第25話 阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)
「・・・あの列を全部リング・デ・ポンにしておけばいいのにー」
「姉さーん、そんな無茶苦茶な事を言わないで下さーい。品数を減らせと言ってるのと同じです!」
「それじゃあさあ、3段積みくらいにすれば沢山置けるでしょ?」
「下に置いたリング・デ・ポンが上の重さで潰れます!」
「うーん、結構いいアイディアだと思ったのにー」
「お店に損害を与えてる事が『いいアイディア』だとは思えませんよ」
「はいはい、言い過ぎました」
「ほら、店員さんがリング・デ・ポンのトレーを入れ替えてますよね」
「あー、本当だ」
「ちゃあんとストックしてあるんですよ」
「えー、でもさあ、この量だとすぐに無くなるよー」
「まだストックがあるから大丈夫ですよ」
「ゆーすけー、どうしてそう言い切れるのー?」
「その店ごとに売れる傾向が違うから、過去のデータから、この時間帯には何がどれ位の量の売り上げがあるかを把握してるんですよ。だからそれに合わせて、ある程度のストックを用意してあるから大丈夫です」
「ゆーすけー、あんたさあ、まるでマイスドでバイトした事があるような口ぶりだけどー、どこで知ったの?」
「ん?マイスドでバイトしてる小竹さんや高倉さんが言ってましたよ」
「あらー、あの二人、バイトしてたんだあ」
「そうですよー」
「因みにあの二人、ここでバイトしてるの?」
「あー、それはナイナイ。二人とも北浜のサッティのマイスドだから」
「あれっ?二人とも家が北浜だったの?」
「そうだよー。姉さんは知らなかった?」
「ゴメーン、ホントに知らなかった」
「あの二人に言わせると、制服が可愛いから同じバイト代ならWcDよりマイスドを選んだだけみたいですよ」
追加のリング・デ・ポンがすぐ補充されたけど、そのリング・デ・ポンだって奪い合いのように次々とトレーに乗せられていくから、僕たちの見ている前でどんどん数が減っている!それも品切れになったから再び補充されたけど、それもどんどん減っていく。長かった行列はどんどん短くなっていったけど、僕たちがリング・デ・ポンの前に来た時には6個しか残ってなかった!!
姉さんは素早くリング・デ・ポンを4個トレーに乗せたけど、結局は僕たちの次の人が残った2個をトレーに乗せたところで早くも終了。何とか僕たちはリング・デ・ポンを確保することが出来た。
「・・・危なかったなあ」
「ホントね。まあ、取りあえずゲット出来たからヨシとしないとね」
「それはいいけど姉さん、他のドーナツは何にする?」
「えーとねえ・・・」
姉さんは口では「えーとねえ」とか言ってるけど何の迷いもなくオールファッションやハニーチェロ、マフィン、ウィンナーパイなどを次々と乗せている。僕はトレーを持ってるだけで姉さんに口出ししてないけど、僕が何を食べるのかを分かっているかの如き選び方だ。まあ、たしかにこれなら僕は何も文句を言いません、はい。
「・・・それじゃあ、お姉ちゃんは席を探してくるから後は頼んだわよ」
「らじゃあ!」
ドーナツを選んだら次はレジで支払いだ。でも店内で座る場所を探さないと折角買ったのに食べる事もままならない。だから姉さんは座席を探しに行ってレジに並ぶのは僕の役割だ。それにドリンク類や
『・・・次のお客様、こちらへどうぞー』
僕はレジの店員さんが右手を高々と上げて声を掛けたから、その店員さんのレジの前にトレーをドカッと置いた・・・けど、その店員さんと目が合った瞬間、互いに『あれっ?』という表情になった。その店員さんは同じA組の
「あらー、いらっしゃい」
そう言って桜井さんはニコッとしたけど、さすがにバイト中であるし店内も激込みなのだから私語をしているような状況ではないと分かっているから、その一言だけで終わりとなって再びマイスドのバイト店員に戻った。
「・・・お持ち帰りですか?それとも店内でお召し上がりになりますか?」
僕たちは最初から店内で食べていくつもりだったから「店内で」と短く答えたけど、本当は姉さんがアメリカンコーヒーを1杯だけで済ませる気が無いためだ。僕もそれを分かってるからドリンクはアメリカンコーヒーを2つだけ注文したから、桜井さんは店内用の皿にドーナツを次々とトレーから移し、アメリカンコーヒーをカップに2つ入れて僕たちの前に並べた。
「・・・以上でよろしいでしょうか?」
「いいですよー」
「では、合計で・・・」
当たり前の事だけど、姉さんが場所取りに行ったもう1つの理由が今日の支払いは僕持ちだからだ。僕は財布をからお金と一緒にポイントカードを桜井さんに手渡して、桜井さんからお釣りとポイントカードを受け取ったから姉さんを探し始めた。
その姉さんだけど・・・店の入り口から見たら一番奥のところにいた!姉さんは僕の姿を見つけると右手を高々と上げて『早く早く!』と急かしているほどだ。
「・・・丁度席が空いたから確保しておいたわよー」
そう言って姉さんはニコニコ顔だけど、この席は二人掛けテーブルを向い合せにした場所だから結構狭い。まあ、このテーブルと同じ物が横にいくつもあって、それをくっ付けたり離したりして2人だけでなく4人、6人と勝手に変えることが出来るのだから文句は言えない。この時間帯にアッサリ席を確保できたのだから贅沢は敵だ。
僕も姉さんもコーヒーにはミルクしか入れないから最初から砂糖は持ってきてない。そのミルクだけ入れたコーヒーを一口だけ飲んだら僕はリング・デ・ポンに右手を伸ばした。姉さんも同じくリング・デ・ポンに手を伸ばした。
「やっぱり最初はリング・デ・ポンよねー」
「そりゃあそうでしょ?4個あるって事は『一番最初と最後に食べろ』って言ってるのと同じだよね」
「さっすが雄介!お姉ちゃんが言いたい事を分かってるのね」
「まあ、長い付き合いですから」
そう、僕も姉さんも互いの嗜好を分かっているから、こういう場所に来て「何を食べる?」などという野暮な事を聞く必要はない。ある意味『阿吽の呼吸』であり、肩を張る必要も無いから気軽である。
「・・・ところで姉さん、『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます