第17話 ハイジャック

 その頃、春樹達B班が乗る飛行機……ではなく、A班が乗る飛行機のコクピットでは。


 機長と副機長がいてオートパイロットに切り替えたところであった。


 そしてその機長には現在アイが憑依していたのだった。アイは機長の記憶を頼りに滞ることなく離陸し空の旅を続けている。副機長は何の疑いも持っていないようだ。


 こんな事はアイ以外の人物は誰も知らない。もちろん春樹やシャーリー、小春もだ。これはアイが単独で誰にも教える事なく遂行している作戦なのである。


 アイはこれまで複数の感染者を作り出しそれを経由してやっとこの操縦士までたどり着いた。


 感染した者は命をネタに脅して誰にも見られないように自宅で待機させてある。とは言っても今日一日だけと言ってあるので、小春と違って、その先の生活の事などは考えなくてもいい。


 もちろん、ここまでくるのにアイは自身の顔の紋章や、オーラをロベルの感染者に見られてしまう可能性があった。それは一種の賭けではあった。しかし、アイはなんとかここまでやってきたのだ。こうなればもう、ほぼアイはロベルに勝ったようなものだろう。


 時刻を確認する。現在春樹達B班も今飛行機に乗っているはずだ。そろそろ作戦を実行に移してもいいだろう。


 アイは持参したバッグを開けて、その中から改造スタンガンを取り出した。


「ん……?」


 すると、副操縦士が不思議に思ったのか、その様子を見てきた。


「な、なんですか、それ」


 次の瞬間アイは副操縦士の首元にスタンガンを当ててスイッチを入れた。


「ンギャッ!?」


 ビクリと体を痙攣させ、どうやら彼は一瞬で意識を失ってしまったらしい。椅子の上でぐったりとしてしまった。


 アイはその様子を見てニヤリと笑うと、オートパイロットを解除し操縦桿を掴んでそれを押した。するとそれに合わせ、機体は急下降を始めた。街の様子が正面に見え、アイは強い浮遊感に襲われる。


「はは……! さぁ、来るがいいわ……ロベル!」


 後方から小さく叫び声が聞こえてくる。今頃客席はパニック状態となっているはずだ。


 このままいけば、この飛行機は街に突っ込む事になるだろう。そして数多くの死傷者が出る事になる。だが、それを許さない存在、ロベルがこの場にやってくるはずだ。


「機長! どうされましたか!?」


 ドンドンと扉を叩く音がする。客室乗務員だ。しかしアイは返事をしない。下降を止めようとはしない。ちなみにコックピットは客室側からロックを解除することは出来ない。


 その時、「私は神です。ここを開けてください」そんな言葉がアイの耳に入った。


 よし……!


 アイは次の瞬間、扉のロックを解除し、憑依を解いた。操縦士が「ハッ……!」と意識を取り戻す。これで少なくともアイはロベルにオーラを見られる事はなくなる。


 すると、扉が開かれ、客室側から女子学生が姿を現した。


「大丈夫ですか!? これは一体……」


 その姿をアイの感染者である操縦士が見た時、アイは心の中でガッツポーズをした。


 やった……やはりロベルは来た! オーラを確認することができた!


 それによると、どうやらロベルはここから50kmほど離れた位置にいるらしい。


 つまりこの機体には乗っていない。ロベルは今、完全に一人にまで絞られたということだ。


「うっ!?」


 どうやらロベルも機長の顔を見て、その顔に浮かんでいる紋章を見て、重大な事実に気付いたらしい。


「まさかお前は……別の感染主か?」


 その通り。だが、もうアイの存在がバレた所で問題は何もない。


「え……」


 当然、機長はロベルの質問の意味が理解出来ていない。そして機長はその時、自身の置かれている状況に気付いたようだった。


「な、なんだ……!? いつの間にこんな事に」


 慌てて操縦桿を手にし、機体の上昇を始める機長。しかし、それをロベルが咎める。


「……そこを変わりなさい。私は神です。私が操縦します」


 ロベルは自分が置かれている立場を理解してはいるのだろうが、その対応は冷静であった。


「か、神……ですか? し、しかし、この機は私が操縦しなくてはなりません……!」


 もしかしたら機長は、そのロベルの姿が女子高生であったために、信じ切れていないのかもしれなかった。むしろだからこそ、信ぴょう性があるともいえるのだが。


「わからないのですか。そのあなたが今このような状況を作り上げているのです」


「それは……」


「この先もあなたがどういう行動に出るか分かりません。安心してください。私にはもちろん操縦技術があります。代わっていただけなければ、力づくでも、ということになります。乗客全員の命が掛かっているのですから容赦をする事は出来ません」


 そう言われ機長は自身で操縦する事を諦めたようだった。女子高生に席を譲り渡し、自身は乗客室の方へと向かう。


 その後、A班の乗る飛行機は無事、近くの空港に降り立つことになった。


 かわいそうに、その操縦士は資格をはく奪されてしまうだろう。アイが白状しない限りは。


 ◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る