久々に再開するとシナリオについていけない
スラムの一角にある酒場、さらにその店内の一角にあるテーブル。
そこでは今、主人公、ヒロイン、中ボス、そしてウェイトレス姿をした帝国の姫が向かい合っていた。
いみがわからない。
「その服可愛いのね」
「はい、わたくしも動きやすくて気に入っております。予備がありますので、よろしければルーナ様もお召しになりますか?」
「……でも私に似合うかしら。姫みたいに綺麗じゃないから、ちょっと気が引けちゃうわ」
「大丈夫です、わたくしが保証いたします。きっとお似合いになられますよ」
「ふふ、ありがと!」
しかも意気投合している。いみがわからない(二回目)
なんか気がついたら自己紹介も完了していたのだが、王国の王女と帝国の姫って組み合わせとしてどうなんだ。確執とかないのか。いやそれを言ったら王国組には俺の存在がまずアウトになるはずだが、なんだ、いみがわからない(三回目)
「お待たせしました。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
混乱しきりの俺が頭を抱えるテーブルに、そういえば最初に頼んでおいた料理や飲み物が並べられていく。
すっかり忘れていたな、と視線をやったそれらが注文通りのラインナップであることに目を丸くした。
いつもなら十品頼んで正しく出てくるのが三品もあれば良いところなのにめずらしいこともあるものだと、思わず料理を運んできたウェイターを見上げて、俺はそのままぐったりと机上に突っ伏す。
「どうりで聞き覚えのある声だと思った……お前、護衛騎士なら姫が絡まれてるときに出てこいよ」
「グールさん居たんで大丈夫かなと思いまして厨房へ」
「丸投げすんな」
そこに立っていたのは、給仕服をきっちりと着込んだグラフだった。
「あと現状の姫の実力なら問題ないと判断しました」
「ああそうだ、そこだ、なんだアレ。大の男投げ飛ばしてたぞ」
「護身術ですよ。教えてやれって言ったのあんたでしょう」
いや言ったかもしれないが、護身術とかいうレベルだろうかアレは。
困惑する俺の横で、姫が恥ずかしそうに頬に手を当てた。
「色々教えていただいたのですが、わたくしには武器を扱う才能がないらしく……お相手の力を拝借して投げ飛ばしたり、受け流したりすることを覚えるので精一杯でしたの」
「十分だと思います」
思わず敬語になる。
投げキャラ(カウンター特化)の姫って新しいんだろうか、それとも俺が知らないだけでどこかのゲームにはいたんだろうか、と取り留めもないことを考えた。まぁ投げキャラの幼女はいた気がするし有りかもしれない。そういうことにしておこう。俺は思考を放棄した。
「ところで、グラフさんと、姫は……どうしてここに?」
疲れ果てた俺を見かねたように、ソルが話題を繋げてくれる。
するとグラフは何食わぬ顔で空いている椅子に腰を下ろした。姫もそうだが、店の仕事はいいのだろうか。
「質問内容は明確にしろ、見習い。お前が知りたいのは我々の目的か、それともここに至るまでの経緯なのか、その聞き方では伝達に支障が出る」
「はい……気をつけます」
「おい、何だその唐突な騎士節。俺らとはめちゃくちゃ適当に会話してんじゃねぇかお前」
「そこはまぁグールさん達ならいいかなと思いまして」
「さっきから言い訳が雑すぎるだろ」
どうやら騎士団にも運動部みたいな先輩後輩のノリがあるらしい。
普段のグラフを知っている俺からするとお前が言うな感が半端ないのだが、ソルは「……久しぶりに注意された」と少し嬉しそうだ。前世のオレ文化部だったからそういうのよく分からんわ。
「とにかく適当でいいから順番に話せ。まず何で帝都出てきたんだよ、それも姫と一緒に」
「じゃあそれを説明するためにまず聞きたいんですけど、あんた今の自分の状況どれくらい把握してます?」
「クソ皇帝にはめられて帝国軍と勝ち抜きバトルしてる」
「そうですね。皇帝がそれを楽しんでいるのでかろうじて反逆者認定はされてませんが、軍の連中は『血染めの食屍鬼』を討ち取ろうと張り切ってますよ」
帝国軍は内輪揉めや足の引っ張り合いが大好きである。
この場合、俺が本当に裏切ったかどうかは関係なく、目障りな奴を始末する絶好のチャンスだと思っているのだろう。
そのへんは予想の範囲内だが、それが何故この状況につながるのか。上司が揉めたせいで職場での肩身が狭かったとかそんなタマでもないだろうに。
「最初はグールさんが戻ってくるまで様子を見ようかと思ったんですが、むしろ今こそ、計画を実行に移すべきではという話になりまして」
「計画って?」
ヒロインが不思議そうに首を傾げると、そこで姫がふわりと笑みを浮かべた。
「それをお伝えするために、あなた方をお迎えにきたのですよ。ソル様、ルーナ王女様」
「迎え……ってことは、もしかして……」
「はい。わたくし達が“アジト”までご案内させていただきます。詳しくはそこでお話いたしましょう」
その言葉を聞いて、俺の脳はめでたく四回目の「いみがわからない」を吐き出した。
なんで姫達がアジトへの案内人なのか。つまりはレサトも絡んでいるのか。計画とは。
これは、“原作通り”の展開か?
混乱しきりの俺をちらりと見たグラフが、まるで意趣返しに成功したというように、いつもの無表情をめずらしく不敵な笑みの形に変えた。
「後は適当にやると言ったでしょう?」
「いや、適当っつったってお前、まじどういう状況だよコレ」
「多分グールさんの計画には反してないんで大丈夫です。ちょうどいいですからあんたも味わっといてください」
「何を」
「訳の分からないまま気づいたら助けられてる気分を、ですかね。ゾンビ騎士からのお返しです」
グラフの言葉を聞いた姫は思わずといったように小さな笑い声を零した後、一度ゆっくりと目を伏せる。
そして次に瞼を持ち上げたときには、その双眸には何かの強い覚悟が宿っているように見えた。
「参りましょう。この帝国の……いいえ、すべての民にとっての悪夢を、終わらせるために」
ここまで来ると、さすがの俺もなんとなく察してきた。
だがもうあえて言わせてほしい。
いみがわからない(五回目)
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