未来への道筋
組織としての連携などほぼ取れていない我が国だが、一応会議っぽいものがたまに開催される。
そんなわけで凡人だったオレがアニメでしか見たことのないような馬鹿でかくて長い机を囲んで、皇帝と軍団長たちがずらりと座っていた。
さてここで帝国軍のイカれたメンバーを紹介しよう。
まずは皇帝。相変わらず頭がおかしい。
あとすぐ後ろに、皇帝信者の女幹部が立っている。
第一軍団長、隻眼のタレス。いわずと知れたジジイである。黙って会議のなりゆきを見守っているが、眉間のしわがすごい。
第二軍団長……欠席。こいつは基本やる気のないサボり魔である。
第三軍団長。気の短い過激派だ。
第四軍団長、デフリ。いかにも悪役といった気味の悪さを放つ眼鏡の男だ。俺は「よくない眼鏡」と呼んでいる。なお、よい眼鏡については後述する。
第五軍団長。こいつも皇帝信者らしく、あの女幹部への嫉妬がすごい。
第六軍団長、はりきりマッチョことダズート。相変わらず出世欲がすごい。ゲームと違い、ソルの故郷の仇はこいつという事になってしまったが、どうなることやら。
第七軍団長。食欲がすごい。俺より食屍鬼っぽいと思う。
第八軍団長。マッドサイエンティスト。人間引きちぎりマシーンを作り出した張本人である。
こいつと任務でたまにかち合うけど何か思うところは無いのかとジュバに聞いたら、研究員の顔とかろくに覚えてないしどうでもいい、と言われた。そんなもんか。
第九軍団長。金の亡者である。
第十軍団長、ガロット。拷問大好きおば……おねえさん。
遊び終わったおもちゃには興味がなくなるタイプのようで、グラフとすれ違っても気づきもしなかったらしい。
お前もなんか思うところないのと聞いたら、今なら確実に勝てる相手だし別にいいです、と言われた。なんなのお前らの鋼の精神。
第十一軍団長。各軍から事務作業を押しつけられているオッサン。こっちが「よい眼鏡」である。いつも青い顔で胃を押さえている。
第十二軍団長、血染めの
自他ともに認める戦闘狂で、最近ジュバともども訓練場への出禁をくらった。解せぬ。
とりあえず第十一軍以外みんな頭がおかしい。以上だ。
なお紹介しておいて何だが、覚える必要は特にない。むしろ俺も全員忘れたい。
会議中、俺は皇帝からちょっかいを掛けられないかぎりは基本的に黙っているか、もしくは寝ているが、どうせいつも胸糞を煮詰めてぶちまけたような話しかしていないので別に問題ないだろう。
会議のあと。姫のところに行くため通路を歩いていると、皇帝とジジイが何やら言い争っている……というか苦言を呈しているジジイを皇帝が笑って流しているところに出くわした。
ジジイは、皇帝がまともだったころを知ってる。
だからこそ見限ることが出来ないのか、姫と同じように未だ諦めることなく皇帝のやり方を諫め続けていた。
よくやるもんだと肩をすくめ、とばっちりを喰う前にここから離れるべく身を翻そうとした……のだが。
「やぁグールじゃないか! 会議お疲れさま!」
遅かった。
その無駄に明るい声色に背筋が粟立つ。
皇帝はジジイの横をすり抜けてこちらまで悠々と歩いてくると、俺の目の前でこれ見よがしに己の首にはまった“飼い主の証”をなぞってみせた。
「最近おとなしいよねぇ。もしかして諦めちゃった?」
「…………」
「ま、そんなわけないか。君がどういう計画を立ててるのか知らないけど、楽しみにしてるよ」
がんばってね、と笑顔で言い残して、皇帝はその場を去っていった。
「……確かにここしばらく奇襲かけとらんし、あの方と顔を合わせても大人しいのぉ。前は懲りずにギャンギャン噛みついとったもんじゃが」
まんまと説教をかわされたジジイが、俺の横に並んで軽口を飛ばしてくる。
「あいつに敬語使いたくねぇから黙ってんだよ。くそ、めんどくせぇ命令しやがって」
「この機会に口の悪さを矯正したらどうじゃ。姫にまでそんな喋り方しおってからにオマエは」
「うるせぇな、あんたこそ懲りずにまた説教してたんだろ。どうせ効きゃしないんだからもう諦めろよ」
「主君を諫めるも臣下のつとめじゃ。諦めはせんよ。お前こそ、諦めておらんのじゃろ」
ジジイはニッと笑いながらこちらを見ると、自分の首もとをトントンと指先で叩いてみせる。
それの示すところを察して、俺は小さく息を吐き、皇帝の背が消えた方向を静かに睨みつけた。
『古代人の血』
それは王国の王女であるヒロインが持つ特殊な能力だ。
とある状況で発動するその力は、場にあるすべての
すべての遺物。
ならばきっとこの首輪も例外ではない。
俺は、そのタイミングに賭けることにした。
一応それ以外の機会も伺ってはみるが、ただでさえ「命令」が厄介なのに、それをくぐり抜けてあの歩く遺物兵器庫を相手にするのはやはり分が悪い。
だからとにかく爆死イベントを回避して、どうにか最終局面まで生き延び、ヒロインの力で首輪を解除する。これしかないだろう。
しかしそこに至るまでの道のりを考えるだけで気が遠くなりそうだ。
さっき皇帝に遭遇したこともあり、ムダに疲れた精神をお茶会で回復させるべく、姫の部屋の扉を開けた。
「お願いしますグラフィアス様、わたくしに戦い方を教えてください」
「だから無理だって言ってるでしょう! あなた姫ですよね! 何でそんなもの覚えたいんですか!」
「それは……最近物騒ですから、護身用ですわ」
「理屈は通ってますが常識的に無理です! 立場を考えて諦めてください!」
「いえ、諦めません。引き受けていただけるまで何度でもお願いします」
「この国の人間ほんとおかしい……!
あ、ちょっと、グールさん! あんたもこの人になんとか、」
閉めた。
五秒考えて、見なかったことにして帰ろうとする。
しかしすぐに部屋を飛び出てきたグラフに捕獲された。早いなこいつ。
「急に戦い方教えて欲しいとか言われたんですけど」
「……教えてやれば?」
「一国の姫ですよ?」
「姫が戦えたっていいじゃねぇか」
このゲームのヒロインも王女だけどゴリッゴリに戦ってたぞ。まぁシナリオの中で成長してそうなっていったわけで、今の段階だと少し活発な女の子、くらいのものだろうが。
「……しかし」
「じゃあ動きの基本とか、護身術くらいならいいだろ」
第一うちの姫様は物腰柔らかそうに見えて言い出したら聞かないのだ。
どうせ結果が変わらないのなら、こちらがさっさと折れてしまうに限る。
「ちなみに俺とかジュバには出来ないからな。ボコボコにするのは得意だが、理屈立てて丁寧に教えるとか死んでも無理」
「そもそも期待してませんよ。
…………、はぁ、分かりました。少し考えてみます」
グラフは疲れたように溜息を吐くと、姫と話をするため、渋々部屋に戻っていった。
そうこうしているうちに同じくお茶会に招待されていたらしいジュバがやってきて、部屋の前で立ち止まっている俺を不思議そうに見やる。
「団長、何してんだ?」
「中に入るならあと十分くらい待ったほうがいいぞ、巻き込まれる」
「……あーなるほど」
望んだ未来へたどり着くための道のりは、もしかすると気が遠くなる暇もないほど賑やかなものであるかもしれない。
室内でお互いの妥協点を見いだすための熱い議論が交わされているのを扉越しに聞きながら、そんなことを少し思った。
――――そして、時は過ぎていく。
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