エピローグは次回作ありそうな感じに


 もう復帰しても大丈夫だろう、と怪我の経過を診てくれていた城下の医者から太鼓判をもらった。

 それでもリエナはまだ心配そうだったが、俺としてはこれ以上寝ていたら心身ともに腐り落ちそうである。


 ゆえに何でもいいから仕事を割り振ってくれと頼み込んだ結果、久しぶりに与えられた任務は、伝書鳩ならぬ伝書食屍鬼としてルーナまで手紙を届けるという至って簡単なものだった。


 これはもしや俺に気を使って無から生み出されたお使いクエストなのではと懸念したところ、リエナはおかしそうに笑ってそれを否定した。


「むしろ適任が見つからずに困っていたのです。重要文書などを託すことの出来る、わたくしもルーナ様も信頼のおける方でないといけませんでしたから」


「さらに手紙も己も問題なく守りきれて、自由に動きがとれる立場の人間。あんたしかいないでしょうが」


 クーデター後の混乱に乗じた帝国軍崩れのバカ共があちこちで悪さをしていて、元から悪かった治安が一時的にさらに悪化しているらしく、そんな中で機密を持ってふらふら歩き回れる人間など確かに限られてくるだろう。


「とはいえ一応治ったばかりなんですから、無茶はしないでくださいよ」


「あぁ、はいはい」


「無茶の基準分かってないでしょうから具体的に言いますけど、道中で絡まれても相手していいのは片道三十人まで。それ以降は全部ジュバに任せること。盗賊狩りは遊びに入りません。あと調子が悪いと思ったら自己判断せずにすぐ信頼できる人間に申告してください。分かりました?」


「俺の親かお前は」


「ふふ。ではジュバ様、グール様のことをよろしくお願いいたしますね」


「おー、やばくなったら団長ごと担いで王都まで届けりゃいいんだろ?」


 人をお使いクエストの一部みたいに扱うな、とこちらがツッコむより早く「そうですねそんな感じで」とグラフが雑に肯定する。


「もしくは三十一人目をぶん殴った瞬間に問答無用で担いでください。そうでもしなきゃグールさん止まらないでしょう、戦うの楽しくなると」


 いつもなら雑魚同然のチンピラを蹴散らしたくらいじゃそこまでテンションは上がらないが、長期療養明けで久しぶりの戦闘ときたら、確かにちょっと楽しくなってしまうかもしれない。

 というかその何人倒したって俺が自分で数えてなきゃいけないんだろうか。右上にスコアとか表示されるわけでもあるまいし忘れそうなんだが。


 まぁでも悪人面と大男のヤバそうな二人組にわざわざ絡んでくるアホはそこまで多くないだろう。こちらの顔と悪行を知っている帝国軍崩れなら尚更だ。



 そう高をくくって、リエナとグラフに見送られつつ帝都を出発したわけだが。



 王都地下水道の入り口。

 こちらの動きはすでに伝わってたのだろう、そこで俺達を待っていたレサトは「グールくん久しぶりー!」と嬉しそうに笑みを浮かべてから、俺を見上げてこてんと首を傾げた。


「ところで、何で肩車されてるの?」


「いつの間にか三十一人目をぶん殴っていたらしい」


「正確に言うと二十六人目から三十五人目までをまとめてぶっ飛ばしたんだよなー」


「お前よく数えてたな」


「見てりゃ分かるだろ?」


 何なんだこのインテリゴリラの無駄スペック。


 王都までの道中は俺の予想に反して、積年の恨みをはらすチャンスとばかりに帝国軍崩れどもが意気揚々と襲いかかってきた。俺ら嫌われすぎだろ。自業自得だし特に後悔もないからいいが。

 ちなみに肩車なのは、俺の心身に一番ダメージのない担がれ方がこれだったからだ。もう途中から超巨大ロボに乗ってると思うことにして景色を楽しんだ。


「う~ん。村や街の守りを優先してるぶん、タチの悪いやつらが外に固まっちゃうんだよねぇ。流通が滞る前に何とかしたいんだけど人手がなー」


「伝書鳩した後でよけりゃ、適当に掃除しとくけど」


「あーいいのいいの! グールくんは心配しないで! 皇帝退治がんばってもらったんだもん、このくらい私達がやらないとね。それにガロットちゃんも張り切ってるし大丈夫でしょ」


「ガロットなぁ……」


 あの拷問大好き元第十軍団長は今、ルーナの配下となって意欲的に働いている。

 いや、今というかだいぶ前からその状態で、最終決戦のあの日に後方から敵を排除していたのもガロット率いる元第十軍だったらしい。


「ルーナちゃんがご褒美にちょこっと踏んであげるだけで何でもやるから便利だよねあの軍団!」


「本当にどうしてそうなった」


 軍団員は元よりドMぞろいだったから分からんでもないが、ガロットのほうは何が起きたんだ。

 しかしおそらく全容を把握しているはずのレサトは何も語らず、「そんなことより」と笑顔で話を切り替える。


「ソルくんもルーナちゃんもお待ちかねだよ! さぁ入って入って!」


 実家だか居酒屋だかといったノリで入り口を開くレサトを見ながら、俺はもはや何も訊くまいとガロットに関する疑問を脳の奥に押し込んだ。世の中は知らないほうがいいことで溢れている。


 そしてようやく肩車モードから解放され、レサトと連れだって向かったのは地下水道の奥、ねじ曲げられた鉄格子がある通路を越えてさらに奥の、地底湖が広がる空間だ。

 前回見たときと変わらず鎮座する巨大な遺物船の前で、ソルとルーナは待っていた。


 こちらに気づいたルーナが、ぱっと表情を明るくしてカンテラ片手に駆け寄ってくる。


「いらっしゃい! あなたが来るってレサトから聞いて楽しみにしていたのよ!」


「はえぇな情報。これ、レサトが伝書鳩やったほうが確実だったんじゃねぇの?」


「あたしのやり方は速いけど何人も経由するからなぁ。簡単に情報漏らすような間抜けは使ってないつもりだけど、機密とか運ぶのには向いてないよ」


「そんなもんか」


「そそ。適材適所だね」


 まぁ向いていようが無かろうが一度引き受けた以上は俺の仕事だ。

 預かってきた手紙を手渡すと、「リエナからね!」とルーナが嬉しそうに笑みを浮かべる。国のあれこれで話し合っているうちに随分と打ち解けたらしい。


 この場で読んでいくつもりのようで、ルーナは持っていたランタンを床におくと、その横にしゃがんでいそいそと手紙を開け始める。

 まるで誕生日プレゼントの封を切る子供みたいな仕草が、少女をめずらしく年相応に見せていた。


 色々と複雑な気持ちもなくはないのだろうが、姫と王女という似通った立場だからこそ共有できる思いもあるのだろう。

 そういえばリエナもルーナと話しているときは何だかんだ楽しそうだったな、なんて思い起こしていると、レサトが俺の腕をちょいちょいと引いた。


「ね、今のうちにちょっとジュバくんお借りしてもいーい?」


「だからそういうことは本人に聞けっての」


「だから団長に聞けってそれでまた言われたんだってば。シメールくんに作ってほしいモノがたくさんあるんだけど、ジュバくん一緒だと交渉が楽だからさぁ」


「お前それ交渉っつーか……いや、いいか。やりすぎないようにしろよ」


「はーい!」


 全力でこき使われているらしいシメールを少しばかり哀れに思った。心から同情する気はさらさらないが。

 そうしてジュバを引き連れて軽快な足取りで去っていくレサトの背中を見送ってから、俺は傍らのソルとルーナに視線を向ける。


「しかしガロットも、シメールも、俺も、今までに結構な数の王国人を殺してきてんだぞ。お前らこれでいいのか?」


 生かしておいていいのか、と言外に含ませた響きにしっかり気づいたらしいルーナが手紙を読んでいた顔を上げ、眉を顰めてこちらを見た。


「自分も含めた上でそういう事を言ってしまうあたりが、あなたの困ったところよね。リエナ達の苦労が偲ばれるようだわ」


「なんでだよ。聞いといて何だけど、仮にそういう流れになったら俺は全力で逃げるからな」


「だといいんだけど。……ガロットやシメールはただの娯楽や興味で何の罪もない人々を手に掛けてきた奴らよ。本音を言えばよくないに決まってるじゃない。今だって顔を見るだけで腹が立つわ」


 言葉通りに腹立たしげな表情を浮かべていたルーナが、しかし次の瞬間にはその眼差しを力強い王女のものへと変える。


「だけど彼らの実力は本物なの。人手も物資も何もかも足りない王国の現状において、それは十分に利用価値がある。民の生活を少しでも早く安定させるためなら多少、いえかなり、すごく腹が立つくらい……ええ、我慢してみせるわよ、一応」


「めちゃくちゃキレてんじゃねぇか」


「とにかく! 現状では彼らの命を奪うつもりはないわ。ある意味、生かしてこき使うのが罰ってところかしら。将来的にどうなるかは分からないけどね」


 そこまで言って、ルーナは気持ちを切り替えるようにひとつ息を吐いた。


「次にあなたの処遇についてだけど。感情的にどう思うかは、あの日に散々言い合ったからいいわよね」


 最終決戦の夜にルーナ達と戦いながらかわした口論、もとい口喧嘩、いや犬の吠え合いを思い出して微妙にこっぱずかしい気分になりつつ「ああ、うん」と曖昧に返事をする。

 そんな俺を見てルーナは思わずといったように小さく笑みを浮かべてから話を続けた。


「まずあなたを殺すのは無しね。そんなことしたら帝都の民に暴動起こされちゃうもの。さっきも言ったけど、今の王国にそれを鎮圧する人員を差し向けられる余裕はないのよ」


「別に暴動なんか、」


「起きないって言える? 毎日山のようにお見舞いをもらうほど帝都の人に慕われているあなたが殺されても? “スラムの女帝”まで敵に回して?」


「あんた、言い様がグラフに似てきたな」


「あら光栄ね。それで? 私達にあなたを殺す利点があると思う?」


「…………ソルは。お前はそれでいいのか」


「あなたのことならば、もちろん。あの二人のことも……ルーナが、それでいいのなら」


 もしものときは俺があの二人を処分しておこうかとも思ったのだが、どうやら余計なお節介だったらしい。


 溜息とともに肩をすくめた俺を見て、ルーナは満足そうに笑ってから再び手紙を読み始める。

 それが終わるまでもう特にやることのない俺は、何くれとなく、この場で一番でかくて目を引く建造物を見上げた。


 遺物船テセウス。

 アストラの王冠は回収したと言っていたが、ソルもルーナも忙しくてそれどころではないのかまだ起動させた気配はない。というか二人は動かし方を知っているんだろうか。


 ゲームではどこで情報が出たんだっけ、と考えかけて小さく苦笑する。


 “未来”にはフラグも強制イベントもない。これをどうするかはソル達が自然に選んで決めることだ。

 いっそこのまま地底湖のオブジェになるのもありなんじゃないか、と物言わぬ遺物船に内心で語りかけていると、ふいに「あの」と声をかけられる。


 思考に沈んでいた意識を引き戻せば、そこには静かにこちらを見上げるソルの姿があった。

 どうかしたかと問い返す代わりに首を傾げてみせると、ソルは短い沈黙の末に口を開く。


「怪我は……大丈夫?」


「大丈夫だから伝書鳩してんだろ」


「でも、たまにつらそうにしてる時あるって、言ってた」


「誰が」


「グラフさん、に、話を聞いたレサトが。あなたは、ぼくらの前だと強がろうとするから、ちゃんと様子を見ておいて、って」


「……………」


 そこの連絡網やっかいだな。

 舌打ちしたい気持ちでいっぱいだったが、じっとこちらを見据える金の瞳の圧力に耐えかねて両手を上げた。


「分かった分かった。下手な見栄は張らねぇよ。多少きつい時もあるが、今んとこは本当に平気だ。移動もほとんど担がれてたしな」


「なら、よかった」


 ほっとしたように表情を緩めたソルは、しかしふと言葉を探すように目を伏せる。

 時間に追われているわけでもないので急かすことなくそれを待っていると、やがて己の中で何かが固まったらしいソルが口を開いた。


「……あと、もうひとつ。ずっと、聞きたかったことが、ある」


「ん?」


「前にあなたから、皇帝が何をしたかったのかを聞いた。今あなたは僕らに、これでいいのかと聞いてくれた。だからあの時ぼくらを……未来を信じてくれたあなたには、ぼくが聞く」


 ソルはいつになく滑らかに、そして畳みかけるように音を紡ぐ。


「あなたはどうしたい?」


 それはほかでもない、俺の未来を問う言葉だった。


 思わず返事に詰まってしまってから、そんな己を取り繕うように頭をがしがしとかき回す。気分はまるで宿題の提出忘れを指摘された子供だ。


 だが俺だって何も考えてなかったわけじゃない。

 なにせここしばらく暇を持て余していたので、自分の今後について思いを巡らせることもあった。

 そのときに思い描いた無難な未来図ならいくつかある。けれどソルが聞きたいのは、そんな大人ぶった順当な答えではないのだろう。


 やりたいことは何かと己に問いかけたとき、まず最初に頭に浮かんだこと。

 可能性とリスクを秤に掛けて、一番最初に捨てた選択肢。


「────外の大陸に行ってみたい」


 そうしてぽつりと零れてしまったのは、凡人にも食屍鬼にもなりきれていない、なんとも中途半端な“俺”の声だ。


 すぐ我に返って口を押さえたが一度溢れた音は戻らない。

 おそるおそる滑らせた視線の先で、ソルが嬉しそうに目を細めて笑うのを見た。


「じゃあ、いこう」


「行こうってお前」


「この船……テセウス? これを使えば外の大陸に行けるって、前にあなたが言っていた」


「言っ、たけどよ。いや、それは、問題あんだろ、さすがに」


「どんな?」


「だから、色々」


「なにか問題があると思うなら、それをぼくらに教えて。今までのことにけじめをつけたいというなら、命をかける以外の方法でどうにかしよう」


 思えばソルはあの決着の日から、緩やかに口数が増えていったように思う。それはきっと故郷を失った時に止まってしまった少年の心がようやく動き出した証拠なのだろう。

 それ自体は良い傾向だと思う、思うのだが、その集大成を何もここで発揮しなくてもいいのではないか。


「みんなで考えて、乗り越えて」


 混乱のデバフでも掛けられたがごとく頭の回らない俺の奥底、惑う心を蹴散らすように、全てを照らす金の瞳が煌めいた。


「生きて、あなたのやりたいことを全部やろう」


 ああ。

 ああくそ。


 ルーナといい、ソルといい、本当に好き勝手なことばかり言ってくれる。

 ひとが無い頭を絞って気を使ってるのに全部蔑ろにしやがって。世の中はそんな簡単じゃない。


「……ふ、」


 そうは思いつつも。


「フフ……ッ! ははは!! なんなんだよお前ら! めちゃくちゃかよ! ハハッ!」


 込み上げてきたのは、どうしようもなく愉快な気分だった。

 涙目になるほど笑い転げる俺をぽかんと見つめていたソルだったが、やがて緩々と笑みを深めていった。


「うん。あなたは、そういう顔をしているほうがいい」


「どういう顔だよ。はー……つか病み上がりでこんな笑うもんじゃねぇな、三十人ぶっ飛ばすよりよっぽど体力使うわコレ」


「……大丈夫?」


 こんなに笑ったのはどれくらいぶりか。いや“グール”としては戦場で高笑いなどもしたが、思えば“俺”としてここまで笑うのは生まれて初めてかもしれない。

 どうにか呼吸を整えて、最後に苦笑まじりの息を吐く。


「まったく、お前らと話してると面倒くさいこと考えてる自分がアホらしく思えてくる。まぁ下手な見栄は張らねぇってさっき言っちまったし、いいか」


「それ、って」


「ああ。俺は外の大陸を見てみたい。今までやらかした事へのけじめのつけ方はこれから考えるが、それが終わったら……そうだな、俺はこの船と、あの王冠を奪いに来てやるから」


 そしていかにも“グール”らしく、にやりと口の端を上げた。


「せいぜい覚悟しとけよ」


「……望むところ、だ?」


 まるで悪役と主人公みたいな台詞を言い合ってから、ソルと顔を見合わせて笑いあう。


 あの凡人が言っていたように、俺がうまく立ち回っていればもっと最良の結末があったのかもしれない。そんな“もしも”の後悔はきっと一生ついて回るのだろう。


 けれど、それでも。爆死するはずだった男が掴んだ未来としてはこれもまた悪くないんじゃないかと、そんなことを考えていた俺の耳に「ならちょうどいいわね」という少女の声が届い……何?


「人里離れた遺跡でも巡ろうかと思っていたけど、新大陸探しのほうが浪漫があるし、あなたと一緒に冒険するのは楽しそう」


 いつの間にか手紙を読み終わっていたらしいルーナが、そう言いながら俺の隣に並んでテセウスを見上げる。

 言葉通り楽しげな少女の横顔を眺めつつ、俺は疑問符で頭の中をいっぱいにしながらおそるおそる声を上げた。


「おい待て。何で一緒に来るみたいな口振りなんだ?」


「んー……そうね、あなたはいつか船と王冠を奪いに来るんでしょう? なら私達はそれを迎え撃つ。そのときにこっちが負けたら両方ともあなたにあげる。後は好きにしていいわ」


「お、おお」


「でも私達が勝ったら一緒に連れていってちょうだい」


「は?」


「元々ソルとも話していたのよ。どこか旅に出ようかって」


「いや、待て、国は?」


「もちろん建て直すわよ。ああ、だから出発は少し待ってもらうことになるかもしれないけど、どのみちあなたも色々やることがあるんでしょう? その間に私も片を付けるわ」


「……えぇ……?」


 混乱しきりの俺を横目でちらりと見て、ルーナは小さく微笑んだ。


「前に言ったこと覚えてるかしら。国に関しては少し考えてることがある、って」


「……言ったか?」


「もう。言ったのよ。それで思ったんだけど、正直どうやっても“元の形”には戻らないのよね。王族も貴族もほとんど処刑されてしまったし」


 俺はだいたい最前線でこき使われていたのでそこらへんの処置には関わっていないが、微妙にいたたまれない気分で話を聞いていたら「やだ、そんな顔しないでよ。別にあてつけてるわけじゃないわ」と逆に気遣われた。だからどんな顔なんだよ。


「それでね、どうせ元に戻らないなら、いっそのこと全部新しくしちゃおうと思ったの」


「家具買い換えるみたいなノリで言うな。……全部って?」


 どこからどこまでだと暗に問いかけるとルーナは先ほどの俺を真似るように、王女らしからぬ顔でにやりと不敵に笑ってみせた。


「知ってる? 古代人の時代には『共和国』というものがあったらしいわ。唯一の王ではなく、民が、自分たちの手で作り上げていく国よ」


 国の根幹から。まるごと。ぜんぶ。


 帝国でリエナがやろうとしていることに勝るとも劣らない大改革を、この少女は成し遂げるつもりなのだと。

 そう察して、せっかく治まった笑いがまたこみ上げそうになる。


「お前らホンットめちゃくちゃだな」


「もちろん、民達としっかり話し合って進めていくつもりではあるけどね。で、それが実現したとき『王女』なんて旧体制の残物があったら、争いのもとにしかならないでしょう?」


「つまり国を建て直したらどのみち姿を消すつもりだったと」


「そういうこと。ね? ソル」


「……うん」


 それにしても“新大陸”なんてソル達の知る常識からすれば眉唾どころかお伽噺もいいところだろうに、よくあっさりと受け入れられるものだ。テセウスの件にしても俺が嘘をついているとは思わないのか。

 いや、それでもきっとこの二人は同じことを言うのだろうなと、その光景が容易に想像出来てしまったから、もう観念するほかない。


「そうだわ。いっそのことみんなで冒険に行くのはどう?」


「みんなって?」


「私達と、あなたと、レサトとリエナとグラフィアスとジュバ」


「ははっ。何だそれやべぇな、カオスすぎんだろ。つかお前ら連れてくのも俺に勝ったらって話だろうが」


「勝ってみせるわ!」


「……負け、ない」


 選んだ未来がどこへ行くかは分からない。


 けれどいつの日か。“俺”が今度こそエンドロールを迎えたその時に、どうだ見たかとあいつにイキり散らせるくらいには、この人生をやり込んでみようか。


「とは言ったものの正直あなた強いのよね。あ、じゃあ戦う時もみんなに協力してもらって」


「やめろ。リンチか」


 一緒に冒険。

 悪くないかもなと思ってしまった自分に、また少し笑った。

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爆死する中ボスに生まれ変わったけど記憶戻るの遅すぎた ばけ @bakeratta

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