第7話 神の特定方法
「ところで、あんた達が幸運にも、この私に選ばれた理由は分かるかしら?」
一体どこが幸運だというのか。アイは指先をシャーリーへと向けた。理解力テストか何かのつもりか。とっさに使命されてシャーリーは肩をビクつかせた。
「え、えっと……私達が免役者だから?」
「うん。じゃあその免疫者が選ばれた理由は?」
今度は春樹が指先を向けられる。
「……俺達がもしこれから先神に感染したら神に記憶が読み取られてしまう。そうなればお前の存在や、やろうとしている事が神に筒抜けになってしまうからだろ。俺達ならその『もし』がない。感染しないからな」
「へぇ……あんたはやっぱり色々と察するのが早いわね」
シャーリーは春樹の後ろで「なるほど」と頷いていた。
「さて、大体の説明は終わったわね。じゃあ本題に……あんた達やってもらいたい事について話す事にしようかしら」
するとアイは人差し指を立たせた。
「まずひとつに寮生の監視。誰がいつどこにいるのか、正確に把握しなくてはならない。という事で寮には監視カメラを仕掛けてもらうわ」
その言葉に春樹はシャーリーと目を合わせる。実際これからそんな事やらなければならないと考えると不安で一杯になる。
「次に二つ目」
そういってアイは中指を追加するように立てた。
「あんた達には、学校の傍で何かしらの事件を起こしてもらうわ」
「じ、事件ってそんな……」
シャーリーがアイに抗議の声を上げるが、アイは気にする様子もなく話を続ける。
「事件が起きればロベルは近くの感染者に憑依して対処しようとしてくるはず。私は隠れてその時憑依者から発生するオーラをこの目で目撃する。あとは、監視カメラで録画した映像と照らし合わせて人の場所を確認すればロベルの本体は絞られていくはず。そういう算段よ」
確かに、それでロベルは特定可能だろう。しかし随分簡単に言ってくれるものである。
「……神が降りるような事件っていうと、死傷者が出るレベルの事件という事になるぞ」
アイは「えぇそうね」と、当たり前だというように返事をする。どうやら倫理的な問題はアイにとってどうでもいい事らしい。
「……問題はその事件を起こしたあと、俺達は神から逃げ切らなくてはならないということだ。神は人間の身体能力を限界まで引き出す事が出来る。普通に考えれば逃げ切る事は難しいぞ」
「ま、それはこれから何とか作戦立ててやるしかないわね」
どうやらそれに関してはまだ考えていないらしい。春樹は軽くため息をつく。
「それとひとつ聞いておきたいけど、その事件の時の憑依者の確認はどうやるつもりなんだ」
「そうね、遠方から望遠鏡で確認するのが一番いいでしょうね。もしくは車の中にいれば近くにいても大丈夫だと思うけど」
「車……? しかし、お前車なんて持ってるのか?」
「持ってないけど、持っている人ならそこにいるわ」
「え……」
アイの視線に顔をこわばらせるシャーリー。どうやら移動手段として見られているらしい。
「さて、今日の話はとりあえずここまでにしておきましょうか。具体的な話は明日にでも進めていく事にしましょう。まずは生活の基盤を何とかしなくてはならないわ」
「生活の基盤……?」
アイは「えぇ」と返事をしながらシャーリーに目を向けた。
「あんた、ひとり暮らしのはずよね」
「え? えぇまぁ……」
春樹は知らなかったが、小春の記憶によるものだろうか。
「だったら私を今日から泊めなさい」
「えぇっ」
「ここじゃお風呂にも入れないのよ。食べ物もないし、このままじゃ餓死するわ」
確かに、よく見ると小春の頭は少しベッタリとしている様子だ。
「で、でも……それって私が小春さんの誘拐犯ってことにならないかな……」
「は……? そんなのなんだっていいわよ。どうせこれから犯罪行為に手をつけるんでしょ。かわいい教え子の体を気遣いなさいよ」
「そ、そんなぁ……」
するとその時春樹もシャーリーに体を向けた。
「先生、申訳ないですけど俺からもお願いしていいですか」
「は、春樹君まで……」
「中身はアイかもしれませんけど、体は小春なんです。小春にホームレスでいさせるのは心苦しいので。生憎俺は寮に住んでるので泊めさせる事は出来ませんし……」
シャーリーは「うーん……」と唸ったあと、深いため息をつき「……分かったわ」と潰れたスライムのような顔をして渋々と了承した。
そこから、三人はその場をあとにする事にした。
ホテルから出るとアイはシャーリーの車の後部座席へと腕と足を組んでドカリと座った。
「この車、後ろがスケスケね。スモークを張らないと私の顔が見られてしまうわ」
勝手にアイが車の改造計画を始める。春樹はシャーリーに向けて声を掛けた。
「……じゃあ、こいつの事、よろしくお願いしいます」
「え、えぇ……」
「こいつ呼ばわりしないでくれる。殺すわよ」
春樹はアイを無視しながら話を進める。
「そういえば先生、連絡先を交換しておきましょうか。携帯の番号と……あと自宅の番号教えてくれますか。先生が家に不在の時、アイと連絡を取るかもしれないので」
そして春樹とシャーリーはお互いの電話番号を交換した。
「じゃあ、何かあったらいつでも電話してきてください」
「う、うん……じゃあまた明日ね春樹君」
そういうとシャーリーはアイを乗せて車を発進させて行ってしまった。
あるで嵐が過ぎ去ったような気分だった。まさかあんな存在がこの世に現れるなんて。
春樹はクロスバイクの元に向かいながら頭の中を整理した。
ロベルやアイ、感染主は特殊能力を持った人間で、お互いの感染者や、憑依した姿を目撃する事によってその本体への手がかりとする事が出来てしまう。
春樹はちょうど偶然にも感染主同士の戦いに巻き込まれた形になったと言える。
クロスバイクの元まで辿りつくと、それに跨った。
この状況はかなり絶望的と言えるかもしれない。春樹の心には大きな不安がある。しかし、まったく希望が見えないわけではない。
やるしかないだろう。春樹は心に決めてペダルに体重を掛け坂を下っていったのだった。
◇
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