うのを躊躇っているのにさあ。

 鎌田さんはちょっとだけ杉原の方を向いたけど、杉原が『ウン』と軽く頷いたから鎌田さんはニコッと微笑みながら

「実はさあ、今年の2月14日から」

「「バレンタインデーからかよ!」」

「そうだよー。わたしもさあ、さとる君は超人気者だから、ぜーったいにカノジョがいると思ってたけどダメ元で手作りチョコを差し出したのね。だけど、カノジョがいるどころか誰も声を掛けてくれなかったっていうから『ラッキー!』てな感じで、そのまま付き合い始めちゃいましたあ!」

「「マジ!?」」

 おいおいー、杉原の事を『悟君』かよー。まあ、たしかに校内で『悟君』などと名前で呼んでる女子は他にいないからバレるのを防ぐ意味で使い分けているんだろうけどさあ。

「わたしもそうだったんだけどー、悟君は人気者すぎて逆に女の子から見たら『絶対に誰かと付き合ってる』という先入観があって、誰もコクる子がいなかったんだよ」

 た、たしかに僕は杉原を小学生の時から知ってるけど、爽やか系で誰からも好かれるタイプの反面、逆に言えば杉原自身から積極的に声を掛ける事はなく、周りが杉原に声を掛けてくるから杉原が爽やかに応じるだけだ。真面目で正義感が強いから不真面目な事はやらないし、不正を許さないから非常にウケがいい。特に今の3年生から『可愛い』と言われてモテモテだから、絶対に先輩の女子と付き合っていると僕も思ってたし、たしか姉さんも以前言ってたはずだ。それが実際には誰とも付き合ってなかったとはねえ。

 あれっ?ちょっと待てよ・・・だとしたら・・・

「・・・あのさあ、佳代子に聞きたいんだけどー」

「ん?愛美さんがわたしに質問というのも珍しいわねえ」

「杉原君はさあ、佳代子というカノジョがいるにも関わらず普段は3年生を中心にした女子に囲まれた、いわばハーレムな高校生活を送っている事になるけど、普通なら嫉妬しない!?」

 た、たしかに姉さんの質問はごもっともだ。どう見ても杉原にはメリットがあるけど鎌田さんにメリットがあると思えない!

 でも、鎌田さんは杉原と顔を見合わせたかと思ったら、互いにニコッとした。

「あー、その件だけどさあ、逆に助かってるのよねー」

「「助かってる!?」」

「そう。さとる君は二股・三股をやれるような性格じゃあないのは女の子から見ても分かるでしょ?それに、女目線から言えば、わたしのような子は『悟君が相手にするとは思ってない!』とかでマークされてないし、男目線から言えば、わたしのような子は『愛美さんや香澄かすみさん、それに他にも2年生には可愛い子が多い中では1ランクも2ランクも下』扱いだからね。実際、大杉君や富永君なんかはさあ、わたしを女として見てないからね。ちょっと酷いと思わなーい」

 た、たしかに鎌田さんは可愛い子だけど、の中では埋没している感じがあるし、鎌田さんは女子から見たら完全に盲点になっている!杉原なら絶対に鎌田さんというカノジョがいるなら他の女の子に自分から手を出すとも思えないし、誘惑されても靡くとは思えない。ある意味、クソ真面目な杉原が裏切るとも思えないから、これ程の安全牌はない!

「・・・だよねー。ホントに男子の考えてる事は分からないねー。大杉も富永も私から見たら女の敵よー」

「勘弁して欲しいよねー」

「そう考えたら、杉原君は理想の彼氏!」

「あらー、雄介君も結構ポイント高いわよー。ま、悟君には一歩劣るけど」

「あらあらー、佳代子もこんなところで彼氏自慢?」

「そう見える?」

「見えるよー。お似合いだよー」

「そんな事ないよー。愛美さんと雄介君にはよ」

「あらー、結構嬉しい事を言ってくれるわねえ」

「だってー、ある意味羨ましいわよー。なんでしょ?」

「モチのロンよー」

「あんまりラブラブなところを見せつけられて、本当に悟君が浮気したら困るからー、わたしたちの前では勘弁してよー」

「はいはーい、気を付けまーす」

 やれやれー、こーんな場所で彼氏自慢かよ!?

 それにしても杉原君、バレンタインデーからという事は、鎌田さんと付き合い始めて間もなく3か月になるのか・・・それに引き換え、僕は2か月も経たずに終わってしまった・・・この差は一体、何だ?

 でもー、羨ましいよねー。こーんな日に、こーんな場所で堂々と会ってるのは・・・おい、ちょっと待て・・・この店にはたしか・・・

「あのー・・・杉原」

「ん?・・・どうした?」

「この店には桜井さんがバイトしてるぞ!しかも僕のレジを担当したのが桜井さんだから、こんなところで油を売っていたらヤバいぞ!」

 僕は思わず杉原に血走った目で言ってしまったし、姉さんにも話してなかったから姉さんも結構焦ったような顔になったけど、何故か杉原も鎌田さんもノンビリしている。あっ?あれっ?

「あー、大丈夫だぞー」

「そうだよー」

「「へ?」」

「桜井は知ってるからー」

「「マジ!?」」

「そうだよー。だからこの店にしたんだぞー」

「そうだよー。因みに桜井さんだってカレシ持ちだよー」」

「「それは知ってる!!」」

「桜井の彼氏は佳代子ちゃんの中学の先輩だぞ」

「桜井さんに小林先輩を紹介したのは、何を隠そう、この鎌田佳代子です!」

「「それは初耳です!!」」

「オレたちは桜井の店の売り上げに協力してるんだぞー」

「そういう事でーす」

 はあああーーー・・・だから杉原も鎌田さんも堂々としていたのかあ。たしかにこのマイスドは休日の昼前後は混み過ぎてるから逆に僕たちから見たらノンビリできないから遠慮したいほどだ。そこを逆手にとって、この店に来ていたとは恐れ入ります・・・

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