第11話 案外頭のキレるやつ

 次の日、春樹は一度寮に帰り、監視カメラの録画データが入ったメモリーカードを手にして、再びシャーリーの家へとやってきた。


 円卓の上にシャーリーに手に入れさせた学校の一階平面図兼敷地図を広げる。


「ロベルの憑依者が発生した場所はここ」


 アイが、その地図の学校の傍の道路にバツ印をつける。あのスーツの男がいた場所だ。


「そしてそいつから発生したオーラによると、ここから本体までの距離は約四十五m」


 そしてコンパスを手に持ち、その×印を中心に半径四十五mの円を書いた。もちろん、その地図の縮尺で四十五mである。そしてそれは学校の図面なので実際には半円程度になる。


 すると、やはりというべきか、その円のラインは寮の建物の上を通る事になった。


 男子寮と女子寮は二の字に並んでおり、その二つともを垂直方向にラインは横切っている。


「……これで大分絞れた事になるな」


 一回平面図なので、どの部屋を通過しているのかまでその図面で確認する事が出来る。


「ちょうど部屋と部屋の間にある壁辺りをラインは通過している。誤差は五m程度と考えると、その更に隣の部屋にいる部屋も候補にいれた方がいいわね」


「だとしたら一階につき、男子寮、女子寮合わせて八部屋ずつという事になるな。寮は三階建てだから……合計は二十四部屋か」


 アイは平面図と照らし合わせながら、寮の名簿にその候補となる部屋の住民の名に○を囲む。


「つまり、こいつらの中に神がいるって事ね」


 一階、二年生の名簿を見て春樹は結構な衝撃を受けていた。なぜなら二年生の候補八人のうち四人が春樹と深い関わりのある人物だったからだ。


 ポール・ドール、クレイ・レッドハート、リンファ・スー、サニャ・マスカトーレ。まさか彼らの中にロベルが……?


 候補は絞れたが、それは今のところ部屋の位置だけである。そのオーラを観測した時間に彼らが自室にいるとは限らない。不在だったかもしれないし、他のルームメイトを連れ込んでいるという可能性だってある。


 そこからその検証を始める事にした。もちろんその方法は共用廊下に仕掛けた隠しカメラの映像を見る事である。約七時間にも及ぶ動画を五倍速にして三人で眺める。


 その結果、事件を起こした時間が時間だけあって、ほとんどの候補が自室にいた。例外はその時外にいたあの三年生だけであった。


「じゃあこれで、神の候補者は一人だけ減って二十三人って事ね……」


 シャーリーがそう呟く。


「いえ、待ってください。この時点でもまだ神の候補者は減らせるはずです」


「え……? 一体どうやって?」


「神に感染している人間は神じゃないはず。そうだろアイ」


「ん……? まぁ……それはそうね」


「だとしたら……少なくともポール、クレイ、リンファの三人はロベルの候補から外れるな。あいつらは神に感染してるはずだから」


 春樹の言葉にシャーリーは「あぁ……」と納得する。


 他にも感染していると聞いたメンバーはいくつか知っている。ロベルの候補者が少なくなるという事はロベルにとって不利な事ではあるが何となく友人は外しておきたいものだ。


「でも、分からないわよ。それってあんたが本人から聞いただけなんでしょ?」


「え……? あぁ……まぁ」


「社会的信頼を得るために、自身を感染者と偽っている者もいるって聞くわ。結局自己申告だけじゃ、何の証明にもならない。それは私がこれから先確認していくしかないわ」


 その三人を春樹は信じないわけではないが、確かにそれはその通りかもしれなかった。


 シャーリーは「確認って……一体どうやって?」とアイに質問をする。


「忘れたの? 私の目には感染者の顔に紋章が浮かんで見える。だからそれをしばらく学校の近くに張り付いてこのロベル候補の顔を一人一人確認して行こうと思うわ。まぁ、二十人程度にまで絞られたんなら、そう時間は掛からないでしょう」


 シャーリーはアイの説明に納得したらしかった。


「それにしても二十三人って既にもう結構少ないわよね。ここまで絞れたなら、この二十三人全員に感染を仕掛けてしまえば……」


 シャーリーはそんな発言をしたあと「はッ」と気付いたように顔を上げてアイに目を向けた。


「あ、い、いや、そのでも、やっぱりやめた方が……」


 目が泳いでいる。どうやらアイにヒントを与えてしまったと思っているらしい。


「そうね、それはやめておいたほうがいいわね」


「え、え……? どうして?」


「知ってるでしょ。感染は『感染主本体』か『感染主に憑依された者』にしか出来ない。なぜなら感染には感染効力を込めた血液が必要で、それは感染主の意思を持つものにしか作り出せないから。私は誰かに私を感染させる時、憑依しなくてはならないの。それで一発でロベルを当てることが出来ればいいけど、外したらどうなるかしら。もしその時のオーラをロベルの感染者に見られれば私の本体までの距離がロベルに知られてしまう。そうじゃなくても、感染させたら私の存在がロベルに知られてしまうでしょ。顔に紋章が出ちゃうんだから」


「あぁそっか……なるほどね……」


「もうちょっとちゃんと考えてから発言してくれる?」


 ここまでの言動を見て春樹は思う。アイは目的や動機はイカレてはいるが考えなしという訳ではない。もしシャーリーがロベルを倒そうと思ったら速攻で自滅してしまいそうだが。


「基本的に外すことは出来ない。感染のチャンスは一度しかないのよ」


 アイはなかなか頭が切れるかもしれない。しかしそれでも春樹はアイに勝てる気がした。もう弱点は分かっている。あとはチャンスさえやってくればアイ本体を特定出来てしまうはずだ。


 ◇

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