第20話 蚊帳の外
結局、B班の修学旅行は続投になったらしい。とは言ってもそれは全員分の帰りの飛行機のチケットを手配するのに時間が掛かったという理由で、大した観光はしなかったとの事だった。
そしてその二日後の午前中、小春を病院に迎えにいき、寮へと帰宅させた。さらにその日の夕方にはに二年生のB班も全員帰宅したのだった。
すると、サニャ達が小春と食堂で会って話を始めたのだった。春樹はその光景に心臓が飛び出しそうだった。
「いやぁ、本当無事で良かったよ小春ちゃん」
リンファが小春の肩に手を乗せて声を掛ける。サニャは後方から笑顔を向けている。
「皆さんも無事でよかったですね。ニュースで見てビックリしましたよ」
「ま、俺達が乗っていた飛行機が事件に巻き込まれたわけじゃなかったけどな」
小春の言葉にクレイが答える。
「春樹君もやっと安心出来るね。これでまたいつものシスコンっぷりが拝めるよ」
ポールの冗談に皆が笑う。なんだかそれはお互いの無事を確かめ合う一見暖かい雰囲気のようにも思えた。しかしこれは修羅場なんてものではない、ロベルの、そして世界の危機である。アイは小春にいつ憑依してサニャを襲うか分からないのだから。
小春をサニャに近づけさせなければいいのだが、しかしアイに言われている、小春にはロベルの正体を話すなと。そうなれば従うしかない。小春が見聞きした事は全てアイに筒抜けなのだから、隠れて伝える事は出来なかった。
しかし考えてみると、サニャは小春の顔にアイが感染している証である紋章が見えているはずである。それなのになぜあそこまで近づいているのだろうか。サニャのあの余裕の表情は何なのか。春樹は困惑するばかりであった。
◇
その夜、状況を確かめたかったらしくシャーリーが自室にいた春樹に電話を掛けてきた。
『そんなに近くまで二人は接近していたの……?』
「えぇ……正直見ててハラハラでしたよ」
『でも、結局何も起こらなかったなんて……一体どういう事なのかしら』
「まぁ、途中で気付いたんですけど、おそらくクレイ達がボディガードになってるからじゃないかと思います」
『ボディーガード……?』
「よくよく観察していると、小春とサニャの間には常に、クレイやリンファ、ポール、そのうちの誰かしらが割って入っているようでした。彼ら三人は神の感染者です。だからむやみにアイも手が出せないのでしょう」
『え……っと、待ってよ春樹君。ボディガードって事はその三人はこの神様とアイさんの戦いの事情を知ってるって事なの?』
「えぇ、おそらくそうでしょう。神は複数人同時に操れる訳ではありませんからね。三人が連携しポジションを考えて行動してるとなれば、そういう事なのでしょう。あの三人は神に憑依されているとかではなく、サニャに直接自身を護るように命令を受けているんです」
すると電話の向こう側でシャーリーが「うーん」と唸りだした。
『でも、それでもやっぱり分からないんだけど……』
「何がです?」
『いくらボディガードがいるとは言っても、どうしてサニャさんはアイさんにそこまで近づくんだろ。自分の命がかかってるんなら、どこか遠くにでも、誰も知らないような場所にでも逃げちゃった方がいいと思うんだけど』
「確かに、それは僕も思いました」
『そうだよね。私なら正直そうしちゃいそうだなぁ。いつ殺されてもおかしくないなんて耐えきれないし……そりゃあ今の生活を失っちゃう事にはなるのかもしれないけど……』
「そうですね。でも、それにも実は理由があるんです」
『え……?』
「おそらく神にとっては今がピンチであると同時に逆転のチャンスなんです」
『逆転の……?』
「えぇ。アイは小春のような感染者を通じて神に自身を感染させんとする時、憑依しなくてはなりません。つまりその時、神に自身のオーラが目撃されてしまうんです。そうなればアイは神に距離を測定されてしまう。アイの感染は諸刃の剣と言えるでしょう」
『諸刃の……』
「もしアイが一撃でサニャを感染させる事に成功すれば、アイにとって何の問題もありません。しかし、ホディガードの存在などにより感染を防がれ神がその場を逃げ切ってしまった場合は、一気にアイが不利になってしまうかもしれない」
『え……でも一気に不利って、そこまでいくのかな。だってオーラを確認しても距離しか分からないんだよね? 何度もオーラを確認しないとなかなか本体の場所って絞られないんじゃ』
「それについては、神とアイは条件が結構違いますからね。神はすでに世界中に自身の感染者を保有しています。監視カメラがそこらじゅうにあるような状態です。それなら距離が分かるだけでも、下手すればかなりアイの候補は絞られてしまうのではないでしょうか」
『そっか……』
しばしの間ふたたびシャーリーは考え始める。
『でも、それって場合によってはアイさんは人混みの中にいたりして中々絞り込めないかもしれないし、やっぱり常に周囲に気を配ってる必要がある神様の方が不利なように思えるけど』
「まぁ……それは確かに、そうですね。そこはもしかしたら神のプライドがあるのかもしれないですね。こんな問題で、動じる訳にもいかない的な……」
『そんなものかしら……』
「それ以上の事は想像でしかありません。既にこれは神々の戦いと言えるのかもしれません」
春樹は息を吐きながら若干投げやり気味に言った。
『……なんだか春樹君、少しふてくされてる?』
「はは……そうかもしれませんね。神のために何かできればとも思いますけど、結局僕が知ってる事なんて、アイという存在がどこかにいるという事くらい。そんな事はもう神も知っている。何を考え推測した所で今僕達に出来る事なんて何もないんです。完全に蚊帳の外ですよ」
◇
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