第33話 戦争の始まり

 隣国は、最近までずっと内戦状態だった。王国と貴族に対抗するため武器を取り、革命を起こした国民たち。その革命が成功していたらしい。


 僕は半年ぐらい前の、アディと初めて出会ったときのこと、聖女と呼ばれる人物と出会ったこと、それからアマゾン国に来る前に立ち寄ったネフィアニルという街での出来事を思い出す。


 ネフィアニルの住人が、ジョゼットたちの力を借りて貴族の軍を返り討ちにした。用事を終えて、街から出る彼女たちを呼び止め、引き止めようと聖女を無視して出てきた、あの街がある国だ。


 たしか、ヘルムという男性がネフィアニルの住民たちを指揮して国と戦っていた。彼からも引き止められたが、ジョゼットが断って依頼を終了させた。


 そうか。あの時の戦いは、最終的に市民が勝ったということか。


「革命軍の勝利で、内戦は終結したようです」

「国民の勝利で終わったのか。それなのに、次の戦いの準備を進めているのか?」


 商人から隣国で起こった革命の結末を伝え聞く。戦いが終わったのにも関わらず、また戦争を起こす準備を進めている、という情報を商人から知らされた。


 一体どういうことなのか、話を聞いていたジョゼットが情報を伝えてくれた商人に尋ねる。一緒に話を聞いている僕も、セレストも気になっているところだろう。


「そうなんです。しかも噂では、次に目標としているのがアマゾン国のようです」

「うちに攻め込もうとしているのか?」


 ジョゼットは、驚きながらも嬉しそうに商人に聞き返した。普通なら心配したり、怖がったりする反応を見せるのだろうが、アマゾン国の住民である彼女は逆の反応を見せる。


 彼女が浮かべる笑顔の迫力に押されながら、恐る恐る頷き返す商人。そしてなぜか商人の視線が、僕の方へと向けられた。


「実は。そちらにいる男の子が魔物寄せというスキルを持っていると隣国では、言い広められているようですね。少し前から王国に魔物が集まって甚大な被害を受けた。その原因が、アマゾン国にあると」

「!?」


 まさか、また魔物寄せのスキルが問題を引き起こすことになるだなんて。ようやくアマゾン国のみんなに受け入れられて、ありがたがられて、自分の持つスキルを受け入れられるような気がしていたのに。まだ、面倒ごとの原因になるなんて……。


 けれど、ジョゼットもセレストも、どちらも責めるような視線を向けてこなかったので、僕は安堵する。


「なるほど、魔物寄せのスキルが戦争を引き起こす理由にされているというのか」

「その情報を流したのが、革命軍のトップだった聖女と呼ばれる人物です」


 聖女、と聞いて僕は驚く。


「聖女……、確か、ネフィアニルの酒場で会った女ね」

「あぁ。あいつか」


 聖女のミルアという人物が、現在の革命軍を率いているらしい。森の中で出会い、ネフィアニルの街へ向かう道中を一緒した、彼女の顔を僕は思い出した。


 ジョゼットとセレストの2人も、すぐに思い至ったようだ。ネフィアニルの酒場であった出来事を彼女たちは覚えていた。


 その聖女が、僕のスキルに関する情報が広めた。あのネフィアニルの酒場で、話を聞いていたから知っていた。


 あの時、引き止めようとする聖女を無視してアディたちは酒場を出た。あの時の事を恨んで、復讐しようとしているのか。


「現在、元王国は聖女がトップに君臨しています。その彼女が、アマゾン国に目標を定めているようですね」


 革命が起こって、支配階級を倒して政治権力を国民が握ったような状況に見える。だが実際は、隣国は教会の支配する国になった。実質、権力を握っているのは教会の人間であると商人は隣国の状況について説明する。


「それで、商人テゲルも裏から戦争の支援をしているようです」


 テゲルが各方面と取引して武器や防具を買い漁っていたのは、新しい仕入先を開拓するためではなく、戦争の支援をするためだったらしい。


 商人テゲルと取引を打ち切りにして別れる間際に言い放った捨て台詞、”この判断を後悔することになるぞ”とは、この事を指しているのだろうか。彼も、アマゾン国に対して復讐心を持っていそうだ。


 なんとなく関係する人間と、経緯が見えてきた。なぜ、アマゾン国に攻め込もうとしているのか、その理由を。


「まぁ、攻めてくるというのなら返り討ちにしてやるさ」

「防衛に備えましょう」


 商人から伝えられた情報を聞き終えたジョゼットは力強く言い放って、セレストは防衛の準備を進めようと提案していた。



***



 しばらくして、使者が送られてきた。僕は、奥で待機させられて後で話を聞いた。


「そちらに居る、魔物寄せというスキルを持つ人物を引き渡してもらいたい」

「断る」


 使者を迎えるニト王が、即答で引き渡しを拒否したという。


「要求を受けないというのなら、困ったことになるぞ」

「いつでも大歓迎だ」


 眉をひそめて遠回しに脅すような言葉を告げる使者に対して、笑顔を浮かべながらニト王は答えたらしい。提案を受け入れられず、使者はすぐに帰っていったそうだ。


 それからすぐ、商人から伝え聞いた情報通り、隣国がアマゾン国に攻め込んできたのだった。


 戦争が始まった。

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