お助けキャラ「ヒントを聞きますか?」
遊園地に誘うことは決まった。それでもやっぱり形に残るものを渡したい。そのためのプレゼントを探しに俺はふらふらと池袋を歩いていた。女の子にプレゼントなんてしたことない。一応侑紀先輩にマグカップをプレゼントしたのはカウントしていいのか?
「かといって純に聞くといろいろ面倒だしなぁ」
会いたいとか言い出すに決まっている。そして彼女だと勝手に決めつけて侑紀先輩を困らせるに違いない。
「こういうときって服とかアクセサリーとかバッグとか? でも俺が選んだところでな」
それにせっかく侑紀先輩も俺の前では飾らないでいいと思ってくれてるんだから、そういうものを贈ってもダメだろう。
池袋に来ると足は自然とサンシャイン通りに向いた。ゲーセンがいくつもあるから、何も考えていないとつい向かってしまう。
「そういえばこのへんにアニメショップあったな」
どこかの角を曲がれば全国展開している大型のアニメショップがあったはずだ。マンガやラノベだけじゃなく、グッズ関連もあったはず。
「ちょっと行ってみるか」
普段は近くで済ませてしまうことが多いからな。こういうときに行ってみると何か発見があるかもしれない。
店舗は五階建てで上まで全部オタク向けの商品だけが並んでいる。同人誌も少し取り扱っているみたいだった。
グッズのあるフロアに向かうと普段はあまり見ない作品の棚に向かってみる。育成シミュレーションが好きみたいだし、ブラウザゲームとかもやってるのかな。戦艦がモデルの擬人化ゲームの辺りを見ていると、向かいから見知った顔が現れた。
「ああぁぁぁ」
「俺の顔を見るたびに叫ぶのやめてくれよ」
叫び声を聞くと嫌でも思い出させてくる。タイツーの店員、辻さんが両手に同人誌を抱えて立っていた。
「あなたは救世主様!」
「いいかげんその呼び方やめてくれよ」
「では宮崎さん。こんなところで何を?」
「いや、近くに寄ったからちょっと寄ってみただけ。あ、お金は貸さないからな」
両手で抱えた同人誌は結構な数がある。この擬人化ゲームは男性向けのなんだけど、やっぱり女の子でもやる人はいるみたいだ。
「だ、大丈夫。たぶん、足りますし。足りなかったら諦めますし」
声がだんだんと小さくなっていく。俺と同じでバイト代の大半を趣味に使いこんでいるタイプだ。
「もしかして宮崎さんもこのゲームやってます?」
「いや、俺はコンシューマ専門だから」
「そっかぁ。お仲間発見かと思ったんですけど」
辻さんは残念そうに声を漏らす。人気ゲームなんだから探せばいくらでも同志はいるだろう。でもそういうことじゃない。侑紀先輩と一緒で、気兼ねなくゲームの話ができる仲間が欲しいってことだ。
「でもやらないのにグッズを見に来たんですか?」
「いや、侑紀先輩はこういうのやるのかもと思って」
「あぁ、あの彼女さん。ゲーム好きでお付き合いできるの羨ましいですね」
なんか勘違いしてるけど、このままでもいいか。そう思ってふと気がついた。明確に俺に協力的でゲームオタクで女の子。プレゼント探しのアドバイザーとしてこれほど適任もいない。
「そういえば渋谷で助けたお礼もしてもらってなかったな」
「あ、千円だったら、今日は手持ちが……」
「それはまた今度でいいから」
涙目になっている辻さんに乾いた笑いを返す。欲しいものが買えないのは辛いからな。
「侑紀先輩、ゲーム好きの女の子のプレゼントってどういうのがいいか教えてよ」
「ゲーム関係の方がいいんですか?」
「いや、それがよくわからなくて。割とレトロゲーが好きなんだけど」
あとはキャラクターグッズが好きなことは知っている。でも告白のときにそんなんでいいんだろうか。古いドラマだとこういうときはバラの花束だと相場が決まっているんだけど、想像しただけでさすがの侑紀先輩も苦笑いを浮かべそうだった。
「やっぱり身に着けられるものがいいんじゃないですか? デートのときにつけていけますしイヤリングとかネックレスは服と違って毎回つけていてもおかしくないですし」
「そういえばキーホルダーもずっとつけてるな」
「もらったら何でも嬉しいものですよ」
そういえば俺もキャラもののマグカップなんて今まで使わなかったのに、今は愛用といっていいほど使っている。もらったものは嬉しくてつい使ってしまうのだ。
「最近はラフな格好で会ってくれてるし、下手にアクセサリーってのは」
「ラフファッションなら金のネックレスとかがいいらしいですよ。私はつけないからよくわからないですけど」
「そういうものなのか?」
金のネックレスなんてヤンキーがつけてるイメージしかない。ある意味ラフファッションを極めてるヤツらではあるけど。
「金色ならキャラものでも見てすぐにはわからないのでオシャレしやすいですよ」
「ファッションって難しいな」
「私もネットの受け売りなので自信はないですけど」
ゲームの衣装なら見ただけですぐわかるのにな。DLCみたいにコスチュームをそのまま売ってほしい。それが侑紀先輩の言うところのマネキン買いってヤツなんだろう。
「そういうグッズが多い通販サイト知ってますよ。実物は見れないのがちょっと難点ですけど」
「そういうの教えてもらえると助かるよ」
そんな情報は純からしか入ってこないし、あいつはゲームはやるけどオタっぽいグッズとかは買わないんだよな。
「うらやましいですね。優しくされて」
「別にそんないいもんじゃないよ。俺が勝手にやってることだから」
「自分のことを考えて行動してくれる人がいるってだけで素敵なことですよ」
通販サイトの名前を教えてもらって店の中で別れた。友人というほど仲がいいわけでもないし、そのまま一緒に行動するのも変な話だ。それに自分の趣味の時間はたっぷり自分だけで楽しみたいものだ。
さっそく帰って教えてもらったサイトにアクセスしてみる。辻さんの情報は完璧で、アクリルキーホルダーやカラビナ、それから時計、イヤリング、指輪にネックレス。アニメショップでもなかなか見ない少し高価なものもある。
「これプラス遊園地か。五万円あれば十分足りそうだな」
今は手元にないが、予定では入ってくるお金がある。ここで一日しっかり楽しんで最後にカッコよく告白する。それでゲームクリアだ。
「うまくいってくれればいいけど」
不安が残るのはやっぱり人生ってのにはクソゲー要素が多すぎるからだろうな。
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