Loop2 当たりカードは何処へ?
運ゲーでも一等が欲しい
中央通りをまっすぐ歩いていると、ビルの一階のイベントスペースが盛り上がっているのが見えた。平日の割にはかなりの人で賑わっている。
「なんのイベントでしょう?」
「考えるよりまず行ってみよ」
どうやらキャラクターグッズのイベントらしい。こういうのにはあんまり詳しくないけど、女性向けのちょっとふてくされたようなクマのキャラクターが並んでいる。
「うちわにぬいぐるみにキーホルダー。そういや電車で見たことあるような」
目つきの悪いクマにどれほどの可愛さが詰め込まれているのかわからないが、ぱっと見た感じだとそこまでいいとは思えないけどなぁ。
「侑紀先輩もこういうのって」
好きなんですか? と聞こうとしてやめた。振り返った先ではもうキーホルダーとマグカップをつかんでさらにグッズを漁っている侑紀先輩の姿があった。コレクターとしてはこういうイベント限定のグッズなんて見逃すわけにはいかない。
「まぁ俺もそういうのわかるな」
コラボティーシャツなんかが売り出されると、全種類買いたくなってしまう。シリーズが続いているゲームだと昔のドット絵調のティーシャツが売られたりするのだ。買った後はタンスの中にしまうだけなんだけど。
「今日は来て正解だったね。シゲくんが誘ってくれたおかげだよ」
「いや、偶然ですよ」
もしかして次に出かけるときも何かイベントやってる場所がいいかもな。調査しておこう。
「じゃ、ちょっとこれ買ってくるね」
レジに向かっていった侑紀先輩を見送って、その間にスマホでキャラクターグッズのイベントを探してみる。どれが好みかは後で聞いてみればいい。
「ただいま。思わぬ収穫だったー。ささ、次はご飯だね」
そう言って会場を離れようとしたところに、一枚のチラシが差し出された。
「これからビンゴイベントのカードの配布を始めます。よかったら参加していってくださいね」
「ビンゴ?」
「景品付きじゃないですか。ちょっと見ていきます?」
「え、でもお腹空いてない?」
俺を心配するように言った侑紀先輩だけど、視線はチラシから一ミリも動く気配はない。一等賞は特大ぬいぐるみ。絶対欲しいんだろうな。
「えっと、やっていっていい?」
「もちろんですよ。二人なら当たる可能性も二倍ですから」
笑顔を隠し切れない侑紀先輩と一緒に行列に並ぶ。ほどなくして二枚のビンゴカードが手渡された。
「当たった人から順番に景品がもらえるみたいですね」
「つまり一番最初にビンゴを揃えればいいってわけだ」
狭い会場にはビンゴの番号を待っている参加者がざっと五〇人はいる。この中で一番となるとかなり運が必要だ。
「中央のフリーマスは開けましたかー? それでは大事な大事な一つ目でーす!」
イベントステージではスタッフのお姉さんが箱の中から紙を選んで取り出す。
「最初の番号はー、十三番、十三です!」
「お、俺はありましたよ」
「アタシのは、ないや」
「まぁ、まだ一つ目ですから。これからですよ」
その後も番号が進んでいくが、侑紀先輩のカードは一向に穴が開いていかない。レアカードも引いたことがないって言ってたし、もしかしなくても侑紀先輩って運悪いタイプなんだな。俺や浅尾先輩に気に入られるあたり、男運も悪そうだ。自分で言うと悲しくなってくる。
侑紀先輩のカードに穴が開くことは最後までなく、俺のカードは滑り込みで五等賞に入り、シールカードのセットをもらうことができた。
「なんとか当たりましたよ」
「アタシがもらっていいの?」
「もちろんです。一等じゃなかったですけど」
「うん、ありがとう」
侑紀先輩がシールカードを受け取ると、好感度アップの効果音は鳴った。でもやっぱりこれが正解とは思えない。一等を当ててプレゼントした方がいいはずだ。
「よし、リセット!」
視界が暗転して、デバッグルームに戻ってくる。すると驚いた顔の四五郎が画面に映っていた。
「どうしちゃったのよ? さっきのは好感度上がってたじゃん」
「やっぱり一等賞のぬいぐるみの方がいいだろ」
「まぁ、そうかもしんないけどさ」
「なんだよ、何か引っかかるところでもあるのか? 浅尾先輩より先に告白しなきゃいけないんだから、早く上げた方がいいだろ」
四五郎は俺の話を聞きながら、少し呆れたように溜息をついた。チャラ男にやられるとそれだけでめちゃくちゃ腹が立つ。
「いや、成彰くん。忘れてるみたいだけどさ。俺っちセーブ機能ないからまたカートからやり直しだよ?」
「ヤッベ、忘れてた」
どうせならこの先のイベントも確認しておくべきだった。
「じゃ、最初から頑張って~。はーい、よーいスタート」
「次からはリセット押す前に言えよ」
四五郎に愚痴をこぼしながら、俺はまたあの飲み会に戻っていった。
カートに乗って坂道を下ってからまたビンゴ会場に戻ってくる。まずは数字の確認だ。前回と同じ数字が選ばれているなら当たりのカードをもらってくればいいことになる。
穴を開けた位置ならだいたい覚えているけど、順番までは自信がない。何とか思い出しながら、ビンゴカードを進めていくと、同じように最後にギリギリで五等賞に滑り込んだ。
「どうやら同じみたいだな」
うろ覚えだけど、順番も同じだった気がする。ってことは一等を引いた奴が持っているカードを探してやればいいわけだ。
「問題は覚えてられるかってことなんだけど」
ここまで来るのに難所を乗り越えてこなきゃならないのだ。その上で当たりのカードを持っている人を探さなきゃならない。
「とりあえず一等をとった人はどこ行ったんだ?」
「もしかして譲ってもらおうとか思ってる?」
「まぁ、ある意味では」
「そんなことしなくていいよ。今回は運がなかっただけなんだから。それよりヤケ酒しよう! ファミレスでいいよね?」
侑紀先輩に引っ張られて近くの格安のファミレスに入った。入るといつも頼んでしまうドリアと辛口のチキン。侑紀先輩はパスタにヤケ酒の宣言通りグラスワインを注文している。
「残念でしたね」
「でもぉ、シゲくんにシールもらったから。大切にするねぇ」
喜んでくれている侑紀先輩だけど、やっぱり一等賞の方がいいよなぁ。ヤケ酒という割にはグラスワイン一杯で十分酒が回って、口調はぼんやりとしている。真っ赤な顔でパスタを回している動きも少し寂しそうに感じた。
「やっぱりぃ、ぬいぐるみ欲しかったなぁ」
真っ赤な顔で侑紀先輩はそうつぶやいた。やっぱり欲しかったんじゃないか。後輩にいいところを見せようとして我慢していただけだ。
「そうですよね。やるしかないよな」
先輩の顔を見ながら、俺はリセットボタンに手をかける。先輩と一緒にいる時間は楽しいけど、それはこのシーンをクリアした後の楽しみにとっておこう。
「リセット!」
さぁ、あの一等賞のぬいぐるみを手に入れるルートの調査開始だ。
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