君のためなら死ねる

「ちょ、早っ。まだ心の準備が」


 せっかくカッコつけたっていうのに、あっという間に弾丸の雨が刺さる。こっちはハンドガンだってのにあっちはアサルトライフルだ。装備が違い過ぎて、侑紀先輩と二人ハチの巣にされてしまった。


「シゲくん、ダッサーい」


「あんなの反則ですよ。こっちの弾は届かないんですよ!」


 侑紀先輩は一瞬で退場したのに楽しかったらしく、さっきから笑いっぱなしだ。俺が撃たれて地面を転がっていたのがツボだったらしい。


 試合は俺たちと逆側を攻めたチームメイトがフラッグを奪って勝利。さっくり終わってしまった。その後は初心者同士の撃ち合いなんかをやらせてもらって、初めてのサバゲーは終わった。


「いやー、ごめんごめん。向こうのベテランとかちあっちゃったね」


「全然。結構楽しかったよ」


「明日は筋肉痛になりそうですけどね」


 迷彩服を脱いで装備を返すと、急に体が軽くなったように感じる。やっているときは気にならなかったけどやっぱり装備は重かった。


「そっかー。よかった。また参加してよ。それじゃMVPにはプレゼントがありまーす」


「へー、豪華ですねー」


 やっぱりモデルガンとかミリタリー関係かと思ったんだけど。


「あ、あれ!」


 侑紀先輩の顔つきが変わる。大きな袋から出てきたのは真っ白でふかふかとしたさっきまでのサバイバルとは真逆の代物。


「あれは、マシュマロワンコ。しかも特大サイズ」


「なんか世界観が壊れてる。ってか欲しいか?」


 今朝、ここまで乗せてきてくれた筋肉質の男が満面の笑みでぬいぐるみを天に掲げている。全然似合っていないけど、本人はかなり嬉しそうだ。


「我が活躍に一片の悔いなし!」


「いいなぁ」


「侑紀先輩、イカリクマ以外のキャラクターも好きですよね」


 バッグについているのは変わらず俺がプレゼントしたものだけど、侑紀先輩の使っているグッズは日々変わっている。


「でもぬいぐるみはスペースとるしなぁ」


「でも欲しいんですよね?」


「やっぱりわかる? もうアタシのことわかってるね」


 先輩の何倍も俺は先輩と一緒にいる。そろそろ思っていることも予想できるようになってきた。筋肉質な男がかわいいぬいぐるみを抱えている姿はギャップを超えて雑なコラージュにすら見える。


「プレゼントしましょうか?」


「んー、でも今度遊園地に連れていってもらうからなぁ。もらってばっかりじゃ悪いし」


「じゃあ、ここでMVPをとればもらってくれますよね?」


「次のサバゲーってこと? 楽しかったからまた来るのはいいけど、経験者には簡単に勝てなさそう」


 侑紀先輩はロッジの中を見渡した。誰もモデルガンを持っていないけど、みんな肉体派で俺が勝てそうな相手はいない。ただ一つ、勝つ方法はある。勝てるまでやればいい。


 リセットしてデバッグルームに戻ったら、作戦計画の始まりだ。


「おい、大丈夫か、四五郎?」


「どーしたのよ?」


「サバゲーに誘われるなんて初めてだぞ。あんなこと一度もなかった」


「俺っちもよくわかんないのよね。神様になったばっかだしさぁ」


「お前本当に神様なのかよ」


 なりたての付喪神がどのくらいの力があるのかわからないが、四五郎を見ているとそれほど人間と変わらないように見えてくる。むしろチャイコンの中に入っていて、こうして画面に映さないといけない分だけ不便にすら感じられた。


「じゃあこのリセットでまたサバゲーに行くかはわかんないってことか」


「まぁまぁ。ゲームにはランダム要素はつきものじゃん?」


「RTAにとっては辛いんだよ」


 リセットボタンを押してまた人生を開始する。クリアまでどれほど時間がかかるかわからないけど、最後まで走り続けるしかない。


 同じようにサバゲーに誘われて、同じ作戦で広場の前に陽動部隊として配置された。相手に見つからないように前のときよりも低く隠れながら考える。


 とにかく必要なことは侑紀先輩を守ること。それからMVPを獲得すること。これはフラッグを奪ってくればきっといけるはずだ。


「問題は初めてってことだよな」


「大丈夫だって。アタシも初めてだし。撃たれても死なないから」


「まぁそうなんですけど。やっぱり即退場じゃおもしろくないでしょう」


「じゃあシゲくんがアタシを守ってね」


 本物の戦場でこんなことをやっていたら死亡フラグにしかならないけど、ここはサバゲーだ。そして俺は何度だって挑戦しなおすことができる。


 開始を告げるサイレンが鳴る。それと同時に俺は身を潜めたまま、一発だけ弾を撃つとすぐに移動を開始した。


「どこ行くの?」


「相手もこのあたりに潜伏してると思うんですよ。だからこうして場所を誤解させるんですよ」


 さっきは真正面から突撃してアサルトライフルにハチの巣にされた。武器の差は埋められないんだから逃げるしかない。木の幹に身を隠しながら相手の横をとる、つもりだった。


「敵影発見!」


 広場の敵に注意していたら、中央ルートを進んでいた敵に見つかって撃たれる。やり直しだ。


 今度は中央側じゃなく、フィールドの外周を回るようにして広場を抜ける。最初に俺たちがいた方を気にしている敵兵の姿を捉える。


「敵兵発見! 撃てー!」


「大声出したら負けますよ」


 そう言いつつ先制攻撃で発砲する。この距離まで詰めていれば小回りの利くハンドガンでも十分勝てる。


「討ち取ったりー」


「それじゃ戦国武将みたいですよ」


「いいの。こういうのはノリが大事でしょ」


 待ち伏せしていた二人をヒットで退場させて、気が大きくなった侑紀先輩は先へと進んでいく。


「さっきまで守って、なんて言ってたのに」


「我々に撤退の二文字はない。全速前進だー!」


「そんな考えなしに進むと」


 周囲も警戒せずに侑紀先輩は茂みの中をどんどん進んでいく。そんなことをすれば当然敵の警戒にひっかかってしまう。


 銃口が三つ。こっちに向かって放たれる。


「危ない!」


 覆いかぶさるように侑紀先輩をかばう。その背中にプラスチックの弾が刺さる。


「ニセモノなんだから当たっても死んだりしないのに」


「すいません。なんか熱くなっちゃって」


「うーん。カッコよかったから合格かな」


 俺に押し倒された侑紀先輩は無防備ということで無抵抗で二人揃ってヒットということになる。守るっていう約束は守ったけど、MVPには遠そうだ。


 それでも嬉しそうな侑紀先輩を見ていると、リセットは少しだけ待とう、と思ってしまうのだった。

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