第35話 即決着

 セレストたちの言う通り、何も心配する必要は無かったようだ。


 森の中に立ち入った敵軍の様子は木に隠れて見えなくなったが、森の中のあちこちから、男性の苦しそうな声や叫び声が聞こえてきた。それから、女性の勇ましい声も聞こえてくる。丘の上に居る、僕の耳にも聞こえてくるぐらいの大音量だった。


 時折、アマゾネスの女性が戦況報告をするのに僕たちの居る丘の上に走ってくる。セレストが報告を聞いて、瞬時に次の指示を出していた。


 森の中で始まった戦いは、アマゾン国が有利。1万人で攻めてきた敵軍を、順調に撃退しているようだった。


「この程度か」

「そうですね。もう少し、手こずるかと思いましたが……。万が一のために用意していた策も無駄だったようですね」


 戦況を聞いて、残念そうにニア王が呟く。それに同意をするセレスト。彼女たちは戦いに物足りなさを感じているらしい。まだまだ全然、余裕そうだった。


 セレストは、勝つための策も準備していて、用意周到だという。手抜かりがない。彼女が用意していた策とは、一体なんだろうか。


 しばらくすると、森の中から新たな鳴き声が聞こえてきた。木々の間からチラッと姿も見える。魔物の大群だった。森の中の戦場に、魔物が集まってきていた。


「これで、敵軍も混乱状態に陥るでしょう」

「終わりだろうな」


 アマゾン国、敵軍、そして魔物による三つ巴の戦いとなっていた。


 セレストは余裕そうな表情で、変化した状況を見守っていた。


 そうか。僕の持つ魔物寄せのスキルによって、引き寄せられた魔物たちが戦場内に集まってきたのだろう。セレストが用意していたという策の一つが分かった。


 入り乱れた戦いの中に魔物を巻き込んで、敵軍にパニックを起こさせる。


 森の中というフィールドはアマゾネスたちにとって有利だろうし、各自の戦闘能力も高い。普段から、魔物を狩って戦いにも慣れている。戦場内に魔物も巻き込んで、さらに有利になるような状況にしようというのか。


 数だけは多い敵軍、さらに戦況は不利になっていきそうだ。




 僕は、戦いの場から離れた後方から状況を眺めいてた。戦況はアマゾネスにとって圧倒的に有利。それでも僕は戦いの行方がどうなるのかヒヤヒヤしながら、みんなの無事を祈っていた。


 すると突然、陣の背後に異変が起こった。敵軍が攻めてきている前線とは逆の方向から、男性の声が聞こえてきた。ここには、男性の僕と、女性であるアマゾネスたちしか居ないはずなのに。


 背後から現れたのは、武装した敵軍。後ろでどっしり構えていた大将ニト王の命を狙ってやってきた、敵軍の別働隊が居たらしい。


「死ねぇ!」

「!?」


 とっさに、僕の体は反応して無意識に動いていた。万が一のために、腰から下げていた剣を引き抜く。声を上げ、ロングソードで斬りかかってくる男性とニト王の間に僕は飛び出た。


「ぐっ、邪魔だッ!」


 血走った目で見てくる、男性の攻撃を正面で受け止める。思ったよりも、パワーが弱い。簡単に対処することができた。少し前に鍛えていた成果なのだろう。


 僕は剣に力を込めて前に押す。男性の体勢を崩した。


「うわっ!?」


 武器のロングソードを取り落し、地面に倒れ込んだ敵の男を、僕は見下ろす。


「ふん」

「あ」


 いつの間にか、武器を手に持ち僕の前に立っていたニト王が敵を躊躇なく斬った。思わず声を漏らして、その光景を見る僕。


「戦いで男に庇われる経験というのは、初めてだ。だがまぁ、なかなか良かったぞ」


 ニト王は地面の上に倒れている男にとどめを刺しながら、僕に笑顔を浮かべ言う。どうやら僕が助ける必要もなく、彼女は奇襲してきた男の攻撃を楽々と対処していただろう。


 周りを見てみるとアマゾネスたちが他にも、ニト王の命を狙って不意打ちしてきたのだろう、敵の始末をしていた。


「しかしこれは、我々の獲物だ。残念ながら、奪わせないぞ」


 そう言ってニト王も、丘の上で始まったアマゾネスたちの戦いに混ざり、奇襲してきた敵を次々と倒していく。


「うぐっ……」

「こいつで最後か」


 最後に1人残った男は、ニト王が息の根を止めて終わった。あっという間に、敵の別働隊は全滅していた。


「敵の策も、予想していた通りですね」


 前線から大きく迂回をして、後ろに回り込みニト王が控えている陣を狙って敵軍が来る。セレストも予想していた作戦だったらしい。


 ただ、僕が敵の前に飛び出していくのは予想外だったようで、危ないからと注意をされた。思わず体が動いてしまったので僕にとっても、予想外だ。でも、身を挺して女王を守る心意気は良かったと、褒められもした。


「思ったよりも、今回の戦いは呆気なかったな」

「もう決着を、つけてしまいましょうか」


 ニト王とセレストが、あっさりとした口調でそんな会話している。


 日が暮れる前には、目の前の森から戦いの音が消え、静かになっていた。こうして隣国との戦争は、1日も経たずに決着がついた。


 敵軍の犠牲者多数、アマゾネスの負傷者は少数にとどまった。割り込んできた魔物も大量に狩った。アマゾン国の大勝利、という結果で戦いは終わったのだった。

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