第10話 ぶわーっくしょん!

「・・・おーっし、今日はこれまでー。お前らー、新学期早々に遅刻などという珍記録を作るんじゃあないぞー」

 そう飯田いいだ先生が言って帰りのショートホームルームは終わりとなり、2年生最初の登校日はアッサリ(?)終わった。まあ、始業式以外はロングホームルーム2時間だけなのだから、アッサリ終わるのも当たり前か。

 一部の部や同好会は今日は形式的には新学期最初の活動日であるし、明日は毎年恒例(?)の新入生の大歓迎会(というより『強引に引き込む会』という表現の方が正しいかも)があるから、その準備に忙しい。でも、部や同好会に所属してない連中にとっては普通の放課後だ。だから呑気に「WcDへ寄っていかないか?」などと言ってる声も聞こえてくる。

 噂の(?)転入生、綾香あやかちゃんの周りには男も女も関係なく集まってきて、それはもう足の踏み場も無いほどだけど、僕にとっては迷惑この上ない。なにしろ僕の席は綾香ちゃんの隣だから、特に男子は「お前は邪魔だ!さっさと失せろ!」と言わんばかりだ。勘弁して欲しいぞー。


「・・・おーい、雄介ゆうすけ、行くぞー」

「あいよー」

 僕は翔真しょうまに声を掛けられたから立ち上がったけど、そんな僕を見て姉さんは「はーーー・・・」とため息をついた。

 えっ?何故姉さんがため息?あー、それはですねえ・・・

「・・・阿良々木あららぎは?」

「先に行ってる」

「じゃあ、僕たちも」

「レッツゴー、雀荘じゃんそう!雀荘永谷ながや!!」

「しょうまー、子供じゃあないんだぞー、レッツゴーは無いだろー」

「何を言うか!今日こそ俺の完璧超人ぶりを証明してやる!!」

「ハイハイ、勝手に言ってて下さい」

「あー!雄介、俺をバカにしてるなあ!!」

「馬鹿にはしてないけど超ド級のアホ扱いです」

「同じ事だ!」

「まあ、どちらも他人を悪く言う時に使う言葉だけど、関東と関西では馬鹿と阿保の軽重が逆だから、全然捉え方が変わってしまうからなあ」

「ったくー、さすがに口だけは達者だ」

「それはお互い様だろ?」

「はいはい、そうでしたね」

「ま、それはこっちへ置いといて、行きましょう」

「おう!」

 僕と翔真は教室を出て行ったけど、姉さんは「時間までには帰ってきなさいよー」とだけ言って見送った。

 でも、綾香ちゃんが「ユーちゃん、バイバーイ」などと言ったから、たちまちクラスの男どもが一斉に怒号を上げたのは言うまでもなかった・・・


「・・・おーい、遅いぞー」

「わりーわりー」

「じゃあ、始めるぞ」

「りょーかい」

 僕と翔真が雀荘永谷に着くと、先に来ていた2人が僕たちに声を掛けてきた。

 えっ?高校生が雀荘に入ってもいいのか?

 あー、それはですねえ、『雀荘永谷ながや』とは4人のうちの1人、永谷ながや美咲みさきさんの家の家業「リサイクルショップ永谷」の事であり、ここに高校生4人が集まって全自動麻雀マージャン卓を囲って麻雀をする事から、いつの頃からかは忘れたけど、ここを『雀荘永谷』と呼ぶようになったのだ。

 雀荘永谷に集まってきたのは、家主の娘である美咲さんを含め、いずれも2年A組の連中だ。去年も翔真を除いて1年E組だったから顔馴染みでもある。というか、この4人以外で打つことは無いと言っても過言ではない。因みにその4人とは、今の座っている順番に、僕から右回りに翔真、阿良々木あららぎ茂雄しげお、それと美咲さんだ。美咲さんは自分の家だから既にラフな服装に着替えてるけど、残る男3人は制服のままだ。

 えっ?どうして、この4人が卓を囲んでいるのか?あー、それはですねえ・・・今は省略させて下さい。

『リサイクルショップ永谷』には事業所や商店で使っていた事務用品や厨房器具が所狭しと並べられている。そんな片隅に、閉店した雀荘で使われていた全自動麻雀卓が何台かあり、そのうちの1台は元々故障していたのだが、それを美咲さんのお父さんが他の壊れた全自動麻雀卓の部品を使って修復させたのだ。機種が古く、あちこちに傷が目立つから『自由に使っていいよ』と言って美咲さんに与えた物である。

 ただし、この全自動麻雀卓を使うにあたっては条件があり「賭け事は禁止」である。ま、高校生だから極々まっとうな条件である。でも、僕たちはグレーゾーンである『最下位は2軒右隣りのセブンシックスまで買い出しのパシリをする』で勝負(?)していて、特に雨の日は辛いからパシリをしたくないから全員必死になるけど、僕と阿良々木が1割ずつで、8割は翔真の仕事だ。


「・・・ゆーすけー」

「ん?・・・翔真、どうした?」

「お前、あの転入生とはどういう関係なんだ?」

「はあ!?」

 僕は翔真の問いに思わず大声を出してしまったけど、肝心な翔真はニヤニヤ顔だ。

「おいおい、勘違いするなよー。俺はただ単に転入生が雄介の事を『ユーちゃん』などと言ってるから、どう考えてもお前の知り合いだとしか思えないんだよなー」

 翔真はニヤニヤ顔でパイをツモりながら話してるけど、顔は僕の方を見たままで。そのけど、「どうなんだ?」と今度は少し揶揄からかい気味の口調で僕を覗き込んだ。

 その雄介が捨てた『八筒パーピン』を見て阿良々木が右手を伸ばしてツモったけど、阿良々木はそれを自分の手牌に入れて、『六萬ローワン』を捨てながら「同感。オレも知りたいなー」と言ってるし、美咲さんも右手でツモりながら僕を見て「雄介くーん、わたしも知りたいぞー」などと言ってニコニコしている。

 まあ、別に隠すような事でもないし、いずれ分かるだろうから、ここで言っても問題ないだろう。

「・・・幼稚園までは一緒だったけど、小学校に入学する時に、僕も姉さんも浜砂はますな市立東部小学校だったけど、彼女はお父さんが札幌支社に転勤したから一緒に札幌へ行ったんだよ。本人がさっき言った通り、札幌に4年、ロンドンに6年で、この4月からお父さんの仕事の都合で浜砂に戻ってきたという訳」

「へえー。という事は、龍潭寺りょうたんじさんとは10年ぶりに会ったという事か?」

「まあ、正しくは昨日の午後、10年ぶりに会った。彼女のお父さんやお母さんと一緒に僕の家へ来たから、姉さんを始め、父さんや母さん、爺ちゃんたちも10年ぶりに会って話をしている」

「なーるほど」

「僕の話が信じられないなら姉さんに聞いてみてもいい。姉さんも僕と同じ事を言うぞ」

「いや、遠慮しておく。愛美めぐみさんは俺に本当の事を言ってくれる保障は全然ない」

「分かってるじゃあないか」

「まあ、阿良々木や美咲ちゃんが相手なら愛美さんも本当の事を教えてくれるだろうけど、俺が相手では無理だろうな」

「その前に南城なんじょうさんが翔真に蹴りの1つでも入れるだろうね」

「あいつならホントにやりかねないぞ」

「南城さんのストレス解消の1つだもんねー」

「俺はあいつの顔を見るだけでストレスが増えるぞ」

「昨日までは春休みだったから翔真も気楽だったろうけど、今日からは毎日クラスで顔を合わせるのは災難だよねー」

「その事だけど、昨日、偶然だけどさあ、朝、俺がLソンから出た時にバッタリ南城と鉢合わせをして、店のすぐ外で互いに暴言を吐きまくった。んで、出掛けるのがバカバカしくなったから、そのまま夕方まで寝てた」

「なーんだ。『お腹を壊した』というのは嘘だったんだあ」

「それは認める。でもさあ、昨日は俺たちが雀荘永谷に集まらなかったことで雄介は得をしたという事だよなあ」

「・・・それは否定できないな・・・(本当はそれがあったから朝倉さんと・・・でも、これは黙っている方が賢明だな)」

「俺は正直うらやましいぞ!スーパーモデル級のクオーター美少女が雄介と幼馴染おさななじみなのは許しがたい暴挙だ!!」

「幼馴染なのが暴挙とか言われてもさあ」

「ま、俺は龍潭寺さんより愛美さんの方が好みだ」



“ぶわーっくしょん!”


「あー、ヨシノン、ゴメゴメン」

「メグミーン、風邪?」

「へ?・・・別に風邪を引いてる訳じゃあないし・・・でもチョット寒気がするかも」

「あのアホがメグミンの事をうわさしてるのかなあ・・・」

「勘弁してよー」

「愛美は翔真君に愛されてるからねー」

「菜々子!」

「あー、わりーわりー」

「はあああーーー・・・覚悟していたとはいえ、あーんなアホと同じクラスになるとはなあ、とほほ・・・」

「「気にしない、気にしない」」

「だあああああーーーーー!勘弁してよー!!」

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