Loop9 チート武器を手に入れろ!
はじめてのさばげぶ
有効な手段を思いつかないまま、時間だけが過ぎていく。部室で侑紀先輩と一緒にゲームをするのは何度やっても楽しいんだけど、今は焦りだけが頭に浮かんでいた。
もう二度とこの部室が荒らされる姿は見たくない。そう思っていながらも今までのルートをただなぞっていくことしかできなかった。
「なんか最近暗いねー、何か悩みごと?」
「えぇっと、ちょっと」
「先輩に相談できないこと?」
侑紀先輩に顔を覗きこまれる。言えるはずがない。もし浅尾先輩が俺に嫉妬して部室を荒らそうとしている、と言ったところで信じてもらえるかもわからなかった。
「そっかー。でも話したくなったら言ってね」
「すみません」
侑紀先輩は俺から顔を離すと少し寂しそうに微笑んだ。あのときはすぐにリセットしてしまったけど、荒らされた部室を見たら侑紀先輩も悲しむに違いない。二度とあんなことはさせないつもりだ。
「ねぇ、せめて気分変えてみない? もしかしたら悩みがちょっと軽くなるかも」
「どこか出かけますか?」
「うーん。何するかは秘密。汚れてもいい服だけ持ってきて。金曜日に講義終わったらここに集合」
はっきりと言ってくれない侑紀先輩のお誘いの内容も気になったけど、それ以上に俺の内心は動揺していた。
こんな話は初めてだ。宝くじの番号を調べるために何度かこの日に部室でゲームをやっていた。でも金曜日に出かける誘いを受けたのは初めてだ。乱数? それとも俺が悩んでいるから別ルートに入ったのか?
とにかく新しいルートがあるなら調査してみるしかない。それにしても汚れてもいい服ってボランティアの掃除でもやるんだろうか。
約束の金曜日、キャンパス内の更衣室で古着のティーシャツと少しくたびれたジーンズに着替える。部室に向かうと、侑紀先輩も同じような格好だった。その隣に初めて見る女の人が立っていた。
ショートカットの黒髪にスレンダーな体型。それに不釣り合いな大きなバッグを背負っている。ギターかなにかでも入っているように見える。
「ほほぅ、これが噂の宮崎くんかー」
「いつ噂になったことがあるの?」
「えー、だって侑紀がいつも話してる男の子でしょ?」
そう言われると恥ずかしい。侑紀先輩も同じようで少し顔を赤らめながらこっちを睨んでいる。
「私、侑紀の友達の小宮山ももね。宮崎くんの話はいつも聞いてるよ」
「はぁ、よろしくお願いします」
さっきから侑紀先輩の視線が怖くて下手なことが言えない。当たり障りのない答えを返すしかなかった。
「えっと、ところで今日はどこに行くんですか?」
「え、聞いてないの?」
「汚れてもいい服で、としか」
「完全に素人かー。でもそれもおもしろそう。すぐ車回してもらえるからちょっと待ってて」
小宮山先輩の宣言通り、数分でサークル棟の前に大学には似合わないジープが走ってくる。舗装されたアスファルトじゃなくオフロードで走っていそうな重厚なフォルムは、車に興味がない俺でも男心がくすぐられる。
運転手は厚手の服の上からでもわかる筋肉質な肉体。ゲームばっかりの俺とは真逆の存在に見える。侑紀先輩は友達にゲームの話がしにくいと言っていたけど、これならその理由もわかる気がする。
連れていかれた先は山の中腹にある小さなロッジだった。キャンプかと思ったけど、中に入ると名前もわからないライフルが並んでいた。他にも硬そうなゴーグルや迷彩柄の服が並んでいる。
「よ、もうみんな集まってるよ」
店員は一人で、若い男の人だった。運転手と同じくらい高い背。半袖からのぞく腕の太さが俺の二倍はありそうだった。
「ここ、なんのお店ですか?」
「聞いてないの? 今日サバゲーやるって」
「聞いてないですよ!」
汚れてもいい服ってこれから山の中を駆けまわるってことだったのか。
「ってことは初心者だね。よし、まずはレンタルの装備を選んでいこうか」
言うが早いか、俺のサイズを一瞬で察知したように迷彩服から防弾フェイスガードが手渡される。着るだけで強くなった気がするからこういう服の効果はすごいな。
「最後にとりあえず反動の小さいハンドガンからかな」
「これ、ニセモノですよね?」
「もちろん。でも当たったら痛いから気をつけてね」
本物の拳銃なんて撃ったことはない。ただ持っただけで少し軽いと感じるのはやっぱり人を殺す武器じゃない、ニセモノだからだろうか。
ロッジの裏の道を進み、ロープをくぐって少しだけひらけた場所に出た。五対五の少人数のチーム戦になるらしい。
「ってか俺、完全に初めてなんですけど!?」
「大丈夫大丈夫。弾が飛び交うドッジボールみたいなものだから」
「いやそれもう別ゲーでしょ」
俺のツッコミを無視して、挨拶を済ませた両チームが自分の陣営に向かう。ここにあるフラッグがとられるか、全員撃たれたら負けになる。
見えない速さで小さな弾が飛んでくるのに避けられるはずがない。お互い茂みに隠れると、作戦会議が始まった。
「向かって左が障害物が少ないから陽動に使えそう」
「正面突破を狙って突撃しつつ、右の茂みにフラッグ要員を残すとか」
作戦会議が進んでいくけど、俺は何が何だかさっぱりだ。言われた通りに動くしかない。ゲームのコントローラーなら初めて持っても何とかなったりするものだけど、モデルガンじゃ今までの経験は役に立ちそうもない。
「向こうも初心者混じりだからちょっとゾンビになったくらいなら優しく教えることー」
「ゾンビってなんですか?」
「弾が当たっても気付かないまま退場しない人もいるから。意外と服が厚いから当たったかどうかの確認はしっかりね」
ハンドガンの撃ち方を簡単に教えてもらって、言われた配置につく。俺の仕事は侑紀先輩と一緒に陣地から見て左に進んで相手の意識を奪うこと。
陽動、と言えば聞こえはいいけど要するに直接戦闘すると足手まといにしかならないから広いところで好き放題撃っていいってことだ。
「侑紀先輩は結構サバゲーやるんですか?」
「ううん。これが初めて。何度か誘われたんだけどやっぱり難しそうで。でもシゲくんが一緒なら初心者一人じゃないしいけると思って」
「道連れですか。おもしろそうだからいいですけど。俺一人じゃ一生やらなかったでしょうし」
スタートの合図はまだない。敵も配置についているはずだけど、ここからは見えなかった。そもそも今から見えてたんじゃ陽動にもならない。隠れて息を潜めつつ、開始と同時に急に飛び出して相手の焦りを誘う予定だ。
「でも、これって当たると痛いんだよね」
「服の上からならそれほどでもないみたいですけど」
「ちょっと怖いなぁ」
「わかりました。俺が侑紀先輩を守ってみせますよ」
開始の音がフィールドに響く。それと同時に小さな広場の向こう側から弾が飛んできた。
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